6 / 11
インクと紙の匂いが立ち込める奥野文房具店、メガネ少女と高級車、彼女が去ったその後に・・・
しおりを挟む
「願書に名前書くなら・・まず筆記用具買わなきゃ」
僕は、佐伯先生からもらった願書に名前を書くための
筆記用具を買いに、奥野文房具店にいった。
何か新しいことをする時は、まず形から入る主義なので、
ボールペンを買おうと思ったのだ。
奥野文具店は僕の母さんの代から商店街にある、
古い文房具店で高齢のお婆さんが一人で切りもりしている。
僕が小学生の頃からお婆さんだったので、いったい何歳だかわからない。
奥野文具店のドアを引いて中に入ると、
紙やインクなどの文房具店らしい薬品の匂いがした。
薄暗い店内は、冷たくて重い空気が立ち込めていて、
たくさんの種類のノートやペンが、床から無造作に積み上げてある。
僕はこの地下の倉庫を思わせる空間が好きだった。
この奥野文房具店で、ペンやノートを見ていると、この文房具たちが。自分を何か違う人生に
連れて行ってくれるような気分に浸ることができた。
店主のお婆さんはいない、店の奥にある部屋でテレビでも見ているのかもしれない。
僕は筆記用具コーナーの前にたった。
たくさんの筆記用を前にして僕は軽いパニックに陥った。
やばい、ボールペンってこんな種類あるんだ。
僕はその中でもたった一本だけ残っている一番お安い九十一円のボールペンに手を伸ばした。
「あ」
と僕が手を伸ばしたボールペンめがけて、別の誰かの手が伸びてきた。
僕と誰かの手の甲が、ボールペンの前で触れた。
「あ?」
僕が横を見ると、分厚いレンズの丸メガネをかけた、
どこにでもいそうな地味で小柄なショートカットの女子生徒が、
おどおどとした目で僕を見上げていた。
背中に背負われた学校カバンに東南高校の文字が見える。
女生徒が着ている制服も確か東南高校のものだ。
しかし、見るとはなく見てしまった彼女の胸の膨らみだけは並はずれて巨大だった。
「あ、すみません」
僕がそう言って手を引っ込めると同時に、彼女も手を引っ込めた。
「こちらこそ、ごめんなさい」
女生徒は姿勢を正して、スカートに手を添えて礼儀正しく深々と頭を下げた。
その途端、背中に背負っている学校カバンの蓋が開いて、
中の教科書やら、筆記用具やらがばらばらと床に落ちた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
女生徒は、慌てて床にしゃがみ込んで、
ばら撒かれた文具を拾い始めた。
「あ、あ、」
女生徒はかなり焦っている様子だ。
顔が真っ赤で動きもぎこちない。
わかる、この感覚。
いつもは僕もそうだ。
「大丈夫ですよ、僕も手伝います」
僕も手伝ってノートなどをひろった。
彼女はすまなさそうにそれを受け取り、
「ごめんなさい」
ともう一度頭を下げると、
また背中のカバンの口が開いて、中のものばらばらと床に落ちた。
「すみません、すみません、すみません」
彼女は顔を真っ赤にさせたまままた頭を下げた。
結局10分ほども、かけてカバンの中身を拾い集めて、よ
うやく全ての荷物が元通りにカバンに収まった。
「ごめんなさいでした」
もう一度頭を下げようとする彼女のおでこに僕は手を添えて、
お辞儀ができないようにした。
「”ごめんなさい”も”すみません”も言う必要ぜんぜんないですよ」
彼女は驚いた表情で僕を見上げた。
「え?そうですか?」
「あなた、謝ることなんて、何一つないですよ。最初から最後まで何一つ悪いことしてないですから」
僕は真顔でいった。謝りたくなる気持ちは、痛いほどよくわかる。
普段の僕がそうだからだ。
「だって地上にいるときは、みんな私のこと、バカでドジで世間知らずって言うし・・」
地上って、この人地底人かなんかかよって、僕は心の中でつっこんだけれど、
言葉には出さなかった。
その時、店の前に高級車が止まった。黒いろをしたメルセデスベンツのマイバッハのようだ。
「ごめなさい、私行かなきゃ」
女生徒は、何も買わずに店の外に出て、マイバッハの後部座席に乗り込んだ。
僕は床に落ちているものを手に取った。
「あれ、まだ落ちしものが残ってたかな?」
“東南高校 1年3組 吉田舞”と書かれた
生徒手帳が落ちていた。
僕はそれを手に取った。
僕は、佐伯先生からもらった願書に名前を書くための
筆記用具を買いに、奥野文房具店にいった。
何か新しいことをする時は、まず形から入る主義なので、
ボールペンを買おうと思ったのだ。
奥野文具店は僕の母さんの代から商店街にある、
古い文房具店で高齢のお婆さんが一人で切りもりしている。
僕が小学生の頃からお婆さんだったので、いったい何歳だかわからない。
奥野文具店のドアを引いて中に入ると、
紙やインクなどの文房具店らしい薬品の匂いがした。
薄暗い店内は、冷たくて重い空気が立ち込めていて、
たくさんの種類のノートやペンが、床から無造作に積み上げてある。
僕はこの地下の倉庫を思わせる空間が好きだった。
この奥野文房具店で、ペンやノートを見ていると、この文房具たちが。自分を何か違う人生に
連れて行ってくれるような気分に浸ることができた。
店主のお婆さんはいない、店の奥にある部屋でテレビでも見ているのかもしれない。
僕は筆記用具コーナーの前にたった。
たくさんの筆記用を前にして僕は軽いパニックに陥った。
やばい、ボールペンってこんな種類あるんだ。
僕はその中でもたった一本だけ残っている一番お安い九十一円のボールペンに手を伸ばした。
「あ」
と僕が手を伸ばしたボールペンめがけて、別の誰かの手が伸びてきた。
僕と誰かの手の甲が、ボールペンの前で触れた。
「あ?」
僕が横を見ると、分厚いレンズの丸メガネをかけた、
どこにでもいそうな地味で小柄なショートカットの女子生徒が、
おどおどとした目で僕を見上げていた。
背中に背負われた学校カバンに東南高校の文字が見える。
女生徒が着ている制服も確か東南高校のものだ。
しかし、見るとはなく見てしまった彼女の胸の膨らみだけは並はずれて巨大だった。
「あ、すみません」
僕がそう言って手を引っ込めると同時に、彼女も手を引っ込めた。
「こちらこそ、ごめんなさい」
女生徒は姿勢を正して、スカートに手を添えて礼儀正しく深々と頭を下げた。
その途端、背中に背負っている学校カバンの蓋が開いて、
中の教科書やら、筆記用具やらがばらばらと床に落ちた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
女生徒は、慌てて床にしゃがみ込んで、
ばら撒かれた文具を拾い始めた。
「あ、あ、」
女生徒はかなり焦っている様子だ。
顔が真っ赤で動きもぎこちない。
わかる、この感覚。
いつもは僕もそうだ。
「大丈夫ですよ、僕も手伝います」
僕も手伝ってノートなどをひろった。
彼女はすまなさそうにそれを受け取り、
「ごめんなさい」
ともう一度頭を下げると、
また背中のカバンの口が開いて、中のものばらばらと床に落ちた。
「すみません、すみません、すみません」
彼女は顔を真っ赤にさせたまままた頭を下げた。
結局10分ほども、かけてカバンの中身を拾い集めて、よ
うやく全ての荷物が元通りにカバンに収まった。
「ごめんなさいでした」
もう一度頭を下げようとする彼女のおでこに僕は手を添えて、
お辞儀ができないようにした。
「”ごめんなさい”も”すみません”も言う必要ぜんぜんないですよ」
彼女は驚いた表情で僕を見上げた。
「え?そうですか?」
「あなた、謝ることなんて、何一つないですよ。最初から最後まで何一つ悪いことしてないですから」
僕は真顔でいった。謝りたくなる気持ちは、痛いほどよくわかる。
普段の僕がそうだからだ。
「だって地上にいるときは、みんな私のこと、バカでドジで世間知らずって言うし・・」
地上って、この人地底人かなんかかよって、僕は心の中でつっこんだけれど、
言葉には出さなかった。
その時、店の前に高級車が止まった。黒いろをしたメルセデスベンツのマイバッハのようだ。
「ごめなさい、私行かなきゃ」
女生徒は、何も買わずに店の外に出て、マイバッハの後部座席に乗り込んだ。
僕は床に落ちているものを手に取った。
「あれ、まだ落ちしものが残ってたかな?」
“東南高校 1年3組 吉田舞”と書かれた
生徒手帳が落ちていた。
僕はそれを手に取った。
0
あなたにおすすめの小説
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~
☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた!
麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった!
「…面白い。明日もこれを作れ」
それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる