『お告げの西田』の色診断〜地味女子と元不良男子と、時々トラブルの日々

黒辺あゆみ

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第一話 予定が狂った夏休み

7 不良に絡まれる

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とはいえ由紀だって、あんなアホなやり方でごまかされたとは思っていなかった。けれど近藤がこの件に突っ込んで来たのが意外だ。

「私は何も知りませんとも、にゃんこ近藤くんのことなんて」
「……しっかり見てんじゃねぇかよ」

しらを切って見せた由紀に、近藤がため息をつく。さっきからため息の多い不良である。
 そんな会話をしていると、職員室を通り過ぎそうになった。

「あ、ではここまでで結構、ありがとうよい夏休みを!」

由紀は文句や因縁をつけられる前に、近藤の手からプリントを奪い返し、職員室へ逃げ込む。

「先生、持ってきました」
「おー、ありがとなぁ。そこに置いておいてくれや」

職員室の奥でコーヒーを飲んでいた担任は、由紀をちらりと見ると自分の机を顎で指した。ごちゃっとしている机だったが、構わずドンとプリントを置く。なにかをプリントの下敷きにしていても、片付けない担任が悪いのだ。後で精々探すがいい。

「失礼しましたー」

ミッションを終えた由紀は職員室を出た。

「……」

そしてまた逆戻りしてドアを閉める。何故ならドアの前に近藤がいたからだ。そのまま三十秒数えてドアを開けると、なんとまだそこにいる。

 ――帰りなさいよ、アンタ。

 もう一度職員室の戻り、逆側のドアから出ようかと画策した時。

「おめぇ、バイトしねぇ?」

近藤の口から、そんな言葉が飛び出した。

「……は?」

由紀は眉を寄せて近藤を見上げた。

「それは、夜のいかがわしいお店だったり、露出の激しい衣装で誰かを勧誘したりするバイトで? 言っとくけど私そういうのに全く向いていないというか、法律に引っかかるアルバイトは嫌かなって思うっていうか」
「ちっげぇし!? なんで風俗前提に話しているんだよ!」

由紀の断り文句に、近藤がギョッとして声を荒げる。

「え、違うの?」

心底疑わしい顔で問い返す由紀に、近藤が怒りなのかなんなのか顔を赤くする。

「おめぇは俺をなんだと思ってるんだよ!?」

 ――不良だと思ってるけど。

 声にしない答えが顔に出たのか、近藤がぐっと息を呑む。殴られそうな気配がしたらすぐに職員室に逃げようと思っていたが、近藤が拳を振り上げることはなかった。

「俺の母さんがやっている、普通の喫茶店の話だ」

低い声でボソボソと語る近藤曰く、母親に夏休み期間中の接客バイトの女子を捕まえて来いと言われているのだとか。

「近藤くんの交友関係に勧めればいい話なのでは?」

わざわざ由紀に頼む意味がわからない。この疑問に、近藤はしかめっ面をした。

「……俺の周りにいる奴らは雰囲気が合わん。っていうか興味を持たれんわ」

不良仲間をバイトに宛がうのは無理らしい。だが、まだ由紀の疑問は残る。

「なんで私?」

一番の謎に、近藤はなんてことない顔で答えた。

「小遣いを減らされるピンチなんだろう? 教室でぶーたれてたじゃねぇか」

なんと近藤は由紀の愚痴を聞いていたらしい。意外と耳の良い不良である。

「でも、どんな店かもわからないことには答えようがないっていうか」

遠回しに遠慮したい旨を伝えたつもりの由紀だったが。

「おし、じゃあ今から行くぞ。早くカバンとって来いや」

なんと、近藤に言葉通りの意味にとらえられてしまい、勝手にこれから見学に行く段取りを決められてしまう。

 ――強引だな、この不良め!

 暑いし色々と見たくないしで余計な移動をしたくないのは山々なれど、報復が怖くて逃げだすことができない、小心者の由紀なのだった。
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