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悪夢!! 昭和の有名作家の全集を出す事になったら、担当編集者が表現規制派でした!!
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「何で、こんな無粋な註釈を入れる必要が有るんだよッ? しかも、先生本人に確認しろって……どう云う事だよ?」
昭和期に「SF御三家」と言われた内の1人である郡山藤政先生の全集の企画をある出版社に持ち込んで採用された……までは良かったが……担当編集者が控え目に言っても色々とおかしい野郎だった。
「いえ……今の読者からして『あれっ?』と思う点には註釈を入れるべきでしょう。そして、註釈を入れるには、郡山先生御本人に確認を取らないといけない事も有りますよね。郡山先生が御存命の内に、変な点は確認した方が……」
「御存命ったって九十過ぎてんだぞ」
「ですので、一刻も早く確認を……」
「大体、『その女はヒスを起こした』にも註釈が要るって、何の『言葉狩り』だ?『言葉狩り』のせいで、筆を折りかけた人の全集で『言葉狩り』をやるのか?」
「いや、越谷さん、貴方の肩書は一応『評論家』ですよね?」
「それがどうした?」
「今の読者からして、疑問に思う点を解説するのも評論家の仕事でしょう」
「いや『ヒスを起こした』のどこに解説の必要が有るんだよ?」
「あの……郡山先生の大学時代は文学部心理学科でしたよね?」
「それが……?」
「そこの箇所の『ヒス』が『ヒステリー』の意味だったら、心理学的に間違った使い方です」
「はぁ?」
「『ヒステリー』の意味は、元々、今で云うパニック障害です。元々の意味の『ヒステリー』を起こしてる人には、俗語の意味の『ヒステリー』を起こす事は困難です。心理学科出身の郡山先生が知らない筈が有りません」
「え……ええっと……」
「なので、郡山先生御本人に、ここで『ヒスを起こした』と云う表現を使われた意図を確認して下さい」
「いや、当時はヒスをそう云う意味に使ったの。何なら今でも、そんな使い方してるだろ。郡山先生御本人が言ってるよね。『どんな表現にも、その時代の時代性が有るから、後世になって表現を変えるべきじゃない』って」
「『今の基準で過去を裁くな』って奴ですか」
「そう云う事だ」
何なんだ、こいつは? 若いのに、こんなに頭が固いなんて、先が思い遣られる。
ところが、そいつは、付箋が山のように貼られた郡山藤政先生の著書を取り出した。
「何だ、それは?」
「郡山先生が昔書いたエッセイです」
「見りゃ判るよ。その付箋は何だ?」
「郡山先生が御自分の作品を悪く批評した批評家の悪口を書いてる箇所です」
「はぁ?」
「郡山先生の作品に関しては『今の基準で過去を裁くな』は成り立ちません。郡山先生御本人が、当時の基準でどれだけ御自分の作品が罵倒されたかを事細かに書き残してるので」
「でも、後世に残ったのは、そんなクソ批評じゃなくて郡山先生の作品の方だろ」
「つまり、郡山先生の作品は無条件で肯定すべきである、その為なら『その時代の基準』と『後の時代の基準』を恣意的に使い分けても良い、と」
「もういい。君とは信頼関係を築けない。編集長に言って担当を変えてもらう」
「わかりました。実は、そろそろ会社を辞めようと思ってまして」
「へっ?」
「実は、僕、兼業作家でして……」
そう言ってヤツが名乗ったペンネームは新進気鋭のラノベ作家のものだった。
「そろそろ、作家一本でやっていこうと思ってるので、越谷さんも評論家の立場から御指導いただければ……」
「あ……ああ……そうする……よ……」
「あ……ちょっと待って下さい。確か郡山先生が著書の『表現者の奥義─ベストセラー作家になる百の方法─』で、こう書かれてましたね」
そう言って奴は、問題の本を取り出して、あるページを開き……そこには、章タイトルがゴシック体でこう書かれていた。
『評論家の言う事は無視しろ』
昭和期に「SF御三家」と言われた内の1人である郡山藤政先生の全集の企画をある出版社に持ち込んで採用された……までは良かったが……担当編集者が控え目に言っても色々とおかしい野郎だった。
「いえ……今の読者からして『あれっ?』と思う点には註釈を入れるべきでしょう。そして、註釈を入れるには、郡山先生御本人に確認を取らないといけない事も有りますよね。郡山先生が御存命の内に、変な点は確認した方が……」
「御存命ったって九十過ぎてんだぞ」
「ですので、一刻も早く確認を……」
「大体、『その女はヒスを起こした』にも註釈が要るって、何の『言葉狩り』だ?『言葉狩り』のせいで、筆を折りかけた人の全集で『言葉狩り』をやるのか?」
「いや、越谷さん、貴方の肩書は一応『評論家』ですよね?」
「それがどうした?」
「今の読者からして、疑問に思う点を解説するのも評論家の仕事でしょう」
「いや『ヒスを起こした』のどこに解説の必要が有るんだよ?」
「あの……郡山先生の大学時代は文学部心理学科でしたよね?」
「それが……?」
「そこの箇所の『ヒス』が『ヒステリー』の意味だったら、心理学的に間違った使い方です」
「はぁ?」
「『ヒステリー』の意味は、元々、今で云うパニック障害です。元々の意味の『ヒステリー』を起こしてる人には、俗語の意味の『ヒステリー』を起こす事は困難です。心理学科出身の郡山先生が知らない筈が有りません」
「え……ええっと……」
「なので、郡山先生御本人に、ここで『ヒスを起こした』と云う表現を使われた意図を確認して下さい」
「いや、当時はヒスをそう云う意味に使ったの。何なら今でも、そんな使い方してるだろ。郡山先生御本人が言ってるよね。『どんな表現にも、その時代の時代性が有るから、後世になって表現を変えるべきじゃない』って」
「『今の基準で過去を裁くな』って奴ですか」
「そう云う事だ」
何なんだ、こいつは? 若いのに、こんなに頭が固いなんて、先が思い遣られる。
ところが、そいつは、付箋が山のように貼られた郡山藤政先生の著書を取り出した。
「何だ、それは?」
「郡山先生が昔書いたエッセイです」
「見りゃ判るよ。その付箋は何だ?」
「郡山先生が御自分の作品を悪く批評した批評家の悪口を書いてる箇所です」
「はぁ?」
「郡山先生の作品に関しては『今の基準で過去を裁くな』は成り立ちません。郡山先生御本人が、当時の基準でどれだけ御自分の作品が罵倒されたかを事細かに書き残してるので」
「でも、後世に残ったのは、そんなクソ批評じゃなくて郡山先生の作品の方だろ」
「つまり、郡山先生の作品は無条件で肯定すべきである、その為なら『その時代の基準』と『後の時代の基準』を恣意的に使い分けても良い、と」
「もういい。君とは信頼関係を築けない。編集長に言って担当を変えてもらう」
「わかりました。実は、そろそろ会社を辞めようと思ってまして」
「へっ?」
「実は、僕、兼業作家でして……」
そう言ってヤツが名乗ったペンネームは新進気鋭のラノベ作家のものだった。
「そろそろ、作家一本でやっていこうと思ってるので、越谷さんも評論家の立場から御指導いただければ……」
「あ……ああ……そうする……よ……」
「あ……ちょっと待って下さい。確か郡山先生が著書の『表現者の奥義─ベストセラー作家になる百の方法─』で、こう書かれてましたね」
そう言って奴は、問題の本を取り出して、あるページを開き……そこには、章タイトルがゴシック体でこう書かれていた。
『評論家の言う事は無視しろ』
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