『お告げの西田』の色診断〜地味女子と元不良男子と、時々トラブルの日々

黒辺あゆみ

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第一話 予定が狂った夏休み

22 バイクでお出かけ

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「あれが俺のバイクだ」

そう言って近藤が示したエントランスホールの前に、一台のバイクが置いてある。紺色でなかなか渋いデザインのそれを、しげしげと見ていると。

「ほら、メット」

そう言って近藤に渡されたのは、フルフェイスのヘルメットだった。

「……暑そう」
「止まっていれば確かに暑いが、走っていれば風が入るぞ」

しかめっ面をした由紀に、近藤がヘルメットを強制的に被せようとする。

「万が一、コケて首と顎が悲惨な目にあいたくなければ被れ。事故はこっちが気を付けてても、当たられたらどうしようもないからな」
「……そうっすか」

真面目な顔で近藤に諭され、由紀も渋々頷く。確かに貰い事故は怖いと、両親も言っていた気がする。

「おい眼鏡、邪魔だぞ」

近藤がヘルメットに当たる眼鏡をずらすように言う。

「っていうか伊達だろうそれ」

そう指摘されるが、由紀は「いーっ」と歯を剥いてみせる。

「私には必須アイテムなんですぅ」

 ――ヘルメットのシールド越しだと、大丈夫かな?

 由紀はぎゅっと目を閉じて眼鏡を外し、素早くヘルメットを落とす。恐る恐る目を開けると、眼鏡越しと同じ景色が広がっていた。むしろ眼鏡よりも色が見えない範囲が広い。ヘルメットは意外と快適かもしれない。
 ただし暑さ以外は。

「よし、サイズはいいな」

近藤が由紀のヘルメットの顎紐を締め具合を確認すると、自分も手早くヘルメットを被り、身軽にバイクに跨る。

「後ろに乗れ」

由紀はそう言われたものの、近藤のようにヒラリとやるのは無理だ。

「……ちょっと待っててよ」

なんとかよじ登るようにバイクの座席の後ろに座ると、結構視界が高くなった。

「おぉ? なんか眺めがいい」

驚いてキョロキョロしていると、バランスを崩して落ちそうになり、慌てて目の前の近藤のジャケットに捕まる。

 ――ヤバい、不安定でなにかに捕まっていないと落ちる!

 近藤はフラフラとする由紀を振り返って注意する。

「もっとしっかり捕まっていろ、危ないぞ」

安全ベルトや命綱なんてない乗り物なので、近藤の忠告も尤もだろう。けれど由紀だって地味女だといっても、お年頃の女子高生端くれで、男子にベタっとくっつくのは躊躇われる。そんな風に背後でモゾモゾしている由紀がまどろっこしかったのか、近藤は由紀の両手を取ると、自分の腰に回させた。
 由紀は果たして男にこんなに密着することが、これまでの人生にあっただろうか? 父親相手にだって、用事気に抱っこといううろ覚えな記憶でしかない。それがまさか、こんな作業みたいにされてしまうとは。バイクに乗り慣れた近藤にとって、まさしくこれは作業なのかもしれない。

 ――そう、これは命綱、でっかい命綱だ。

 由紀は自分にそう言い聞かせると、諦めて近藤のジャケットをしっかり握る。

「じゃあ行くぞ」

近藤がバイクのエンジンを吹かせる。

「で、どこに行くの?」

由紀はそう尋ねる声が自然と弾むのに気付く。バイクに乗るなんて初めての経験なので、実は少しワクワクしていたのだろうか? 外出が苦痛な由紀だが、幸い今目の前にあるのは爽やかな緑色を纏う近藤の背中のみで、色がうざったくなることもない。

 ――せっかくだし、楽しむのもいいかな?

 そんな風に前向きな気分になっている由紀に、近藤が行き先について告げる。

「前にアイツらも言ってただろうが。海なんて人を見に行くだけだから、当然山だ」

なんでもここから一時間ちょっと走らせたあたりの、夏の避暑地として有名な山の展望台を目指すらしい。由紀にとってはここより涼しければ、どこであっても天国だ。
 目的地も決まったところで、近藤が背中に由紀をくっつけて走り出す。
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