蝉と水着と8ミリカメラ、黒髪の幼なじみ。夏休みの最後の思い出は太陽とプールと消毒液の匂い。

にゃむ

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進路 航海 あみだくじ

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2022年5月6日金曜日


5月の連休があけた最初の登校日は金曜部だった。

長い連休あけの日が金曜部だったことは、少し幸運だったけれど

それでも、朝から6時間の授業は、大変にしんどかった。

先生たちも気のせいか、かだるそうに授業していたように思う。




6時間目の授業は、水泳部の顧問で、世界史担当の佐伯先生の授業だった。

内容は、

カルタゴの英雄、ハンニバルについて。

テストに出なさそうな内容だったけれど、

ハンニバルの話をしている先生は楽しそうだった。

「テストに出るとこ。バルト5国、

フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、は

頭の文字をとって”フェラーリ”と覚えて、

あと”タカテヤポ”は・・・」

不思議と”フェラーリ”はよく覚えているけれど、”タカテヤポ”が何の頭文字をとったのかは

忘れてしまった。

誰か知っていたら教えてほしい。




世界史の授業が終わったので帰り支度をしていたら、

佐伯先生に、この後、進路指指導室にくるように言われた。

”進路”と言うと、船の航海などを思い描くが、

学校でいう進路は、進学か就職か、進学するならどの学校に行くのか、

行き先を絞っていく作業のように当時の僕は考えていた。

僕は未来のことどころか、明日の自分のことさえ

どうしたらいいのかわからない。

困ってしまう。



僕たちの高校は、創立200年で、200年前に当時の大実業家、早乙女門戸氏が、

私財を注ぎ込んで、外国風の立派な建物を模して建築された。



進路指導室は、

学校が建てられた200年前のままの外国風の木造校舎の一階にある。

僕は、ゴブリンでも通れそうな、

ハリーポッターの魔法学校風の頑丈そうな扉を

両手で思い切り押した。

少し押すとその後、扉はまるで本物の魔法がかかっているみたいに

大きな音を立てて勝手にゆっくりと開いた。

「わあああ」


僕は、恐る恐る中に入ると、

季節のわりにはひんやりと冷たい空気が、廊下に溜まっているのを感じた。

昼間なのに幽霊が出そうだ。(実際目撃情報もある)

僕は、右足から厚手の木材を敷き詰めた頑丈な作りの廊下を突き当たりまで歩いて、

“進路指導室”とプレートの掛けられた教室の扉をゆっくり押した。




大きな重い扉は音もなく開いた。

部屋の奥には、進路指導担当で、

なおかつ僕の所属する水泳部顧問の佐伯先生が、

いままさにタバコを咥えてマッチで火をつけよとしている所だった。

「先生。失礼します」

僕は深々と頭を下げて大きな声を上げた




佐伯先生は、僕の大声に体をびくっとさせて、

慌ててタバコをスーツの胸ポケットに突っ込んだ。

「こ、これタバコ型のチョコレートだから」

佐伯先生は少なからず動揺した表情で僕を見ながら、

目の前にあるパイプ椅子を指差した。

「澄田くん。まあ、そこに座らないか」

僕は言われた通り、

パイプ椅子に腰を下ろした。

「さて」

佐伯先生は、机の中から、ポッキーのチョコ味を出して僕に勧めてくれた。

「いや、虫歯になるから結構です」

「そうか。美味しいのにな」

丁寧にお断りした。



先生は仕方なく自分でポッキーの封を開けて、

中身を食べた。

先生は、は書類の束から2種類の封筒を取り出した。

「大昔は、食べると言うことは、マンモスを狩にいったり、海で魚や貝をとったりしたものだ。

時代は変わっても、食べていくのは、狩りをすることとそう変わらない。

ただ、マンモスを狩る人、それを運ぶ人、解体する人、とみんなで役割を分担する。

社会に出て、ご飯を食べて、生きていくには、君もどこかの役割を

分担しなきゃならない」

「????????」

僕は先生の言うことがさっぱりわからない。





「澄田くん、これ書いていって。

お願い。

こっちは航空学校の願書、

そんでこっちは、医学大学の願書、

どっちか君が好きな方を」

願書には、先生の手に付いていたチョコが、

そのままシミになってしっかりついてた。


僕はいった。

「冗談は止してください、

どちらの学校も、僕には無理です。

僕の成績ご存じでしょう。

卒業するのだって

難しいくらいなのに

夢みたいなこと言わないでください」



佐伯先生は、黙って、腕ぐみして、窓の外を見た。

外は木々の葉が生えてきていて、

新緑に太陽光線が当たってきらきら輝いている。

普通なら、どんな理不尽なことでも”わかりました”と笑って、

受け取るべきなんだろう。

しかし、その頃の僕は、今以上に頭が硬くて馬鹿正直で、

柔軟にその場をやり過ごすことができなかった。

「なあ、澄田くん、僕がこの学校で好きなとこはな、

学校の周りに鉄のフェンスの代わりに、

森が町と学校を隔ててることなんだ。

人間は通りにくいけど、

鳥や虫は行き来が自由だろ。

自由とはそう言うことなんだと思うよ」

またもや、佐伯先生の言うことはわからない。

「夢かどうかは、自分で確かめて。

書類を書くだけなら、夢とか現実のことじゃない。

ペンがあれば半日もあればできる。

とにかく一歩踏み出すこと。

人生はゴールのないあみだくじみたいなもんかもな。

でも失敗しても、それが糧になる。

1番のリスクは、一歩も踏み出さないで、

そこに留まること。

とにかくお願い、

名前だけでも書いてみてほしい。

名前を書くだけなら、

君にもできる。

名前の次が書けないなら、

そこで行き先を変えてもいい。

でも、名前さえ書かぬなら、

どこにも辿り着かない」

僕は、わけもわからず、

理解ふのうな頭を抱えて、

航空学校の願書と、医学大学の願書を

受け取った。

受け取ると少し気分が落ち着いてきた。

落ち着いてくると

窓の外で、鳥が鳴いているのが聞こえてきた。

鳥は行き来自由。

僕たちには、

いく方向を決める自由がある。

少なくとも便宜的にではあるけれど。

その自由は放棄する必要なないかもしれない。
































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