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第51話

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「大丈夫? デュペルく……!」

 氷刃のシェントルマがすぐに起き上がろうとすると、前方から新たに別の【マッドブレス】が襲いかかってきていることを知る。

 そこに颯爽とサポートをしに来たのが、盾殴りのナゲキスだった。

「あー、もう! なにやってんの!」

 盾殴りのナゲキスは、両盾を構えて全ての【マッドブレス】を受けきってみせる。

 だが、これにより大量の泥が、彼女の盾にくっついてしまった。盾が壊れることはなさそうだったが、明らかに重みが増しており、腕を上げるのが大変そうだった。

「た、助かったよ……ナゲキス」

 雷心デュペルは、すぐに立ち上がった。装備についた泥を払い落としたかったが、そうすると今度は手が汚れてしまうのでそのままにした。

「はぁ、馬鹿でしょあんたたち」

「ご、ごめん……」

 勢いで飛び出してしまったことを深く反省するデュペル。

「僕は、巻き込まれただけなんだけど……」

 氷刃のシェントルマは、自分も同じくくりにされたことに納得がいっていなそうだった。が、こんなに悠長におしゃべりしている時間などないと、すぐにその場から立ち去る。

「ほらデュペル、あんたもすぐ逃げる」

「りょ、りょうかい!」

 盾殴りのナゲキス、雷心のデュペルは、シェントルマと同じ方向に逃げ出した。一緒に来たトーマガイとは離れる形となったが、一応この場に「風心雷心」が揃ったことになる。

 再び木陰に身を隠す3人は、先ほどの攻防の事を振り返る。

「はぁ、氷ならいけると思ったんだけどなぁ」

 雷心デュペルは、仲間の増援に少しはしゃぎすぎてしまったようだ。氷剣使いのシェントルマがいれば、一気にこの状況を打開できるのではないかと、希望を描いたのだろう。

「手応え的に言うと、泥の内部までは凍結させられた気がしないんだ。だから、あのまま砕くことが出来なかった。
 相性はいいのかもしれないけど、僕の実力不足かな」

 シェントルマは、少し垂れてきた獣耳を軽く掻いた。氷系統は足止めなどにも使える攻防一体の系統だ。しかし、急速に相手を冷凍させるためには、かなりのスキル性能が必要になってくる。水ならば、その凍結もしやすいのだが、どうやら泥に交じった土系統の力が、それを阻害しているようである。

「さてと、どうするかな~。正直、あと1、2発喰らったら、腕が上がらなくなりそうなんだよね」

 隠れている木に、両盾をこすりつけるナゲキス。出来るだけ泥を取ろうとしているのだ。

「他に方法があるとすれば……」

 雷心デュペルは、右胸に手を当てて強く押し付けた。彼には答えが分かっていた。しかし、それを実行できない歯痒さが、彼を苦しめる。

 だが、そんな状況は、すでに別の冒険者によって打破されたのだ。

 それに気がついたのは、デュペルの隣にいた氷刃のシェントルマだった。
 シェントルマは、デュペルの体から青白い魔力のようなオーラが流れ出るのを見逃さなかった。
 そして、その現象に、彼は心当たりがあった。

「……!? もしかして……デュペルくん、【デュアルシフト】使えなくなってない?」

「うん、そうなんだよ。だから、クインクウィを呼び出せなくてさ……」

「やっぱり。でも、今なら呼び出せるんじゃない?」

「っえ?? いや、無理だと……。あれ? あれ、あれあれ?」

 雷心デュペルは、不思議な感覚に襲われた、自分の中にあったはずの物を取り戻した事が、体中に熱として伝わり始める。

「ララクくんが、やってくれたんだよ」

 氷刃のシェントルマは、細かい部分は説明しなかった。だが、デュペルを安心させるために、温かさのある笑みを向ける。

「ララクくんが??
 ……まぁ、なんでもいいや!
 【デュアルシフト】! クインクウィ、お待たせ!」

 雷心デュペルは訳が分からないままだったが、自信をもってスキルを発動した。もう、スキルを使えないという得体の知れない恐怖に悩まされることはない。

 彼の体はオーラに包まれ、似て非なる別の姿へと変身する。

 照りのある紫色はそのままに、可憐なロングヘアーまで髪は伸びている。凛とした、逞しさと若々しさが混合した顔つきをした美麗なその姿。
 槍を装備したデュペルに対して、背中には長い刀身の剣を携えている。鞘に入った剣の太さはそれほどではないが、かなり長めに作られているので迫力がある。

 名は風心クインクウィ。
 冒険者パーティー・風心雷心のリーダーを務める剣士である。
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