私には未来が見える ※ただし生活密着型

黒辺あゆみ

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第二話 入学式は波乱の幕開け

3 部屋で朝食

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それから、徳倉君もそろそろランニングを切り上げるとのことなので、二人で並んで歩きながら寮の中へと戻る。
 のんびり歩いていたらいつの間にかもうすぐ朝食時間らしく、廊下や階段でよく人とすれ違う。

「おい、アレ……」

「噂の……」

けれどそんな風に遠巻きにヒソヒソされるだけで、話しかけて来られたりはしない。
 未知の新入りだから、得体が知れないのかもしれない。
 もしくはついさっき徳倉君に聞いた、「神高のルームメイト」だからか。
 そんな微妙にアウェイな空気の中、隣でマッチョについて熱く語ってくれる徳倉君の存在は天使に思える。

「僕的には一番魅力的なのって、背筋だと思うんだよね。
 前腕筋やふくらはぎも捨てがたいけど、やっぱり鍛えた背中っていいよね!」

「なるほど、背中の筋肉かぁ」

鍬を振り回していれば、背中の筋肉って案外鍛えられるぞ。
 徳倉君にはぜひ農作業をオススメしたい。
 そんな話で盛り上がりながら、お互いの部屋の近くまで来た。

「じゃあ、また後でね!」

「はい、また後で」

徳倉君とそう言いながら手を振り合っての別れ際。

「……あ」

本当に唐突に、そのシーンが脳裏にひらめく。

『……!』

徳倉君が何かを叫びながら、階段から落ちようとしている。
 なにこれ?
 なんで階段から落ちてるの?
 私がショッキングなそのシーンにビックリして、その場に立ち尽くす間に、徳倉君は部屋に入ってしまう。
 それから数秒程、私がそのまま突っ立っていると。

 ガチャ

 部屋のドアが中から開いた。

「なにをしているんですか、そんなところに突っ立ってたら邪魔でしょうに」

顔を出したのは神高だった。

「……あ、そだね」

確かにボーっと立っている私は、通りかかる人たちの視線を集めているようだ。
 言われてそそくさと部屋に入ると、リビングでいい匂いが漂っていた。
 テーブルの上には料理が盛られた皿が乗ったトレイが二つ、セットされている。

「なにこれ、もしかして朝ごはん?」

朝食は食堂で食べるものと思っていたのに。
 ここに用意されていることに驚く私に、神高がちらりと視線を寄越す。

「今食堂に行くと注目の的です。
 だから部屋で済ませた方が、騒がれないで済むでしょう」

え、もしかして私を気遣って、神高がわざわざ食堂から持ってきてくれたの?

「と言って、常盤さんが持ってきました」

ああ、うん。
 そんな気はしたんだよ。
 神高はそんなこと気にしなさそうだなって。
 私はがっくりと肩を落としつつ、持ってきてくれた常盤さんに感謝する。
 それに確かに、静かに朝食を食べられるのはありがたい。
 というわけで、私は神高と二人で向き合って、朝食を食べることとなった。
 ちなみにメニューはオムレツとソーセージのソテーに、スープとロールパン。
 実家ではまず出ない、オシャレなメニューだ。
 オムレツは卵がフワフワで、中の具にトマトとひき肉を炒めたものとチーズが入っている。
 ソーセージも実家近くの例の牧場で売られている、手作りソーセージに負けないくらい美味しい。
 スープは濃厚な味がするし、ロールパンも外がパリッとだが中は柔らかく、食感がいい。
 まるで実家で母ちゃんが趣味でたまに作る焼き立てパンのようで、もしかして学園の施設内で焼いているのかもしれない。
 とにかく、朝から美味しい食事でとても幸せです!
 私が一つ一つの料理にいちいち感動しながら食べるのに対して、正面で同じメニューを食べている神高は無反応。
 まあ、食べなれた味だったらそうなるか。
 でも食事を囲む相手としては、盛り上がりに欠けるな。
 とにかくそんな感じで食事を全部食べ終えた私は、ポットで置いてあったお茶を飲んでいると。

「あ、そうだ」

不意にさっきのひらめきのことを思い出した。
 あれは一体なんだったんだろう?
 徳倉君の階段落ちって、私ってば一体なんでそんなことを思いついたのか。
 それに階段落ちをするって、一体どんな条件下なんだ?

「ねえ神高、二つ隣の徳倉君なんだけど」

こちらもお茶を飲んでいた神高が、私を見た。

「ああ、ランニング中にでも会いましたか?」

徳倉君が早朝ランニングをしていることを知っているらしい。

「まあ、そうなんだけどさぁ。
 徳倉君って、階段落ちの趣味でもある?」

「……は?」

私の率直な疑問に、神高がギュッと眉根を寄せて「なに言ってんだコイツ?」という顔をする。

「ほら、演劇部とかで階段落ちのシーンがあって練習を積み重ねているとか」

「徳倉が演劇部所属なんて聞いたことないですが」

なお言い募る私に、神高が呆れたため息を漏らしつつ告げる。
 演劇部ではないとして、じゃあ他に階段落ちをする条件って、誰かに突き落とされる?
 そんな物騒な!
 っていうか、あれは単なる私の白昼夢で、徳倉君が本当にそうなるってわけじゃないだろうに。
 でも、妙に気になってしまうのは何故だろう。
 こうして一人で首をひねっている姿を、神高がじっと見ていたなんて、考え事に没頭している私は全く気付かなかった。
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