49 / 67
第三話 眼鏡とコーヒー
49 そして合流と、翌朝の吐露
しおりを挟む
根掘り葉掘り聞こうとする中田の追及を逃れようと、ドリンクバーに来たのだが。
「なんかいる」
コーヒーメーカーの前にいる近藤を発見してしまった。
「なんでいる」
あちらも由紀と同じような反応をする。
「私はいつもの四人でお喋りがてら」
「こっちも似たようなもんだ」
どうやら同じような目的らしい。まあ、高校生がファミレスにたむろする理由なんて、これ以外にないだろうが。
その後由紀は無言でドリンクを選んでいて、コーヒーを貰いに行く近藤をみてふと思いついた。
「あ、ねえいつか作ったヤツってどうやるの? オレンジジュースにコーヒー入れたの」
意外に美味しかったのでもう一度やってみたいと思っても、自分で作ると失敗する気がして試せていないのだ。
「ああ、アレか。春香が好きなんだよ」
由紀の疑問に、近藤は「面倒臭い」とでも言うかと思いきや、なんとささっと手際よく作ってくれた。
――コイツ、案外頼まれると断れないタイプか。
由梨枝に言われて素直に由紀をツーリングに誘いに来た件といい、間違いないと見える。
由紀のコーヒー入りオレンジジュースが完成した頃、他の三人もやって来た。
「近藤くんもいたんだ」
「あ、それなに? もしかしていつかの奇跡のオレンジジュース?」
「私、家で試して失敗したんだけど」
田んぼ三人組が由紀のジュースを見た後、じっと近藤に熱い視線を送る。
「……作りゃいいんだろ、三つ」
近藤がため息交じりに言うと、三人は笑顔を浮かべる。
彼らを男子三人がじっと見ているとも知らずに。
登校日の翌日は土曜日だ。
「おはようございまぁす」
由紀が挨拶しながら店に入ると、コーヒーのいい香りが漂っていた。
――お客さんがいるの?
そう思ってコーヒーの香りの元を探すも客らしき姿はなく、厨房を覗くと近藤がコーヒーを淹れてる。以前オレンジが痛むからとオレンジジュースを貰ったことはあったが、もしやコーヒーもそう言った期限が迫っているのだろうか。
けれど、コーヒーを淹れている時の近藤の姿は、真剣でとても静かだ。由紀が眼鏡をずらして見ると、まるで集中しているのを邪魔しないようにしているみたいに、その纏う色までムラが消えてとても静かになる。
――この色は、とても綺麗だわ。
しばらくコーヒーの香りと綺麗な色に魅入っていると。
「覗いてねぇで、入ってくればいいだろう」
由紀に気付いたらしい近藤がそう言った。
「どうして朝からコーヒー淹れてんのさ」
由紀が近寄りながら尋ねると、近藤はこちらをチラリと見て、またコーヒーに視線を戻す。
「別に、イライラしてたから」
ボソッとした声でそんな答えが返って来た。
――イライラで、コーヒー?
甘いものを欲しがるというのは聞いたことがあるが、コーヒーが欲しくなるパターンもあるのだろうか? こんなことは人それぞれなのかもしれないので、由紀が敢えて突っ込まないでいると、お湯を注ぎ終えた近藤がポットを置いた。
「……昔ジイさんに言われたんだよ、イライラしている時はコーヒーでも淹れてろって」
聞かれていないのに、近藤が昔語りを始めた。
近藤はグレていた中学時代、警察にやっかいになったことがあるという。その時両親が引き取りに行けなくて、変わりに現れたのが近藤の祖父だった。祖父は引き取った後にこの喫茶店に連れて来ると、ムスッとしていた近藤コーヒーの器具を押し付けたそうだ。
『そんな顔をしているなら、これでコーヒーでも淹れていろ。気持ちが落ち着くし美味しいコーヒーが飲めるし、一石二鳥だぞ』
近藤は意味がわからないと喚いたが、祖父は「いいからやれ」の一点張り。これをしないと帰れないと悟り、渋々言われるままにコーヒーを淹れたのだという。
「なんかいる」
コーヒーメーカーの前にいる近藤を発見してしまった。
「なんでいる」
あちらも由紀と同じような反応をする。
「私はいつもの四人でお喋りがてら」
「こっちも似たようなもんだ」
どうやら同じような目的らしい。まあ、高校生がファミレスにたむろする理由なんて、これ以外にないだろうが。
その後由紀は無言でドリンクを選んでいて、コーヒーを貰いに行く近藤をみてふと思いついた。
「あ、ねえいつか作ったヤツってどうやるの? オレンジジュースにコーヒー入れたの」
意外に美味しかったのでもう一度やってみたいと思っても、自分で作ると失敗する気がして試せていないのだ。
「ああ、アレか。春香が好きなんだよ」
由紀の疑問に、近藤は「面倒臭い」とでも言うかと思いきや、なんとささっと手際よく作ってくれた。
――コイツ、案外頼まれると断れないタイプか。
由梨枝に言われて素直に由紀をツーリングに誘いに来た件といい、間違いないと見える。
由紀のコーヒー入りオレンジジュースが完成した頃、他の三人もやって来た。
「近藤くんもいたんだ」
「あ、それなに? もしかしていつかの奇跡のオレンジジュース?」
「私、家で試して失敗したんだけど」
田んぼ三人組が由紀のジュースを見た後、じっと近藤に熱い視線を送る。
「……作りゃいいんだろ、三つ」
近藤がため息交じりに言うと、三人は笑顔を浮かべる。
彼らを男子三人がじっと見ているとも知らずに。
登校日の翌日は土曜日だ。
「おはようございまぁす」
由紀が挨拶しながら店に入ると、コーヒーのいい香りが漂っていた。
――お客さんがいるの?
そう思ってコーヒーの香りの元を探すも客らしき姿はなく、厨房を覗くと近藤がコーヒーを淹れてる。以前オレンジが痛むからとオレンジジュースを貰ったことはあったが、もしやコーヒーもそう言った期限が迫っているのだろうか。
けれど、コーヒーを淹れている時の近藤の姿は、真剣でとても静かだ。由紀が眼鏡をずらして見ると、まるで集中しているのを邪魔しないようにしているみたいに、その纏う色までムラが消えてとても静かになる。
――この色は、とても綺麗だわ。
しばらくコーヒーの香りと綺麗な色に魅入っていると。
「覗いてねぇで、入ってくればいいだろう」
由紀に気付いたらしい近藤がそう言った。
「どうして朝からコーヒー淹れてんのさ」
由紀が近寄りながら尋ねると、近藤はこちらをチラリと見て、またコーヒーに視線を戻す。
「別に、イライラしてたから」
ボソッとした声でそんな答えが返って来た。
――イライラで、コーヒー?
甘いものを欲しがるというのは聞いたことがあるが、コーヒーが欲しくなるパターンもあるのだろうか? こんなことは人それぞれなのかもしれないので、由紀が敢えて突っ込まないでいると、お湯を注ぎ終えた近藤がポットを置いた。
「……昔ジイさんに言われたんだよ、イライラしている時はコーヒーでも淹れてろって」
聞かれていないのに、近藤が昔語りを始めた。
近藤はグレていた中学時代、警察にやっかいになったことがあるという。その時両親が引き取りに行けなくて、変わりに現れたのが近藤の祖父だった。祖父は引き取った後にこの喫茶店に連れて来ると、ムスッとしていた近藤コーヒーの器具を押し付けたそうだ。
『そんな顔をしているなら、これでコーヒーでも淹れていろ。気持ちが落ち着くし美味しいコーヒーが飲めるし、一石二鳥だぞ』
近藤は意味がわからないと喚いたが、祖父は「いいからやれ」の一点張り。これをしないと帰れないと悟り、渋々言われるままにコーヒーを淹れたのだという。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる