私には未来が見える ※ただし生活密着型

黒辺あゆみ

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第三話

7 リサーチは大事

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「あー、口から心臓が出るかと思った」

私は屋上の手すりにもたれかかり、乗り物(?)酔いのせいで青い顔になっているであろう顔に風を感じていた。

「大げさですね」

これに対して、神高は涼し気だ。
 この男、あの茂みの場所から真っ直ぐにここまで飛べばいいものを。
 わざとフラフラしたり一回転したりと、アクロバット飛行をしやがったのだ!
 そんなお茶目は期待していないのだよ!
 断固抗議の態勢でいると、神高が告げた。

「それよりも、ボーっとしていると囲まれるのでは?」

「あ、そだそだ」

そうだよ、この男と喧嘩している場合ではなかったよ。
 私は軽く身体を動かして準備運動をする。

 バン!

 すると屋上のドアが勢いよく開き、現れたのは男子二人組だ。

「いやがった、『無能』だ!」

片方が私を指さして叫ぶ。
 オイ、人を指さしてはいけまんと習わなかったかな?

「でも、神高も一緒だぜ?」

そしてもう一人が、指差し男子の裾を引いているが、指差し男子は「バッカだな」と返す。

「能力での喧嘩禁止ってことは、神高だって俺らをどうこうできないってことだろうが」

「そうだけどさぁ」

なおもビビるもう一人に構わないことにしたのか、指差し男子君が私に突撃してくる。
 ふぅむ、いいのかなぁ?
 相手の事を良く知りもしないのに、真っ直ぐに来ちゃって?

「カモ、ゲットぉ!」

突進した勢いのまま、腕を伸ばす男子だったが。

「ほい」

私はほんのちょっと身体を反らしてかわし、伸ばされた腕を掴むと軽く捻る。

「いってぇ!?
 イテテ……!」

指差し男子は、呆気なく床に伏した。

「なんだなんだ、口ほどにもないなぁ。
『無能』相手はラッキーなんでしょ?」

私は関節技をキメた男子にのしっとのっかり、ニヤニヤ顔で聞いてやる。

「あわわ……」

彼があっさり捕まったのを見て、もう一人が慌てて校舎の中へ戻ろうとしたんだけど。

「うひゃ!」

何故かなにもない所で派手に転んでしまい、受け身がロクにとれなかったらしく、涙目で呻いている。

「これで二人分ゲットっと。
 あ、キミ結構持ってるじゃーん。全部貰うねっと」

ジャージ下にひっかけていた鉢巻を全部奪うと、この二人はゲームオーバーだ。

「くっそぉー!」

指差し男子の方が、悔しそうに喚く。

「聞いてねぇし!
 なんで腕っぷしが強ぇんだ!?」

「そんなの、全くリサーチしなかったそっちが悪いんでしょ?」

私はフン、と鼻を鳴らして言う。
 喧嘩なんて、昔から好きじゃない。
 ケガするし痛いし親は泣くしで、いいことなんてなに一つない行為だと思っている。
 けれど、この「好きじゃない」は「得意じゃない」とイコールじゃないわけで。
 私、実は中学まで喧嘩で負けたことないからね?
 まあ相手は主に幼馴染のガキ大将君で、さすがに高校生になったら男女の体格差が大きくなって、無敗記録もストップになったと思うけど。

「なるほど、こういうことですか」

勝手にコケて動けなくなっている方の鉢巻を回収している私に、神高が少し呆れたような調子で零した。

「ん、なにが『こういうこと』だって?」

私が首を捻ると、神高が私を見る。

「あの寮に放り込まれて、異常事態だったでしょうに。
 妙に落ち着いているどころか堂々としていると、不思議だったんですよ。
 君はそうやって能力の問題さえなければ、大抵の相手を伸せる自信があったわけですか」

「まあ、そうね」

神高は他の男子二人がいるから言葉を濁しているが、女子の私が一人、男子寮で暮らす羽目になったことを言っているのだろう。
 まあそうだよね、傍から見るとはっきりきっぱり貞操の危機だし。
 普通ならボディガード神高にべったり貼りついて離れないだろう。
 それが安全への近道というものだろう。
 けれど私はそんな窮屈な生活はごめんなのである。
 畑仕事とガキ大将相手で培ったこの体力と技を、隠して生きる理由はない。
 本当は大人しく過ごして、高校デビューでイイコチャンなキャラでやろうかな、とも考えてたんだけど。
 そんなもの、食券の前には吹き飛んだわ!

「どうやら、最初の印象に騙されていたようですね」

神高がそんなことを言っているが、最初って言うと、あれか。
 山登りでへばっているところを迎えに来られた時。
 あのヘロヘロ状態がデフォだと思っていると、確かに勘違いするかも。

「それにね、私ってば実は、鬼ゴッコ得意なんだよね」

なにせ、中学でもやっていたからね、鬼ゴッコ!
 子どもっぽいと言うことなかれ、田舎は娯楽がないから暇なんだよ。

「だから、本気で勝ちに行く気だし」

私はそう言いながら、ゲットした鉢巻を一本輪っかにして首にかけると、残りをそれにぶら下げてジャージの下に仕舞い。
 自分の分は腕にしっかりと巻き直す。

「さぁ、次いってみようかぁ!」

「どうぞご勝手に、こちらは適当について行きますので」

やる気な私に、神高がやる気なく続いた。
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