蝉と水着と8ミリカメラ、黒髪の幼なじみ。夏休みの最後の思い出は太陽とプールと消毒液の匂い。

にゃむ

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蝉と水着と8ミリカメラ、黒髪の幼なじみ。夏休みの最後の思い出は太陽とプールと消毒液の匂い。

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一章

1、プロローグ

 祖母に行った時、押し入れの中から、埃をかぶった1960年代製造の、フィルム式8ミリカメラを見つけた。

四角いユニットの先に丸いレンズが着いていて、それをがっちりとした太い持ち手が支えている。

ずっしりとした重量感があるボディーは、手にぴったりと馴染んだ。



 どのような仕組で動くのか全然わからないが、

それを見た瞬間、俺のなかに、天啓にもにた衝撃が走った。

俺は、周りを確認してから、シャツの下にこっそり8ミリカメラを隠して、大急ぎで祖母の家をでた。

 スマホで動画を撮影して、瞬時にネットに上げて想像を絶する閲覧数を叩き出す人間がいる中で、

動画投稿も、閲覧数を伸ばす事もできない俺だが、8ミリカメラなら、ささやかでも

何かができそうな気がしたのだ。




 夏休みがあけ、9月になってから、俺は、カメラを抱えて、連日川沿いの堤防にかよっていた。

西の空に沈む夕日を撮影するためだ。

堤防沿いは、いつも見事な夕やけの景色が見られるスポットだが、

俺がいざ撮影に出かけてみると、雲がかかっていたり、雨だったりの天候が続き、

満足できる夕やけに出会えなかった。


9月22日のこと、午後6時すぎ、俺は、草の上にあぐらをかいて、

夕焼けに備えてカメラを触っていた。

何処をどう触ったのか急にシャッターを押してもカシャンというだけでフィルムを送らなくなった。

気がつくと、太陽はすぐ山の稜線の上まで降りてきていて、空は赤く染まりはじめている。




風は、爽やかで、虫のこえが風流に鳴いているが、俺は、汗びっしょりでカメラと格闘していた。

「カメラ、壊しちゃったかな?まずいな」

脳裏に、激怒している祖母の姿が浮かんだ。

「まずい、茶室で正座だ!」

祖母は、趣味がお茶で、俺が悪さをすると、茶室に俺を連れて行き、

長時間正座させる。

心をおちつけて、反省を促すためらしいのだが、

俺としては、手早くビンタされた方がずっと楽だ。




 目の前では待ちに待った最高の夕焼けが見えているのに、

いっこうにカメラは動かない。カメラを叩いたり振ったり、温

めあたり、つまみをカチカチしたりした。



「だめなんだなー、それじゃあ」

カメラを触る俺の手元に、誰かの白くて細い指先がすっと伸びて、

すこし塗料のとれたツマミをパチンと弾いた。

「君、この子にめっちゃ嫌われるね~」

見知らぬ、東南高校の制服を着た、髪の長い少女が俺のカメラに手を伸ばしてきた。


「この子?」

「その子」

少女はカメラを指差した。

「カメラはね、使う人のこと、よーく見てるのよ。ちゃんと丁寧に扱わないとね。

くれぐれも、ただの機械として扱わないこと」

「それ、どういうこと??」

俺と少女との距離はおそらく数十センチ。

少女の髪から、ぷんとプールの消毒液の匂いがした。

「カメラも被写体を選ぶのよ、ほら、私をとってみなよ」

俺は、恐る恐る、8ミリカメラの、シャッターを押してみた。

カメラは、さっきまでの不調が嘘みたいに、快調に動き出した。




「はい、演技スタート!!」

少女は、沈みかけた太陽を背中にして、学生服のスカートをふわりと揺らせて身体を回転させた。

「うん、・・はい」

全身に西日を浴びた少女は、両手を腰あたりで揺らしながら、

まるで一本の線の上をつま先でなぞるように、

美しく歩いた。



俺は、ファインダーを覗きながら、少女が画面の中心からはずれないように

細心の注意をはらってカメラのシャッターを押し続けた。

「はい、ターン」

まるで、ランウェイを歩くようにくるりとターンした少女は、

ほっそりと長い両足をわずかにひらき、

片手を腰にあててポーズを決めて静止した。

「いまの私は、何点?」

少女が静止すると同時に、

さっきまでカタカタ動いていたカメラは、ちょうどフィルムが尽きてまもなく停止した。

俺は、何も言葉を発することができなかった。

とても美しかったから。

まるで本物の映画のようだった。



「君、つまんないなー、そこは0点でも100点でもいいのよ、

雑談に意味なんてないんだから。バカねえ、適当に答えといたらいいのよ」

少女は、つまらなさそうに、スカートについた埃をはらい、ジャケットを来た。


「うんと、100点です」

「はい、よろしい、まあ納得はできないけど、良しとしよう」

少女は笑った。

「ありがとう」

俺は礼を言ったが、この少女のことがどうしても思い出せない。

「そう、それは良かった。それと・・言っとくけど、

わたし、カメラを向けられたら誰にでもポーズ取るわけではな

いからね」




「あの・・あなたは誰ですか?」

あああ、今頃なんて質問してるんだ。そんなの最初に聞いとくべきじゃないか。

言った後に後悔したが、もう遅かった。

「あれれ、本当にわかんないんだ」

少女は、そう言うと、草むらに置いていた学生鞄を拾って、

さっと埃をはらってから、俺の方を向いた。

少女は少し眉を顰めて言った。

「いずれわかるわよ、私が誰だか」

少女はくるりと俺に背中を向けて

歩いていった。

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