16 / 32
一年目 十一月上旬 生物学者・矢野沙織
しおりを挟む
「だから、貴方では話にならない。本当の責任者は誰ですか?」
大学にやって来た公安の刑事2名が、矢野にそう言ったのは、この1時間で8回目だった。
「だから、私が座長です」
「意味が判りません」
「意味が判らないのは、こっちです」
「では、一体、あの機密を誰が漏らしたんですか?」
「ああ、確かに情報が漏れる虞れが有る事に気付かずにやったのは、調査委員会のミスです」
「では、何故、情報が漏れたのでしょうか?」
「そりゃ、判りませんよ。多数の人間が、異常に気付いても仕方がないようなDNA解析に関わった以上、心当りは山程有ります」
「おい、君達、何をしている?」
その時、4人目の声がした。
「だ……誰?」
「内閣官房の宮崎幸二だ。誰の許可で、内閣直属の調査委員会の座長を取調べている?」
「い……いや……我々も上から国家機密漏洩の容疑で、この女性の上司が誰かを調べろと言われて……」
「上司? ウチの学科の学科長とかですか?」
「いや……だから……その『調査委員会』の本当のリーダーは誰だ、と何度も言ってるでしょう」
「だから、何度も言ってるでしょう。私です」
「じゃあ、その調査委員会における上司は?」
「えっと……宮崎さん……。総理大臣と官房長官のどっちですか?」
「官房長官になります」
「そんな馬鹿な」
「何で『そんな馬鹿な』になるんですか?」
「いや、だから……貴方が、いわば『神輿』なのは誰の目にも明らかでしょう」
「何で?」
「だって……女だ……」
「もういい。帰りたまえ。帰って監査官への言い訳を考えておく事を推奨する」
「へ? 何のおどしてですか?」
「この調査委員会に関わっている官僚の1人の中学生の娘さんが行方不明になっている。数日前からストーカーらしき妙に身形がきちんとした複数名の男に付き纏われていて、地元の警察に相談していたんだよ」
「そ……それが……何か?」
「不幸にも、護衛していた警官達は何者かに叩きのめされ、その娘さんの死体が見付かった。その件に関する取調べだ」
「はあ?」
「警視庁の公安は……一体全体、何をどう勘違いして、何の目的で動いてたんだ?」
「あの……宮崎さん……」
「先生……何でしょうか?」
「この際、判っている事を、全部、公表しましょう。全国民と全世界に向けて」
「で……ですが……」
「どうやら……一部の公的機関が……『私達が陰謀論に取り憑かれて、妙な動きをしている』と云う『陰謀論』に取り憑かれてしまって、妙な動きをしてるとしか思えないんですが?」
大学にやって来た公安の刑事2名が、矢野にそう言ったのは、この1時間で8回目だった。
「だから、私が座長です」
「意味が判りません」
「意味が判らないのは、こっちです」
「では、一体、あの機密を誰が漏らしたんですか?」
「ああ、確かに情報が漏れる虞れが有る事に気付かずにやったのは、調査委員会のミスです」
「では、何故、情報が漏れたのでしょうか?」
「そりゃ、判りませんよ。多数の人間が、異常に気付いても仕方がないようなDNA解析に関わった以上、心当りは山程有ります」
「おい、君達、何をしている?」
その時、4人目の声がした。
「だ……誰?」
「内閣官房の宮崎幸二だ。誰の許可で、内閣直属の調査委員会の座長を取調べている?」
「い……いや……我々も上から国家機密漏洩の容疑で、この女性の上司が誰かを調べろと言われて……」
「上司? ウチの学科の学科長とかですか?」
「いや……だから……その『調査委員会』の本当のリーダーは誰だ、と何度も言ってるでしょう」
「だから、何度も言ってるでしょう。私です」
「じゃあ、その調査委員会における上司は?」
「えっと……宮崎さん……。総理大臣と官房長官のどっちですか?」
「官房長官になります」
「そんな馬鹿な」
「何で『そんな馬鹿な』になるんですか?」
「いや、だから……貴方が、いわば『神輿』なのは誰の目にも明らかでしょう」
「何で?」
「だって……女だ……」
「もういい。帰りたまえ。帰って監査官への言い訳を考えておく事を推奨する」
「へ? 何のおどしてですか?」
「この調査委員会に関わっている官僚の1人の中学生の娘さんが行方不明になっている。数日前からストーカーらしき妙に身形がきちんとした複数名の男に付き纏われていて、地元の警察に相談していたんだよ」
「そ……それが……何か?」
「不幸にも、護衛していた警官達は何者かに叩きのめされ、その娘さんの死体が見付かった。その件に関する取調べだ」
「はあ?」
「警視庁の公安は……一体全体、何をどう勘違いして、何の目的で動いてたんだ?」
「あの……宮崎さん……」
「先生……何でしょうか?」
「この際、判っている事を、全部、公表しましょう。全国民と全世界に向けて」
「で……ですが……」
「どうやら……一部の公的機関が……『私達が陰謀論に取り憑かれて、妙な動きをしている』と云う『陰謀論』に取り憑かれてしまって、妙な動きをしてるとしか思えないんですが?」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる