『お告げの西田』の色診断〜地味女子と元不良男子と、時々トラブルの日々

黒辺あゆみ

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第一話 予定が狂った夏休み

5 夏休み前の危機

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定期試験が終われば、解答用紙の返却というさらなる地獄が待っている。この地獄を乗り切れば、夏休みはすぐそこだ。
 けどその前に、由紀のライフゲージがゼロになってしまうかもしれない危機に瀕していた。

「赤点じゃないけど、平均点でもない……」

芳しくない点数の回答用紙が揃ってしまい、由紀は冷や汗ものだ。これは確実に小遣いカットへの序章だろう。西田家の閻魔様もとい母の裁きが怖い。
 けれど最後まで望みを捨てず、全ての回答用紙が揃うのを待った。だが結局全教科、赤点と平均点の真ん中あたりをウロウロしていた。
 これは本格的にヤバい。

「夏休みに欲しい漫画やゲーム、買えるかなぁ? これはもしや、バイトを考えるべきなの?」

だがそうなると、自堕落な夏休み生活とはいかなくなる。どう転んでもお先真っ暗な夏休みだ。
 最後の答案用紙返却を終えて、落ち込む由紀の隣の席で、柴田も苦笑している。

「今度のテスト、全体的に難しかったよねぇ」

しかし先ほどちらっと見えた彼女の答案用紙は、バッチリ平均点あたりだった。

 ――勝者の慰めなんて、傷を抉るだけなのよ。

 一人黄昏る由紀だった。


 そんなこんなしている内にあっという間に日々は過ぎ、一学期最後のホームルームが終わった。

 ――この瞬間から夏休みだ!

 由紀がさあ帰ろうと、カバンに手を伸ばそうとした時。教卓で荷物をまとめる中年の男性教師である担任と目が合う。

「西田ぁ、これ職員室まで持ってきてくれ」

運悪く担任を視界に納めたばかりに、用事を言いつけられてしまった。

「うげぇ……」

嫌そうな顔をする由紀に構わず、担任はさっさと教室を出て行き、クラスメイトもさっさと帰って行く。誰も「自分ついでがあるから」という親切な奴は現れなかった。

 ――ちぇっ。

 由紀は仕方なくプリントを抱える。担任が進路に関するアンケートなんてものを取ったものだから、プリントの枚数が一人三枚かけるクラスの人数分であるため、結構な分厚さだ。

「自分で持っていけっての」

由紀がブチブチ文句を垂れながら、プリントを手に職員室に向かって廊下を歩いていると。

 ガラッ

 途中にある教室のドアがいきなり開き、誰かが出て来た。

「うわっ!」

そんなことを予測していない由紀は、出て来た相手に思いっきりぶつかってしまう。

 ――なんか私、この間からこんなのばっかり!

 由紀が手元の揺れるプリントを早々に諦めた時、誰かがプリントを押さえてくれた。おかげでばら撒かれたプリントを拾う作業が消えた。由紀はプリントを押さえている手から、ゆっくり視線を上げていく。するとそこには、サラサラロングヘアーを爽やかになびかせ、優しく微笑む女子生徒がいた。

「ごめんなさいね、いきなり出て来た私が悪かったわね」

そう言って頭を下げた相手は、なんと生徒会長の新開亜依子だった。彼女は由紀より一学年上の三年生だが、美人で頭がよくて優しくて、男女に人気のあるスーパー生徒会長で、地味系女子には雲の上の存在である。

「いえ、ボーっとしていた私も悪かったです!」

由紀は新開会長に背筋を伸ばして九十度に頭を下げる。するとまたプリントを落としそうになり、慌ててバランスをとる。
 そんな間抜けな由紀に、新開会長小首を傾げる。

「じゃあ、お互い様ということね」

スーパー生徒会長ともなれば、目の前の些細なミスは見て見ぬふりをしてくれるらしい。

「以後、気を付けます!」

由紀がそう言って顔を上げると、お辞儀した際にズレた眼鏡の隙間から、新開会長が濃い紫色を纏っているのが見えた。これは気位が高い人に見られる色で、カリスマ生徒会長らしい色ともいえる。
 けれど紫色に混じって、鮮やかなピンク色も見える。

 ――およ? この色は……

 新開会長の纏う意外な色に、目を丸くした時。

「あら、弘樹いいところに」

新開会長が誰かを親し気に呼んだ。その知り合いに向けて華やかな笑顔で手を振る彼女に、由紀の後方から唸るような声が答えた。

「……ぁんだよ」

 ――って、この声ってまさか。

 振り返った由紀の目の前にいたのは、近藤だった。
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