迷子の竜の冒険記

黒辺あゆみ

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迷子の竜、都に行く

青い竜の証言

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ある魔術師から、長毛種竜の子供を教育してほしいと頼まれた。何でも幼くして親竜と別れた子供なので、「竜らしくない竜」らしいのだ。現在人間の子供に拾われて、一緒に生活しているらしい。
 竜という生き物に対して、人間の間では、不老長寿の薬だとかいろいろな俗説がある。その代わり竜の間でも、魔術師に対する様々な俗説が流れている。いわばおあいこのようなものである。
 こういった事情もあり、竜の子供が人間に拾われるというのは、不幸なことではないかと考えたが、幸いなことに、拾ったのは都で有名な魔女と英雄の家族であるとのこと。竜という生き物について、他者よりも詳しい家族なので、危害を加えられるようなことにはなっていなくて何よりである。

そして、連れて来られた竜の子供と会った。

「なるほど……」

「竜らしくない竜」とは、うまく言ったものだ。その竜の子供は丸かった。確かに竜らしくない丸さである。

 ――何故に、これほど丸いのだ?

 竜というのは切り立った山を棲みかにすることが多い。それが人間と共に平地に住んでいるため、運動不足であるのだろうか。その上生活の中で必要がなかったのか、火を吹くのも飛ぶのも下手であった。火の代わりに煙を吹く竜など、初めて見た。
 それに人間との生活に慣れたせいか、人間の食べ物を好んだ。毎日人間の少年と同じものを食べているらしい。好物は一緒に暮らす人間の子供の母親が作る、りんごのパイだそうだ。なんとも贅沢な食生活である。
 確かに、魔術師の言うとおり、これほど竜らしくないが、人間らしい竜はいないであろう。だが竜の子供も、せめて火を吹くことと飛ぶことをもっと上手になりたいらしい。なので、少々特訓をつけてやることにした。
 が、この竜の子供はとんでもなく不器用であった。

「お前、よく今まで生きて来られたな」

「放っておくのである」

ため息交じりに言えば、竜の子供がそっぽを向く。
 飛べば風に遊ばれ、火を吹けば咽る。この竜の子供の親竜は、生まれたばかりの我が子に何を教えていたのだろうか? そう疑うほどに、竜の子供はダメダメだった。
 聞けば、親竜とはぐれたきっかけは、引越し途中に親竜の背中から落ちたことらしい。その上落ちたことに一族の誰も気付かなかったらしい。

 ――そのようなマヌケな親竜ならば、あまり期待してはいけないのかも知れない。

 同じ竜として見過ごせない不器用ぶりだった。
 そもそも竜というのは、生まれた瞬間から教育が始まるほどに、教育熱心な種族である。一般教養的知識は人間でも教えてやれるが、火を吹くことと飛ぶことは、竜にしか教えられないことである。これを教えるには時間がかかりそうである。救いなのは、本人(?)は一生懸命であるということであろう。

後日、知り合いの竜に声をかけて探してもらった親竜がやっと捜しにきた。なんと、教えてもらうまで我が子が一匹足りないことに気付いていなかったらしい。
 このようなマヌケな親竜から早く巣立てたことは、この竜の子供にとって幸いなことであったのやもしれない。
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