簡単な水増しほど簡単にはいかないモノは無い

蓮實長治

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地元漁協理事

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「あの……すいません、近くで窃盗事件が有りまして。形式的でいいんですが、身分証明書を拝見したいのですが……」
「はぁ?」
 俺が駐車場に軽トラを止めると、三十代ぐらいの背広の2人組の男がやって来て……警察手帳を見せながらそう言った。
「まぁ、ええけど……」
 俺は免許証を見せた。
 でも……警察手帳に書かれてた警備部って……何をやる部署だ? 少なくとも、泥棒の取り締まりをやる部署には思えない。
「ありがとうございます。車庫証明は取られてますよね」
「そりゃ、もちろん」
「自家用車と業務用のどちらで?」
「両方に使っとりますが、何か?」
「御仕事は?」
「漁業ですが……あの……近くで泥棒が有ったとか云う話と何の関係が……?」
「すいません。その車、車庫飛しをやってる可能性が有るので、話を伺いたいんですが……御同行願えますか?」
「いや、ちょっと待って、俺、これから漁協の理事会で……」
「いえ、すぐに済みます」
「待って下さい。あんたの上司の名前を……」
 俺は怒りながら軽トラから降りる。
「あ……そうだ。貴方が後援会の会長をやられてる県議会議員の遠藤先生は……昨日の夜、収賄の容疑で逮捕されました。遠藤先生から手を回してもらう事は無理だと思って下さい」
 待……待て……どうなってる?
 これから……大事な打ち合わせなんだ……。
 ウチの漁協が独自にやった検査の結果……例の汚染水に含まれてる有害物質が、近くの海で獲れた魚から高濃度で検出された。
 最早、これは、汚染水の海洋放出を決めた国に補償を求めるしか無い。
 そう考えて、俺達は、これからコネが有る市議や県議を交えて詳細の打ち合わせをやる筈だったのだが……。
 いや、待て……おい……まさか……。
 その時、ウチの漁協の会長の車が駐車場に入り……何故か、続いて、俺を逮捕しようとしている刑事達が乗ってたのと同じ車種のライトバンが一台駐車場に入ると……そのライトバンから出て来た背広の2人組の男が会長の車に近付いて……何か手帳か身分証らしきモノを見せて……。
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