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第二話 噂の「ハルカ」
45 迷子のお知らせ
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その手は道の脇から伸びていて、そちらに目をやれば、しゃがみ込んだ子どもの姿がある。見たところ三、四歳くらいだろうか? つまり、この子どもに浴衣の裾を引っ張られたから転びそうになったのだ。おまけにその拍子に眼鏡まで落ちそうになっている。
「おっとと……おや?」
落ちかけた眼鏡を直しながらもなんとなく子どもを見ると、その子が纏う暗い朱色を、包み込むようにしている濃い藍色が見える。
――なんだろう? 変な配色だなぁ。
一方で子どもは由紀の浴衣から手を放さずにじっと見ていたが、やがて顔を上げて由紀と目が合う。その瞬間――
「まま……? ママぁ~!?」
唐突に大声でギャン泣きし始めたではないか。
「は……!?」
由紀もこれにはビックリするし、隣で近藤が「うるせぇ」と文句を漏らす。
――いやいや、私のどこにママ成分を発見できると!?
「ママ、ちがぅう~!?」
さらに当たり前の事実を叫ばれるが、これは迷子という推測で合っているだろうか?
「あ~、キミは迷子かな?」
由紀がそう尋ねても、子どもはギャン泣きするばかりで答えられない。
「おい、まずはそこから立て。誰かに蹴られるぞ」
すると近藤がそう言いながらひょいっと子どもを抱き上げる。
「うぎゃ、待った待った!?」
その際に子どもが由紀の浴衣の裾を握ったまま放さないものだから、一緒に持ち上げられそうになるというハプニングが発生した。
「あ……ワリィ」
近藤が慌てて子どもの手を由紀の浴衣から剥がして、無事に由紀が下半身ポロリで痴女になるのは阻止された。そして急に視界が高くなったからか、子どもが泣き止む。
「親みたいなのは、いねぇか?」
背の高い近藤が見渡しても、子どもを探している大人はいないようだ。ということは、どこかにある迷子センターに連れて行くのがいいのだろうけれども。
「この人混みの中で本部のあるメイン会場まで連れて行くのに、また迷子にしそうだな」
近藤がしかめっ面をしている。
「ちなみに、私はそんな所まで歩きたくないです」
「……それもあるか」
色々と詰んでいる状況の中、近藤は解決策として由梨枝にスマホで連絡をして、迷子を抱えてちょうど目の前にある八百屋前のたこ焼き屋傍にいると祭り本部の人に伝えてもらうことにした。
というわけで、早速由梨枝に電話した近藤が状況を話しているのだが。
「ソイツ、男か女どっちだ?」
「あ~」
由紀も肝心の情報が欠落していたことに気付くが、薄水色のTシャツにカーキ色のズボンにボブカット頭という格好で、服装や髪形でどっちなのか判断つかない。けれど触って確認するのも、いくら子どもとはいえ憚られる。
「キミ、男の子?」
由紀が尋ねると、子どもは涙目でフルフルと首を横に振った。どうやら女の子らしい。
「名前を言えるかな~?」
続けて名前を聞き出そうとするが、小声でモニョモニョと言うのが周囲の雑音のせいで聞き取れない。仕方ないので外見と性別のみを伝えることとなった。
「じゃあ、よろしく」
近藤がそう言って通話を切ってしばらくすると、スピーカーから迷子のお知らせのアナウンスが響き渡る。それからまたしばらく経った頃。
「スミ!? スミちゃ~ん!?」
「ぱぱぁ~!?」
男の声が遠くから響いてきたら、子どもが再び大音響で泣き出した。どうやら父親が探しに来たらしく、この子の名前はスミちゃんというらしい。
「嬢ちゃん、お迎えが来てよかったな!」
目印にされたたこ焼き屋がそう声をかけてきて、一個だけつまようじに刺してあるたこ焼きを差し出され、スミちゃんは泣きべそ顔ながらもしっかり貰ってモグモグする。
「その子の父です! すみません、すみません!」
パパさんがこちらにペコペコしながら駆けてきて、スミちゃんをギュッと抱き上げた。
「おっとと……おや?」
落ちかけた眼鏡を直しながらもなんとなく子どもを見ると、その子が纏う暗い朱色を、包み込むようにしている濃い藍色が見える。
――なんだろう? 変な配色だなぁ。
一方で子どもは由紀の浴衣から手を放さずにじっと見ていたが、やがて顔を上げて由紀と目が合う。その瞬間――
「まま……? ママぁ~!?」
唐突に大声でギャン泣きし始めたではないか。
「は……!?」
由紀もこれにはビックリするし、隣で近藤が「うるせぇ」と文句を漏らす。
――いやいや、私のどこにママ成分を発見できると!?
「ママ、ちがぅう~!?」
さらに当たり前の事実を叫ばれるが、これは迷子という推測で合っているだろうか?
「あ~、キミは迷子かな?」
由紀がそう尋ねても、子どもはギャン泣きするばかりで答えられない。
「おい、まずはそこから立て。誰かに蹴られるぞ」
すると近藤がそう言いながらひょいっと子どもを抱き上げる。
「うぎゃ、待った待った!?」
その際に子どもが由紀の浴衣の裾を握ったまま放さないものだから、一緒に持ち上げられそうになるというハプニングが発生した。
「あ……ワリィ」
近藤が慌てて子どもの手を由紀の浴衣から剥がして、無事に由紀が下半身ポロリで痴女になるのは阻止された。そして急に視界が高くなったからか、子どもが泣き止む。
「親みたいなのは、いねぇか?」
背の高い近藤が見渡しても、子どもを探している大人はいないようだ。ということは、どこかにある迷子センターに連れて行くのがいいのだろうけれども。
「この人混みの中で本部のあるメイン会場まで連れて行くのに、また迷子にしそうだな」
近藤がしかめっ面をしている。
「ちなみに、私はそんな所まで歩きたくないです」
「……それもあるか」
色々と詰んでいる状況の中、近藤は解決策として由梨枝にスマホで連絡をして、迷子を抱えてちょうど目の前にある八百屋前のたこ焼き屋傍にいると祭り本部の人に伝えてもらうことにした。
というわけで、早速由梨枝に電話した近藤が状況を話しているのだが。
「ソイツ、男か女どっちだ?」
「あ~」
由紀も肝心の情報が欠落していたことに気付くが、薄水色のTシャツにカーキ色のズボンにボブカット頭という格好で、服装や髪形でどっちなのか判断つかない。けれど触って確認するのも、いくら子どもとはいえ憚られる。
「キミ、男の子?」
由紀が尋ねると、子どもは涙目でフルフルと首を横に振った。どうやら女の子らしい。
「名前を言えるかな~?」
続けて名前を聞き出そうとするが、小声でモニョモニョと言うのが周囲の雑音のせいで聞き取れない。仕方ないので外見と性別のみを伝えることとなった。
「じゃあ、よろしく」
近藤がそう言って通話を切ってしばらくすると、スピーカーから迷子のお知らせのアナウンスが響き渡る。それからまたしばらく経った頃。
「スミ!? スミちゃ~ん!?」
「ぱぱぁ~!?」
男の声が遠くから響いてきたら、子どもが再び大音響で泣き出した。どうやら父親が探しに来たらしく、この子の名前はスミちゃんというらしい。
「嬢ちゃん、お迎えが来てよかったな!」
目印にされたたこ焼き屋がそう声をかけてきて、一個だけつまようじに刺してあるたこ焼きを差し出され、スミちゃんは泣きべそ顔ながらもしっかり貰ってモグモグする。
「その子の父です! すみません、すみません!」
パパさんがこちらにペコペコしながら駆けてきて、スミちゃんをギュッと抱き上げた。
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