『お告げの西田』の色診断〜地味女子と元不良男子と、時々トラブルの日々

黒辺あゆみ

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第一話 予定が狂った夏休み

27 またまた寄り道

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ハンバーガーを食べ終えてお腹がいっぱいになり、まったりとした気持ちになった由紀だったが。
 一方で気になる情報もキャッチしていた。

「なんか、近所に無料タダの足湯が出来ているっぽいよ」

このあたりは温泉地でもあるので、そういうサービスがちらほらとあるのだが、最近新しい施設ができたらしいのだ。

「あぁ?」

若干ワクワク顔の由紀に対して、けれど近藤はあまりワクワクそうではなかった。

「余計に暑くねぇか、ソレ」

確かに夏に温泉という組み合わせは暑さが増しそうだけれど、実際に行ってきた客から漏れ聞いた話だと「暑くて最悪だった!」という感想ではなさそうだ。

「全身お風呂に浸かるのは暑いけど、山の上の涼しい風の中での足湯はイイ感じなんじゃない?」

それに温めのお湯だったらむしろ快適そうではないか。
 由紀が引き下がらないのを見て取った近藤は、しばし考えている。

「まあ、無料なら行ってみても損はねぇが」

近藤から乗り気なわけではないが拒否でもない答えを引き出せたところで、由紀はスマホで「新しい」「足湯」「無料」で場所を検索する。すると今いる場所からさして遠くもない辺りでヒットした。

「ココだって」
「なぁる」

というわけで足湯に向かった由紀たちだったが、そこは思ったよりも大規模だった。
 駐車場入り口で一旦バイクを停めて、二人でしげしげと施設の全貌を眺める。

「ひろ~い、すご~い」

小ぢんまりとした建物を想像していた由紀は、想定外の広さに驚く。道沿いにある看板に書いてあるには、ここは温泉の他にもレストランやアスレチック、お土産コーナーが揃っている複合施設のようだ。

「そういえば前に来た時になんか工事やってたな。コレだったのか」

近藤が思い出したように呟く。
 それにしても建物も広ければ駐車場も広く、目的エリアの近くに停めないと、かなり歩くことになりそうだ。なのでまずは施設案内看板の前まで進む。

「あ~、今どこだ?」
「現在地がここだってさ」

由紀は近藤と二人で案内看板を見て、温泉エリアを探してからバイクを停めた。

「やっぱり、人が多いか」

噂で聞けるくらいだからと半ば覚悟していたが、温泉があるエリアは由紀たちと同じ足湯目的の観光客で賑わっていた。人が多いと色酔いしてしまう由紀としては、普段であれば絶対に近付くことはないだろうが、今はお出かけのテンションで乗り切れる気がする。

 ――気持ちよさのため、しばしの辛抱だ!

 由紀はヘルメットを外してから眼鏡をしっかりかけ直し、いざ足湯へと向かう。
 足湯はちゃんと全身浸かる温泉施設の入口にあって、サービスと客寄せを兼ねているようだった。足湯ながら源泉かけ流しの広い浴槽で、幼い子どもならば全身でも浸かれそうなくらい立派だ。それに山からの涼しい風が心地よく吹き抜けていて、これから足だけとはいえ湯に浸るのに暑さがなくていい。屋根で日差しが遮られた下、足湯からはあまり派手に湯気が立ってもおらず、やはり温度を温めにしてあるのだろう。足を拭うタオルまで置いてあるサービスぶりだ。
 足湯に備え付けられたベンチにはずらっと人が並んで座っている中で、由紀は空いているスペースを探す。

「あ、あそこ」

果たしてぽっかりと空白地帯になっている場所を見つけたので、近藤と二人でそこに納まる。いそいそと靴と靴下を脱いで、いざ足を湯に浸すと。

「あ゛あ゛ぁ~」

家の風呂とは違うお湯の感触に、由紀は心地よさで低い声を漏らす。

「オッサンかよ」

隣の近藤からなにか言われているが、すっぱり無視である。
 由紀は普段、温泉には眼鏡を外すのが嫌で寄り付かない。「眼鏡は外してください」と注意書きされている場合もあるし、第一眼鏡をしたままだとレンズが曇って見えなくなるではないか。

 ――けど、足湯はいいなぁ~♪

 実は足湯初体験である由紀は、これなら温泉がいいものだと思える。それに今日は朝からずっと靴を履きっぱなしだったし、そもそも人生初のアルバイトでずっと足の筋肉が凝っていたから、この足湯は今の由紀が最も欲していたサービスかもしれない。
 そんな風に由紀が「足湯に来てよかった!」と感激して、両足のふくらはぎをモミモミしていると。

「はぁ……」

近藤から逆隣から、重たいため息が聞こえてきた。
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