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オーレルの驚き
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「オーレル殿、大丈夫でございますか?」
ミアータと呼ばれる盗賊風の少女とその仲間らがこちらに心配の声をかけてくれる。
「大丈夫だ」
大急ぎで自宅近くまで来て少し休息を入れようかという提案を退ける。
「今は一刻も早く家族らと会うことが最優先だ」
「わかりました」
息は荒いが訓練に比べれば大して苦労ではない。
「(この御札の効果は凄いな)」
ハッキリとそう確信する。普通ならばあの戦場から家族が住む家までかなりの距離があったのだが脚に張ったこれの効果で3分の1以上の日数を短縮していた。
魔術品だと思うがこのような物など存在すら知らない。
移動の脚を止めず合間合間に干した肉や果実を食べ水を飲みながらひたすらに家まで向かう。
「ユーリィ、いま帰ってきたぞ!」
「あなた!どうしてここに?王国の命令で獣人国へと行っていた筈では」
妻は信じられないという表情だった。普通に考えればこんな短時間で帰ってこれるはずなど無いからな。
「説明は後だ、子供らは起きているか」
はい、と答える妻。
「では、一刻も早くここから逃げるぞ」
「どうしてでございますか?」
「実はな・・・」
簡単にだが王国軍が壊滅し自分は王国を離脱する事を説明した。
「とにかく、ここに住むことはもはや出来ないのだ」
妻は少しばかり悩んだが、
「分かりました」
自分を信じて付いて行くと。
「お話は終わりましたか?」
「ああ、すまない」
彼女らは待っていてくれた。
「その子供らは?」
「命の恩人だ」
「説明は後です。お二人は子供らをお願いします。家の中にある物は全て持っていきますので」
そうして魔術による【収納】で全て仕舞ってしまう。後に残ったのは何も無いカラッポの家だけだった。
「まだ王国は混乱しておりますので追っ手を差し向ける可能性は低いですが急いだ方がよろしいですね」
そうして妻と子供らを連れて王国から脱出した。
「お父様、疲れました」
「ぼくも~」
「おなか、すいた」
しばらく街道を歩いて子供らが疲労と空腹を訴える。
「休憩を取りましょう」
「しかし」
「ここで子供らに無理をさせて体調を崩されてはハクロウと合流するのがもっと遅れます。足跡は部下が全部消しておりますので」
大丈夫だと。
「そろそろ食事を取る時間でもありますし」
「分かった、よろしくお願いします」
ミアータらはすぐさま食事と休憩の準備を始める。王都から逃げ出して半日ほど進んだ街道で鍋やかまどなどを手際よく出して作り薪を集めて料理を始める。
しばらくして料理が完成した。
「これは?」
何か平べったいものと野菜が浮かんだスープを渡される。
「水団(すいとん)と呼ぶ料理です。野菜を煮て調味料で味付けしたスープに小麦粉を水で溶いたものを入れたものです」
初めて聞く料理であった、腹が空いていたのですぐさま口に入れる。
『美味しい!』
すぐさま子供らが笑顔になる。
「(それほど複雑な料理ではないがとても美味いな。王国軍で出されている料理とは比べ物にならん)」
王国軍の食事は大抵ボソボソと固いパンと少しの具が入った塩スープだけである。それに比べればご馳走だった。妻もこれほど美味い料理など初めてで味を何度も確認しながら食べていた。
「簡素な食べ物ですが」
「いや、助かったよ」
所持金もさほど無かったから彼女らが食事を作ってくれるのは非常にありがたい。食事を終えて再び街道を進みだす。
「お父さん、足が痛い」
娘が痛みを訴えた。子供らはこれまで長い旅などしたことがなかったから仕方が無いな。休息を取り子供の足を見ると何箇所か赤くなっていた。
「お子さんが長旅で足を痛めたのですね」
するとミアータが何かを出してくれる。
「脚の擦り傷や靴擦れなどに良く効く軟膏です。多少時間がかかってもいいですからじっくりと塗ってください」
そうして子供らの足に優しく軟膏を塗る。
「今日はここまでで終わりにしましょう」
日暮れが近くなり野営の準備に入る。
自分らは手ぶらであったがミアータらが簡易テントから食器まで全て出してくれる。
「すごいな」
「どうかしましたか?」
「君はこんな子供なのにあらゆる場所で生活できる能力を持っていることが」
「ハクロウのおかげです」
「命の恩人の名前か」
「そうです」
「そうか」
やっと聞くことが出来た。
「先に忠告しておきますが私、いえ私達は貴族や大人から言葉に出来ない暴力と理不尽な仕打ちを受けました。貴方が優れた人物であることは分かります。ですが、それだけです。ハクロウが命を助け客人としてもてなせというから従いますが序列としてはこちらが上です。むこうに着いたら客人待遇は終わり問答無用で戦力となってもらいますから」
彼女らは手助けはするが敵意は消えないといっていた。そういう理由ならば仕方が無いとしかいえない。この世界では脅威がそこかしこにあり平和に暮らせる場所など一握りの水ほども無い。水は簡単に手から零れ落ちてしまう、落ちた水は二度と拾えないのだ。
「魔物への警戒はこちらで行ないます」
明日からも歩く事になるから早く寝なさい、と。
そうして翌日からも長い距離を歩く事になる。
「止まって下さい」
「どうした」
「敵を探知しました、数は50ほど。どうやら山賊の類みたいですね」
このままこちらに向かってきていると。だが、どこにもその姿は無いが。
「あなたはまだ入ったばかりで能力の使い方が分からないですね」
「能力?」
よくよく考えてみればなぜこんな子供らだけで構成されているのか?そこが不思議だったのだ。
「『情報展開、戦術を構築』」
するとヘッドサークレットから凄まじいほどの情報が流れ込んできた!
「こ、これは!」
何もかもが見える。周囲の地形、マップ図、木などの障害物、位置情報、そして隠れている敵の反応まですべてが。
「【隠蔽】などで上手く隠れているみたいですが『ガーガス・オルタネイト・システム』ならば隠れる事は不可能」
すぐに殲滅する、と。
「オーレル殿らはここに残って下さい」
全員が装備を取り出す。短剣からクロスボウまで。どれもこれも見た事が無い形状をしている。
「自分も付いて行く」
「危険に晒すなと命令を受けていますが」
それでも、確認したいのだ。圧倒的多数の王国軍を壊滅させたその能力の一端だけでも。
「いいでしょう」
付いてきなさいと。30名の内5人残り後は敵がいる方向へと向かう。向かうと間違いなく山賊らがいた。上手く隠れているようだが自分らには生命反応がしっかりと見える。
「結構な相手だな」
「問題にもなりません」
え?どういうことだろうか。
「全員スタン・ボムなどを投げ入れてからクロスボウの一斉射撃で黙らせます。逃がすと面倒ですから」
そうして「見ていろ」といわれて子供らは二手に分かれる。左右に分かれて攻撃態勢を整える。だが、かなりの距離が残っているのだが。
「攻撃開始!」
子供全員から何か球体のような物が敵に向かって何個も投げ入れられる。すると、
「ギャァアァ~!」
敵全員が飛び出せ・・・なかった。まるで糸で縫いつけられたかのようにビクビクと震えるだけである。次にクロスボウを構えた子供らの攻撃を食らう。
ガガガガ~。
まるで豪雨を叩きつけるかのように打ち出される矢の猛攻によってあっけなく最後を終えた。
「めぼしい物がありませんね」「そうですね」「こんなものでしょう」
子供らが無駄に時間を取られたと舌打ちする。敵全員の生命反応が消え遺体を確認する。そして装備などを剥ぐ。
「なにか?」
「君らはそんなことまでするのか?」
山賊なので生死は問われない、しかし先ほどまで生きていた人間の装備を奪い取るとは。
「戦利品の回収は勝者の当然の権利であり傭兵として当たり前です」
「それはそうなのだが・・・」
彼女の言い分に間違いなど一つも無い、だからこそ異常なのが分かる。こんな子供らが生き抜くには敵は殺さなければ自分が殺されることを良く理解していた。だが、子供の身体能力では大人に勝つのは難しい。ならば別の力が必要となる。
ミアータらが使っていたあの装備、あれの威力と攻撃速度を改めて確認する事となった。
「(こんな子供らに与える装備としては間違いなくありえない)」
王国軍を一方的に殲滅させたあの装備、世界のどこにも存在しないその装備の恐ろしい事。盾も鎧も軽々貫通し連射可能でありすぐさま矢を補充できる。これだけの人数であるにもかかわらずこの脅威なのだ。これを大量に所持しているのなら矢が尽きぬかぎり近づく事は出来ないだろう。
「すまないが」
ほんの少しだけ、その装備を見せてもらえないかと。怪訝な表情を一瞬浮かべたが、
「少しだけですよ」
そうしてそのクロスボウを渡される。
「(何と見事な出来だ。基本は木材などで出来てる。大人サイズだがかなり軽いな。これなら多少訓練すれば子供で扱える。この世界の石弓に良く似ているが根本的に違いすぎる。矢を連射する構造は理解できないしあれほどの威力を維持など不可能だ。魔力を付与されてもいるな、それの影響か。まさかこれほどの装備を大量に保持してるのか)」
装備には飾りらしい飾りなどは全くなく機能性だけを求めていた。「恐ろしく強力で手軽」としか感じなかった。自分も最新式の装備には興味を持っていたがこの装備とは比べる意味すらなかった。時代が完全に違うとしか思えない、まさに『殺戮の道具』であった
これならば非力な子供でも装備で固めた大人を殺せるだろう。
試しに空に狙いを付けて構える。ストックがあって構えやすかった。発射すると、
バシュン!
軽い音と共に矢は遥か彼方に飛んでいった。
「(これほど強力なのに反動をまるで感じないとは。兵器の概念を完全に変えてしまっているぞ)」
矢の到達点は目視できないだろうな、あまりの簡単さに笑いが込み上げてくる。
「(これを相手に進軍する?馬鹿を言うな、これではただの的だ)」
自分ではこれを相手にする作戦は考えられない。知らなければ良かったと感じるぐらいなのだから。
「もう、よろしいですか」
「ああ、すまなかった」
そうして装備を返す。正直に言えば返すのが惜しかったがここで逆らえば家族共々死へと旅立つだろう。
「君らは傭兵だといっていたね」
「そうですが」
「なぜ、王国軍に敵対した」
「ハクロウから命じられただけです」
依頼主の事などしらないと。
「(獣人国から依頼を受けたのではないのか?)」
明確に敵対しているのはそれだけ、他にも仮想敵国はある。外交も良くない、誰かが攻め込んでも不思議ではないのだが。
「詳しいことはハクロウから聞いてください」
「そうだな」
今は家族と共に安全な場所まで逃げることが先決だった。
そうして移動と野営を繰り返して目的地へと到着した。ナルダーと呼ばれる都市であり近年傭兵らの活躍によって比べ物にならないほど安定した治安を守っている。
「おかえりなさい」
狼の仮面のをつけた主人らが門の前で待っていてくれた。
「ただいま戻りました」
「我が主人よ、家族の安全をもたらし感謝しております」
頭を下げて平伏する。騎士としての上位者への礼法、相手は「生真面目だなぁ」とぼやいていた。
「さっそく住居に案内するよ」
ミアータらと別れて数人と共に都市の中へと案内される。
「ここだよ」
案内された場所の家は、
「!」
前の家の3倍はあろう広さとよく管理されて綺麗な家だった。
「どうしたの?」
「いえ、これは」
「あ、あなた」
妻も子供らも皆驚いた。中に案内されるとさらにビックリした。前の家の家財や道具などは全て置いてあり広々とした空間と真新しさが眩しい。
「とりあえず足りない物はこっちで買い足したから」
「ほ、本当に自分らにこの家を・・・」
「まぁ、とりあえずという所だけどね」
言葉が出てこなかった。
「傭兵ギルドから拠点として預かってるんだけど自分は子供らのそばから離れたくない。そっちで好きに使っていいよ」
維持管理はこちらでやれ、そう簡潔に。
「さっそくで悪いんだけど時間が詰まっている、4日後から正式な仕事を与える」
「分かりました」
ここからは仕事の話だった。家の中の椅子に座り家族と話を聞く。
「オーレル、あんたの能力なら300人ぐらいは統率できるね。訓練を施せる人数はその4倍ほどか」
「はっ」
「自分は傭兵団団長としてこの都市を含む複数の都市の治安と安全確保の依頼を受けている」
主に魔物などの討伐や商人らの護衛など仕事はいくらでもあると。相当に優秀で信頼が厚いのだろうな、でなければこんな家を拠点として貸したりなどしない。
「すぐさま部隊を率いて出て欲しいんだけど信望の無い指揮官は無意味、簡単に裏切られるからね」
この人物も老将軍と同じ事を言っている。
「新しく買ってきた奴隷らに基礎訓練を施す『訓練教官』として始めてもらう」
人数は全員で1000人を越えるのだとか。いきなり大変な仕事だな。
「マニュアルはこっちで用意してるからそれに沿って行なって。子供らだから無理押しは出来ないけど必要以上に甘やかすな」
何か必要な物はあるか?そう問いかけてきた。
「所持金が余りなくて」
「ああ、そうだったね」
皮袋を出される。
「当面の生活費として15万ギニー、1月ごとに3万ギニーを出す」
「本当ですか!」
王国軍の給金の3倍以上も出してくれる、だと?
「これはあんたの能力を高く買っているからだけど失敗すれば当然金は減っていく」
「わかりました」
「後はあんたの能力と結果次第で給金は増えていく」
「基礎訓練ですがどのような内容ですか?」
中身を確認すると走り込みが多いな、あとは文字の読み書きや数字の計算など。元奴隷だからそんなことは教えられていない。これも必要な教育だった。
そちらについては他の人物と協力して教えろと。
「とりあえずこれでいいか」
フィアナ、ファレナと。名前を呼ぶと2人の女性が隣に立った。
「すまないけど魔物の討伐依頼などが入っている。後のことを話し合って」
「かしこまりました」「お気をつけて」
そうしてハクロウは出て行った。
「確か貴女はヴァトラー公爵の妾のファレナ様ですか?そして娘のフィアナ様?」
そうです、と。
「失礼いたしました。我が主は公爵家の庇護を受けているのでございますね」
なるほど、名領主と名高いヴァトラー公爵が後ろ盾ならば納得が出来る、それも次の言葉を聞かなければだった、
「違いますよ」
公爵家のほうが庇護を受けているのだと説明された。
「?」
「私と我が娘は公爵家に居場所がありません。他の妻とは仲が悪すぎて理解しあうのは不可能でしょう。他の妻は生まれの身分に合わせて領地を与える事が決定しておりますが私達に与えられるものはほとんどなく平民同然の生活が精々です」
大貴族家でも今の世の中で家を繁栄させていくことは難しいと。
「今後の生活を考えて苦悩していたのですがハクロウの庇護を受けて将来は公爵家とは付かず離れず程度の関係を保ち独立した爵位と領地を与えてもらえると内々に約束しております」
その勉強として側にいるのだと。
「そんなことが可能なのですか?」
「そのようです」
公爵家から物資を買ったり交易はするが貸し借りは作らない。そういう方針らしい。
「領地を貰い領主として立つには優秀で忠実な家臣が必要だと」
「自分らがそうだと」
「領地の下級貴族家や騎士らの子供らもこの部隊に参加しています。それらの中から部下として引き立てろとも言葉を貰っていますよ」
「本来であればハクロウがそれを受ける立場なのですが」
本人が断固拒否しているのだとか。
そうして訓練予定日まで時間を潰す、というが身なりが教官らしくないので最低限それは整えろということだった。
そうして訓練予定地まで行くと、
「(オイオイ年齢も種族なども不問で奴隷だけ買ってきたって言うがこの人数は・・・)」
圧倒的多数が成人しておらず子供しかいなかった。種族も纏まりがなく性別も関係が無く根こそぎ買ってきた、そう表現するしかなかった。そしてその人数の多いこと多いこと。1000人ほどと言っていたが実際に集まると壮観だな。
彼らは普通の服を支給されていてそれに着替えている。
「あなたは?」
「君達の基礎訓練を任かされたオーレルだ」
ヘッドサークレットからの情報で上位者だと伝えられる。
「お、俺たちは・・・」「わ、私達は・・・」
怯えと恐れなどが入り混じった不安の色がハッキリと見えた。マニュアルでは戦闘用員と非戦闘用員を出来る限り早く分けさせろと書かれている。
「(こんなご時世では子供らとて武器を取らざるを得ないか)」
大人と違い子供らは手間がかかる。だから大量に放置され簡単に売られる。見たくもない現実だがそれでも命令は絶対だ。
「(幸か不幸かこの子らには頼る相手がいない。買い主に忠実であることを最初に教えないとな。そこから先は長いが金を支払い終われば自由になるか留まるかの選択肢が与えられる。まずはそこまで行ってもらわないと)」
自分とて後進に教育を施さないといけない時期に来ていた、その前に老将軍がいなくなり最悪のクズを押し付けられて諦めていたがこのような大役を与えられるとは。
「(老将軍が常々話していた『名将はいかなる命令でも部下に与え命令を受ければ戦に勝つ事だけしか考えない』と。まだまだその域まで到達できてはいないがこれも人生だろう。ならばいまはこの子供らを鍛えて生き延びられるようにしなければ)」
そうして訓練を開始する。
まずは最低限動ける体力を作る、それをしばらく行い戦闘行為可能かどうかの判別をする。敵を前にして動けなければ死を意味するからだ。そういうのには別の仕事を割り当てられる。そこからは装備を与えて的などを相手にしての訓練となる。武器ごとに使い方や整備方法などを学ばせる。その間自発的に落ちる子もいれば積極的に訓練に励む子などが現れだす。
この辺りでやっと適性があるかどうかの選別に入れるようになる。
「これが結果です」
ハクロウに結果を報告する。その中身はヘッドサークレットを通じて全て伝わっているが明確な数字として形で確認する必要があるのだ。
その中身をじっくりと確認していく。
「戦闘が可能なのは6割ほどか・・・」
「はい」
ハクロウの顔色は余り良くない。予想していたよりも少ないからだろう。だけど、訓練などに手は抜いていない。子供と言う事を考えればこれは仕方がない部分がある。種族もバラバラなのでその辺りの意識の差も大きいのだ。
「落ちた子供の中で土壁を作ったり動物などを飼育訓練できる子供らもいたかな?」
「たしかにおりますが」
そういう子供らも結構多かった、もっとも役に立つかどうかだと聞かれれば大した価値はないと言える。その程度などちょっと経験と知識があればできることだから。
「よし、その子らには工作兵や飼育兵として教育を施して兵科として運用する」
ハクロウは利用価値があると判断したらしい。正直に言えば何をさせるのか分からなかった。
「このまま基礎訓練を続行して」
まだしばらくはこの訓練を続行させろと。ただし、戦闘員以外の訓練時間は半分とする決定を出す
「よろしいのですか」
「魔物などへの恐怖に打ち勝てない者らに戦闘は強制させられないよ」
「では、どのようにして食わせていくつもりで」
「そっちは傭兵ギルドなどに伝手があるから」
「わかりました」
どうやらハクロウは資金稼ぎも一流のようだった。これだけの大人数で先のことが分からない子供らを十分すぎるほどに食わせていけるのだと断言した。何をするにしてもお金は必要だ、それに不自由しなければ大抵の事は出来る。
軍隊というのはそれだけ金がかかるのだ、固定給の貴族や騎士とは違う傭兵なのでどれだけ上手く資金稼ぎを出来るかどうかで評価は完全に違う。傭兵ギルドの依頼だけでは維持できないため色々な事を商売としている。
「どうかしたの?」
「いえ、我が主殿は本当に優れているなと思いまして」
「これしか能がないからね」
戦しか知らないから戦を商売とした、ただそれだけ。
だが、無能者らが大きな権力を握っているこの世界ではハクロウのような存在こそが大切なのだ、あの容赦のない殲滅も無意味に行なったわけではない。その理由は分からなかったが。
驕らず飾らずただ勝利するためだけにこだわり部下の配慮も徹底していた。
「(老将軍、どうやら本当の主を見つけ出せたようです)」
そこからは装備などを与えられ戦い方や動き方などを徹底的に叩き込む。
「(あまりにも上達するのが早すぎる)」
最初訓練を始めたときは種族差はあるが本当に普通の子供と変わりなかった。しかし月日を重ねていくと明らか変化していた。最初の頃はただ単純に『武器を振る』程度でしかなかった。だが、今は『武器を使いこなす』に変わっていた。ちょっと言葉違いと感じるかもしれないが中身はまるで別物だ。棒切れをもって剣の真似事をするか真剣を持って敵を殺す方法するかほどに違う。
そうして子供らは日増しに実力を高めていった。
「紹介するね。いまここにいる子供らを率いている部隊長らだよ」
カイン、エレン、ミリオン、ミエスク、ミアータ、エリス、と。6人のうち4人が子供だった。
「ハクロウ、この人は誰ですか?」
やや青みがかった髪の男の子カインとすこし緑色の髪をした少女エレンが聞いてくる。
「新しく買ってきた子供らに基礎訓練を施している教官だよ」
仲良くしろと。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
簡単に挨拶を交わす。
「(とても強いな・・・)」
会ってみてすぐに確信する。相手の能力を性格に分析するのは基本中の基本である。
指揮統率能力だけでも互角かそれ以上で一騎打ちでも勝率は3割に届くかぐらいだろうな。
カインは槍を使うようだ。礼儀作法が求められる席では剣が圧倒的に多いが実際の戦場では弓など遠距離武器に次いで高い戦果を上げる武器である。その部隊長なのだから弱いはずがない。
容姿は整っていて強い、まるで本の中の騎士のようだ。この6人の中では直接的な戦闘能力は1番高いと言えるだろう。
エレンは自分と同じ剣を得物として使っているが見慣れない剣を持っていた。直線的な作りではなくやや反りが入った片刃の剣と盾と篭手の両方を合わせた装備である。
見た目美少女だが数多くの実戦を潜り抜けてきて視線が鋭い、多分そこらの大人では相手にならないだろうな。
ミリオンはエルフのようだ。外見が若く変化しないので実際の年齢は分からないが非常に若いはずだ。彼女は魔術師などを率いている。自分が見たあの火の海は彼女らが生み出したのだろう。万単位の人数を一瞬で消し去るほどの魔術師など数えるほどしかいない。
それ以外にも彼女はハクロウの補佐などを行なっているようだ。この中では2番目の地位なのだな。
ミエスクは獣人だ。人間と同じく数が多いの上に外見的特長が多いので一括りには出来ないが猫の耳と尻尾を持っていた。そして持っている物は見せてもらったあのクロスボウと同じ物である。石弓兵はここでは一番多い構成でそれを率いてるということなのでもっとも攻撃的な部隊だといえる。
この子も将来は美人になると断言できるがどうも他人を余り信用していないようにも感じる。
ミアータは自分をここまで連れてきた盗賊らのリーダーだ。仕事は罠の設置や解除、偵察などが任務だ。特に正体を隠して仕事をする事に特化している。
時と場合によれば暗殺という選択肢すら取るだろう。
エリスは治療部隊である神官らを纏めている女の子だ。主に部隊の衛生面を配慮している。だが、この子には他とは違う感じがした『貴族としての気品』というものを感じたのだ。だが貴族の子供が奴隷であることなどありえないが。
「ハクロウ、部隊の増員はどうなのですか?」
カインが質問する。戦闘用員として使えるのは600人前後だ、それをどのぐらい割り振るのか聞いてくる。
「適正を見る限り大幅な増員は難しいな、新規に兵科を造るのでそこに割り当てるから」
「ハクロウ、そろそろ装備などを変更しないと敵への対処が難しくなります」
エレンはもっと優れた装備を補充してほしいと頼んでくる
「先の戦いで敵装備を大量に鹵獲したけどサイズが合わない、鋳潰すなどして装備に変えて回す」
「ハクロウ、傭兵ギルドが他の場所へと派遣する商人の部隊への護衛を依頼しています」
「そっか、わかった。それじゃ規模に合わせて部隊を編成する」
そうして子供らを交えた話し合いは続いていく。
「共用の軍服の支給に生活用品の補充とかしないとなぁ、ミリオン、予算はどれぐらいある?」
「すぐさま現金として使えるのは1500万ギニーほどですね。ただ、今後を考えると依頼や魔物の素材や資源の再利用だけでは追いつかないと思います」
何かしら別の資金源調達手段を考えたほうが良いと。これだけの規模なのにこれだけの予算があるのか、すごいな。ほんとに傭兵か?
「金や銀とかは必要ないから売るか。そのままだと価値が低いから加工しないと。それ以外では何が不足している」
「特に矢の消費が激しいです。生産部隊で量産しておりますが激しい戦いを想定すると間違いなく不足します」
補充してほしい数字を明確に出す。
「それは仕方がない部分があるか。もう少し資源の獲得を重視した運用も考慮に入れないといけないな」
「ハクロウ、連携を組んでいる他の傭兵への対処は?」
「そっちは装備などを回して今後とも付き合っていくことにする。まさか自分らだけで全ての依頼を達成するなんて不可能だからね」
他の傭兵にも仕事を残す配慮までするとは。
「ハクロウ、一度だけお願いがあります」
「オーレルか?どうしたの」
「御顔を拝謁してもよろしいでしょうか?」
するとカインとエレンが武器を抜きこちらに向けてくる。
「お前ごときがハクロウの顔を見ることは許さん」「あなたのような新参者が指揮官に頼みごとなどありえません」
二人の殺気は本物であった。
「いいよ」
『ハクロウ!』
「素性も分からない相手を信用できないよね。オーレルにはそう言っても良い価値がある」
そうしてハクロウは狼の仮面を外す。
「・・・っ!」
そこから現れたのは気のよさそうな少年とも青年とも言える顔立ちの男だった。
「(・・・若い、あまりにも若すぎる。どう見ても10代後半か悪くても20台半ばだ。こんな青年がこの部隊を一から立ち上げたとは信じがたいが現実だ。貴族の子供が傭兵になることなどありえないから平民か?だが、これほど優れた指揮官となるにはあまりにも早すぎる。どれほど実戦を潜り抜けてきたのか見当がつかないぞ)」
オーレルは主の顔を見て非常に驚いた。口調から若いとは思っていたが30歳はいっていると思っていたがここまで若いとは。傭兵の世界は全て実力が物を言う場所だ。この若さでここまで上がってきたのに幸運などでは説明が出来ない。全て実力だけで上ってきたのだ。
一から十まで軍隊というものを知り尽くし縦横無尽に敵を殲滅する指揮官、あれほど残酷な作戦を考えたとはとても見えない。偽者?いやここにいる全員が本物だと認めているのでそれは無い。そこらにいる生まれだけの飾りの指揮官などではなく戦いを生業とする本物の指揮官である。
「どうしたの?」
こちらの希望通りにしたのだから何か聞きたいことがあるのだと問いかけている。
「ずいぶんお若いですが」
「そうだね、20歳だね」
顔立ちに偽りは無く本当に若かった。
「どこか高等な兵学校に行っておられたのですか」
「残念だけど書物で読み書きはしたがそういう訓練は受けていないな。なにしろ運動能力低いから」
「ならば軍人系の貴族家の出とか」
「さらに残念だけどそういう血筋ではない。生まれも育ちも平凡でただ誰よりも知っていたから傭兵をしてるだけだから」
笑顔で答える内容はオーレルの予想を完全に裏切った。だけど、部隊はここに実在している。指揮官も存在する。
「出発はカインらを買ったことと生き抜いていくための職を得るためだったんだけどいつの間にかこんなに増えた。それだけ」
「では、貴族になるためでもなければ英雄と呼ばれるためではないと」
「物語ではありがちだけど一人の勇者が神々の加護を受けて敵を討ちとるってお話だね、王国の勇者が活躍したって話は聞いてないんだけど」
確かに、多少加護がある程度で勇者なのだ。まともに戦うことが出来るほうがおかしい。大多数が戦闘放棄して部屋に逃げていると聞いている。
「大体敵って言うけど誰が敵なの?」
「えっ?」
予想外の言葉を言われる。
「王国だとかは自分らさえ良ければいいだけ、魔物はそこかしこに我が物顔ではびこっている、貴族らは私利私欲のために他人を平気で追い落とす、山賊夜盗の類は当たり前、こんなにいたら誰も彼も信じられない」
ほら、敵はそこかしこにいると。冷静に考えればもはや誰でも敵とみなしてもかまわない状態なのだ。この世界には神が救済を与えることなどありえないと。
「自分が仮面を被っているのは正体を分からなくすること以外にも理由がある」
こんな青年が指揮官など笑い話にしかならないだろうな、普通は名を売るために豪華な身なりをするがハクロウは逆で正体を分からなくするために地味な外見をしている。仮面についてはあまり触れないほうがいいだろう。
そうしてハクロウは再び仮面を装着する。
「さて、王国側も獣人国側も今回の戦争をそれぞれ都合よく処理するから」
次の手を打つ、と。
『訓練をするのはいいがそれという名目での手出しを禁ずる』
つまり性の営みは絶対にしてはならないということだ。そうすると優遇されるとか何だとかの話になるので絶対にしてはならないと。子供らの中にもそう言う行為を受けているのもいるが例外なく心に傷を負っていた。
『こういうことを処理する相手がいればいいんだけど探すのは本気で大変だから』
商売女や素人女では病気や情報の隠蔽に問題がある、なら自前で用意したほうが早いそうだ。王国軍では娼婦を囲い込んでいるが妊娠や子供などの問題もあった。
『このヘッドサークレットは特別製で『月経』が起こらなくなるようになる』
つまり妊娠する心配は無い、しかし、その欲望の処理には細心の注意を払わないといけない。
『こんなことやりたくないけど好き勝手にそういう行為をされると部隊の秩序が無くなってしまう』
規律とは守らせるのが本当に難しいのだと。何しろ無法者が多い傭兵なのだ、それに配慮してないと犯罪に走る事もある。なので徹底的にしているがあと少し年月がたてばそれをしてくれる相手を探さないといけないのだと。
『そういう行為を知っていて無理矢理しようとした子供らもいた』
その子供は徹底的に躾けたそうだ。
『それは自然な行為であり押さえつけるのは良くないんだけど子供らの中には誘惑しようと考えてるのもいるからね』
ハクロウも女の子からそういう誘いを受けたことがあるそうだが全部無視している。指揮官と肉体関係となると色々と面倒なことが多いのだろうし良く思われないのは確かだ。
『そういうわけだから。オーレルには奥さんがいるだろうけどまだまだ若い、何かの気の迷いもあると思うし』
手を出したら駄目だぞ、と。やはり部隊というのはどこも同じ問題を抱えてるのだな。
『当てが無いわけじゃないんだけどねぇ』
『はぁ?』
『わかんない?』
『えっと』
そういえば自分もそういうのは本で学習しただけで妻も本で学習していた。
『子持ちの未亡人だよ!』
「はい?』
『つまりそういう行為を教えられるのは経験者だけでしょ。それなら他人の女がいい。加えて夫を亡くした相手だとさらにいい。彼女らは前の夫との間に幼い子供がいることが多い。戦乱の時代だからね。口止め料を支払うなら約束を守ることが多いし保護下において次世代への配慮も出来るからね』
説明を聞くと「なるほど!」とよく理解できた。
『娼婦だとか売春婦だとか聞こえは悪いけど全員生き抜くのに必死なんだからある程度はそう言う人材も確保しとかないとね』
こんな世の中なのだ、生活が保障されるなら体を差し出しても咎める危険性も無いだろう。
『ここで捨てられたらもっと生活に困窮する』
そうして男らの罪悪感を減らすと。
『男の方はこれで何とかできると思うけど女は選り好みが激しい、エルフなど美男子を調達できればいいなぁ』
ハクロウはどこまでも合理的だった、普通ここまで配慮する指揮官なんぞどこにも存在しない。ただひたすらに体を貪られる男や女には悪いがハクロウもまた部隊の秩序を守るのに必死なのだ。
王国軍にいたときは好き勝手に使い回され死んだ魚のような目をした娼婦ら、病気にかかり投げ捨てられる女らを見てきている。それと比べれば間違いなく天国だろう。ここでの食事などが普通の軍隊などよりはるかに厚遇されているのだから。そして待遇の良い生活を知れば逆らうことはありえない。
『自分は女をそう言う目的で相手をする気は無いけどどうしてだかそういうことを考えてる女の子が多い。別に無関心というわけじゃないけど女の相手は苦手なんだよ』
『はぁ』
『あ、別に男の子が好きだとか変な性癖は無いよ。ただそういう欲望があんまり無いというだけだし』
成人男性としては不能に近いかもしれないと。
『とにかく、彼らは仲間であるとともに商品でもあるから細心の注意を払っている、それに不用意に手を出すならば徹底的に潰すけどね』
気楽に笑っているが何か女性に嫌な思いだがあるのだろうか?
『とりあえずこのまま基礎訓練を続行して、ある程度目処が立ったら部隊を動かしてもらう』
『分かりました』
そのまま命令どおりに訓練を続行する。1ヶ月ほどでかなり統率された動きをするようになる。
「うん、ここまで行けば問題ないか」
「はい」
「オーレル、すまないけどあなたに任せられる人数には制限をつけさせてもらう。あんたはいつか奴隷から解放されて正規の部隊を率いてもらうからどうしてもそうした思惑や配慮が必要なんだよね。教えられることは全部教えるけどどこもかしこも人材不足なんだ。特に正規の部隊の腐敗の深刻さは理解してるだろう」
それはもう、あの馬鹿らのお守りなど二度としたくない。
「あんたはフィアナ付きにするから将来彼女が領主として独立したら側近として働いてもらう」
「ハクロウ殿が傍にいるのでは?」
「自分は傭兵という立場から出て行く気は無い。手助けはするけど出来るだけ彼女自身に判断させるようにする。まだどこかすら決まってないけどどうにかするよ。あ、でも彼女は公爵家の分家ではなく独立した貴族となってもらう」
「なぜですか」
「彼女は妾腹で兄弟姉妹との関係はハッキリいって良くない。分家として立てば無理難題を押し付けられるのは目に見えてる、それなら独立した貴族家として立てたほうがいい。先に言うけどヴァトラー公爵様は傭兵に理解があるから協力してるけど次の世代はどうなるか分からない。自分は貴族は好きじゃない、ちょっかいかけてくるなら踏み潰すだけ」
何かどす黒い感情が見えた。
「ま、それはそれだ。今は子供らを食わせていくのが最優先」
この人は本当に敵に対して容赦が無い。
「そんなわけだからフィアナの側近として働けるようになるため最低でも1000人は統率できるようになること」
数年以内に!そう命令される。
「自分がですか?」
「ちょっと遅いけどそれぐらいなら『ガーガス・オルタネイト・システム』の使い方を覚えれば難しくない。戦場だっていくらでも用意できる。大急ぎで覚えてもらうからね」
そうして仮想戦場というものを見ることになる
「な、何ですかこれは!」
ヘッドサークレットから見えたのは間違いなく『戦場』であった。
「ここは頭の中の戦場だけど現実と同じように感覚は同じぐらいある。傷つけば痛みを覚える、敵も同じだ。実戦ほど成長できる場所は無い、何しろ命がけなのだからな」
なるほど、圧倒的多数の子供らだけで精鋭部隊なのはこうした場所で訓練をしているからか。
「率いれる人間は均等に分配されている。たとえそれが戦闘員だろうと治療兵だろうと誰かが手を抜けば間違いなく勝利から遠ざかる」
戦争とは互いの総力戦、負ければどうなるかも分からない。勝たなければ明日は来ないのだ。
「各自手持ちの兵を確認できたら開始する」
自分は、剣と盾をもっているのが20人で弓兵が15人で魔術師が5人か、オーソドックスな編成だな。かれらはただの駒ではない奴隷の子供らが中にいる。それを生かすも殺すも自分しだいということか。
「戦闘開始!」
そうして初めての仮想戦場が始まった。
「けっこうがんばったね」
ハクロウが褒めてくれる。
自分らの部隊はマップ情報を元に敵の攻撃を受ける場所を避けて着実に戦果を稼いだが運悪く魔術師部隊とぶつかり何名か負傷者を出した、そこまでなら退却できたのだが側面から追撃部隊が出てきてあっけなく殺されてしまった。
「最初にしては文句が出ないほどに優秀なのに不満を言うの?」
「ええ、仮想戦場というものを甘く見てましたから」
初めは机の上で紙でも敷いてボードゲームのようにするのかと思っていたがあれは本物と同じだった。これならばいくらでも死なずに訓練が出来る。・・・まぁペナルティはあるがそれを差し引いても優秀すぎる。結果での順位は真ん中より少し上ぐらいでカインらはトップを独占していた。
「まぁ、カインらは初期のころから訓練を積んでいるから勝てないのは仕方がないよ」
「そうですが、やはり子供に負けるのは悔しいです」
「贅沢だねぇ、大半は惨敗しまくるってのに」
「ですが、ここならばどこよりも豊富な経験をつめます」
ここならば短期間で強い兵を育てられる。そう考えるとある疑問が浮かび上がる。
「ハクロウ殿はこれを軍などに提供しないのですか?」
「ん?ああ、そういう話か。自分は多少編成を変えたり地形による有利不利を作って仮想戦場を構築してるけどこのシステムは指揮官としての能力で勝者と敗者が明確に分かれてしまう。平民でも出世できるのなら有効だけどプライドの高い貴族しか指揮官になれない今の世界では意味ないんだよね」
たしかに、奴らは勝てないと分かれば都合よく中身を書き換えるだろう。そんな都合よく戦場が有利なはずなど無い。とてつもなく有効なのだがこれを認めてもらうにはまだまだ世界のほうが追いついていないのだ。
「さて、そろそろ傭兵ギルドの依頼をこなしますかね」
はい、と答える。もうすでに自分は騎士ではなく傭兵なのだ。高い給金をもらってるので結果を出すことでしか誠意を見せられない。
「ハクロウ、何か御用でしょうか」
傭兵ギルドで依頼を見繕う。
「この3つの依頼を受ける」
本来であるならば複数の依頼は受けられないのだが白狼はネームカラーが高く信頼があるので複数の依頼を受けても問題ないようだ。
「すみませんが依頼期日を超過したのが複数あるんです、そちらのほうも受けてもらえますか」
「またなの?」
「ええ、何度も傭兵を派遣してるのですが結果が芳しくなくて」
受付嬢が困った顔をしていた。
「中身は?」
依頼内容を確認するハクロウ。
「まだ新人が多いからなぁ」
そうしてひとつの依頼を受ける。
「オーレル、この依頼を回すから処理して」
こちらに依頼書を渡してくる。
「わかりました」
「騎士には騎士の流儀があるだろうけどもうすでに騎士ではない、ここからは傭兵の流儀で仕事に励め」
そうして奴隷の子供らとともに仕事に向かう。
受けた依頼は作物を荒らす害獣駆除の依頼だった、500人前後の部隊を指揮する、工作兵と呼ばれる部隊が中心だった。
「依頼難易度はさして高いものではないがただ駆除してもまた同じように現れる、だから」
駆除が終わった後魔物よけの土壁と堀を作り魔物の進入を防ぐのが中心の依頼だと。
「ちょっと考えればいいだけなんだけどそんな人材すらここにはいない。国軍がやる依頼なんだけどそれすら無視されている」
「なるほど」
「こういう時こそ働くべきはずなんだけど土にまみれるのはお嫌いらしい」
まったく面倒な連中だと肩を竦めていた。だから傭兵に依頼が来る。国の発展にはこういう地道な草刈り作業が多いというのにやろうとしない。
「作成に必要な情報は入っているよね」
「はい、しかしこんなものを土に混ぜて築くだけであそこまで頑丈になるとは」
オーレルは土壁作りのマニュアルと材料を見ていた。普通の土壁ではさして長いこともたない。しかし、ハクロウが用意した『合成セメント』などを利用すれば数十年は持つそうだ。それ以外にも効率的な建築方法なども持っていてすごいの一言しか出ない。
「陣地の作成には工作兵が重要となる、念入りにやらないと効果が薄いから手抜きず仕事をしてくること」
そうして依頼の場所まで行くことになる。
「ふむ」
地形は平坦とはいえないがこれならば大丈夫だろう、結構な長さ高さとなるのでそのあたりを注意しないといけないな。
「部隊を展開する」
部隊を二つに分けて害獣駆除と土壁作りに分担する。畑と森などの領域の境目に作る予定だ。
「各自セメント作りに入れ」
木で作った箱に土と合成セメントを混入し水と混ぜ合わせる、丁寧に混ぜ合わせしっかりと混ざったところで岩壁の作成に入る。
ペタペタ。
セメントと盛り石を重ねて壁を構築する、ひたすらに地味だがやっておくかどうかで今後大きく左右されるので手は抜かない。半分ほどの高さになったらいったん乾燥させてさらにその上から盛る。セメントと岩を交互に何度も積み上げて防壁を構築するが結構な距離があるので時間がかかるな。
材料となる石材は他の場所から先に大量に確保してきているので問題は無い。
そうしてしばらくするとそこそこ壁らしきものが出来上がる。だが守りの要となる場所なので結構時間がかかってしまう。その時間の間も魔物が来ることもあるのでカインを中心とした部隊が警備として一緒に来ていた。
彼らは警備場所を決めて陣地を構築していた。
「オーレルさん、壁の建築の進行率を情報として渡して下さい」
「わかった」
サークレットを通して情報を渡す。
「・・・予定より5%ほど建設が進んでいるようですね」
「あぁ、用意してもらった猫車とか言う道具のおかげだな」
車輪が一つだけの不思議な形をしていたが使うとその便利さがとてもよかった。重い材料を子供でも楽々運べるので思っていたより苦労が無い。
「それではこちらは壁が作り終わるまで防衛します」
「頼む」
そうして少し壁を高く長くしていく。
「カインはハクロウ殿をどう思っている」
「理想の指揮官であり目標でもあります」
この子は将来一軍を率いる将軍になりたいという確固たる望みを持っている、王族でも貴族でもない奴隷の子供には不可能な夢物語だがカインは実力でそれを手に入れようと日々先頭を切って行動してた。『ガーガス・オルタネイト・システム』のことを誰よりも多く調べ自分の成長のために努力を惜しんでいない。
その手には新しい槍を持っていた。
青色に光る不思議な槍で強い雷を生み出す魔法の槍だ。防具も隊長らしく見えるよう服装も違う。前の戦いの褒美に『強い装備と技がほしい!』とハクロウに求め手に入れたのだ。それをつねに傍において使っていた。
訓練する様子を見たが槍の基本に加えて不思議な動きをしている。それを何度と無く確認するように黙々と魔物相手に鍛錬をする。
「この技は非常に強いけど実戦で使いこなすには修練が必要だなぁ」
ブツブツと呟きながらのその顔は子供らしく笑っていた。魔物の血で濡れた槍を握り締めながらだ、とっても不似合いな光景である。
「(カインはハクロウの熱狂的な信者だな・・・)」
これまでの会話からある程度予想はしていたがハクロウの敵と見なせば捨て身で戦うであろう、全ての奴隷らが。確認したが子供らの境遇は様々だ。無理矢理売られたのもいれば泣く泣く売られたのもいるし食い扶持が無い下級騎士の子供や元神官などもいる。
全員に共通しているのは生活苦である。何しろ魔物が蔓延っているにもかかわらず民を守る軍隊が役立たずなのだ。傭兵などのおかげでかろうじて生活は出来ているが一刻も早く平和が欲しいと望んでいる。その根幹となる国が一部の強欲な者らで動かされているので民はもはや王らを信じていない。実際に末端から逃亡が相次いでいるのだ。
だが、それでも生活は良くはならないので傭兵となれば良い方であり山賊などに身を落とす者も多い。この子らの親もいるかどうか分からないしいても生活費に困窮しているだろう。自分らの生活すら守れずにいる状態なのだ。国の統治体制は成り立っていない。
だからこそハクロウの提供している状況こそが異常なのだと感じてしまう。
徹底的に戦略を練り装備を整え勝つべき時に勝つ。さらに次の戦いに備えての準備も怠っていない。ここまで統率管理された部隊など奇跡だと思ってしまう。
その間に何度か魔物の襲撃があったがカインらは圧倒的な強さで殲滅していく。
「部隊A1は左に回り横腹を突け。A2は射撃をしつつ包囲しろ」
防壁を構築中にも魔物らは来るがカインの指揮の下で子供らが武器をもって防戦する。的確な指揮で魔物らは近寄れずに数を減らしていく。
「(本当に成人前の子供らだけで構成されているのか疑わしくなるな)」
それほどまでにこの子らは強い。闇雲な攻撃ではなく明確な弱点を狙ってそこを徹底的に突くきわめて合理的な戦闘だ、非力であるからこそ一糸乱れぬ行動こそが不利を打破できる戦闘方法だと良く理解していた。カインは先頭に立ち縦横無尽に槍を振るう。
「テリャッ!」
そのたびに敵に明確な傷を与え弱らせる、そこを他の子供が追撃して倒していく。
「(あの槍は強力な武具だがそれだけじゃこの強さは説明できない)」
そう、覚悟が違うのだ。
どんな兵でも戦いに出るには自分を『戦に出る』という態勢を作らなければいけない。そうしなければ動くことなど不可能だ。一言で終わってしまうがこれがとても難しい。人は臆病な生き物だ、負けていると分かれば簡単に逃げ出してしまう。だからこそ自らを律す努力を怠ってはならない。
大人でも難しいことをここにいる子供らは当たり前にしていた。王国軍とは比べ物にならない精鋭である。
「(ハクロウ殿はあの若さでどうしてここまで凄いのか良く分かるというものだな。自分がその場にいなくとも勝つために何をすればいいのかを徹底的に教え込んでいる)」
これだけの部隊を短期間で作り上げられる力があれば魔物の脅威を排除することなど容易い事なのだろうな。傭兵に留まるような器ではないことを確信する。
そんなことを考えているうちに防壁を構築し終わり依頼は終了して都市まで戻る。
「カイン、オーレル。お疲れ様」
ハクロウ自ら労ってくれた。
『ただいま帰りました』
依頼を完了したことを報告する。
「作業の様子は大体予想してたから」
ちょっと予想より早く終わったと。
「さて、傭兵ギルドに報告して終わりだね」
二人そろって返事をする。
「今は王国軍に呼ばれた傭兵がいないから防備が手薄、その分だけこっちに依頼が来てるんだ」
装備などを手入れして準備しておけと。
「王国の損害はどれほどに?」
聞く必要も無いことだが確認しておきたかった。
「ヴァトラー公爵様など後方にいた部隊以外は壊滅させた、そして大量の捕虜も出た。獣人国がこれをどのようにするのかは分からないけどこの損失を回復するのは時間以外解決策が無い。国力の低下はしばらく続くだろうね。他国からの介入も予想できるから厳しい道のりになるだろう」
安易に戦争を仕掛けるからこうなった、と。ハクロウは極めて現実を見た答えしか言わなかった。
「王国はどうなりますか?」
「心配なの?」
「ええ」
「厳しい状況だけど土台までは壊れてないから何とかなると思う。まぁ政治を担当する文官と軍事を担当する武官の対立が明確になって離れていく人たちも多く出るだろう。その舵取りを誰がするのかは知らないけど」
国の規模は縮小するが残ると言われる。ここで疑問が生まれた。
「ハクロウ殿はどこかに仕官しようとは思わないのですか?」
これほどの実力ならば簡単なはずだ。
「どこかに属するということはそこの意向に従うこと、僕は偉そうな連中の顔色を見て動く人生なんて送りたくない」
国というわけのわからない物など背負いたくないと口に出す。
「では、なぜ戦うのですか」
「自分はね、極めて身勝手だから」
予想もしなかった答えを口に出した。
「自分という唯一にして絶対な世界を持ったままどこまで行けるのか、ただそれだけ。この世界に魔物の脅威が無くて醜い争いが無ければ平凡なままで終わるはずの人生が火事になりかけている。自分はただその火を消しているだけ」
そのもっとも有効な手段として傭兵を選んだだけだと。
だけど国の力を借りればもっと簡単なはずだ。
「僕は誰よりも苦しんでいるのは民だと思っている。王様の綺麗な手よりも奴隷の汚れた手のほうが好きだ。一度手に取ったならそれが最後まで歩けるようにしてあげたい。迷ったら話を聞いてあげる、躓いたら起こしてあげる、苦しんでいるなら癒してあげる。そんな小さな願いを押し通したい。それだけなんだ」
子供のような淡く儚い願い、それを手に取った。
「自分が全てを救えるなんて思ってない、誰かしら零れてしまう。それでも」
押し通せるところまで行ってみようと。
「って、指揮をとる人間としては失格だと思うよこんな答えは」
戦いに犠牲は付き物、それを受け入れて前に進まなくてはと思っているがどうにも難しいらしい。だから彼らを優遇する。いつ別れが来てもいいように。
なるほど、奴隷の子供らが最優先であり自分のことは出来るだけ後ろに回しているのだな。手柄も褒美も何もかも他の事であり私情は捨てて必要な仕事だけをしているのだと。
ああ、これを見ると王国の中心人物がいかに醜いのかが分かってしまう。
「話はこれで終わり、かな」
「ええ」
もうこれで迷いは無くなった。
「それじゃ傭兵ギルドに報告に行こうか」
仮面で表情は見えないが笑っているのだろうと思う。
ミアータと呼ばれる盗賊風の少女とその仲間らがこちらに心配の声をかけてくれる。
「大丈夫だ」
大急ぎで自宅近くまで来て少し休息を入れようかという提案を退ける。
「今は一刻も早く家族らと会うことが最優先だ」
「わかりました」
息は荒いが訓練に比べれば大して苦労ではない。
「(この御札の効果は凄いな)」
ハッキリとそう確信する。普通ならばあの戦場から家族が住む家までかなりの距離があったのだが脚に張ったこれの効果で3分の1以上の日数を短縮していた。
魔術品だと思うがこのような物など存在すら知らない。
移動の脚を止めず合間合間に干した肉や果実を食べ水を飲みながらひたすらに家まで向かう。
「ユーリィ、いま帰ってきたぞ!」
「あなた!どうしてここに?王国の命令で獣人国へと行っていた筈では」
妻は信じられないという表情だった。普通に考えればこんな短時間で帰ってこれるはずなど無いからな。
「説明は後だ、子供らは起きているか」
はい、と答える妻。
「では、一刻も早くここから逃げるぞ」
「どうしてでございますか?」
「実はな・・・」
簡単にだが王国軍が壊滅し自分は王国を離脱する事を説明した。
「とにかく、ここに住むことはもはや出来ないのだ」
妻は少しばかり悩んだが、
「分かりました」
自分を信じて付いて行くと。
「お話は終わりましたか?」
「ああ、すまない」
彼女らは待っていてくれた。
「その子供らは?」
「命の恩人だ」
「説明は後です。お二人は子供らをお願いします。家の中にある物は全て持っていきますので」
そうして魔術による【収納】で全て仕舞ってしまう。後に残ったのは何も無いカラッポの家だけだった。
「まだ王国は混乱しておりますので追っ手を差し向ける可能性は低いですが急いだ方がよろしいですね」
そうして妻と子供らを連れて王国から脱出した。
「お父様、疲れました」
「ぼくも~」
「おなか、すいた」
しばらく街道を歩いて子供らが疲労と空腹を訴える。
「休憩を取りましょう」
「しかし」
「ここで子供らに無理をさせて体調を崩されてはハクロウと合流するのがもっと遅れます。足跡は部下が全部消しておりますので」
大丈夫だと。
「そろそろ食事を取る時間でもありますし」
「分かった、よろしくお願いします」
ミアータらはすぐさま食事と休憩の準備を始める。王都から逃げ出して半日ほど進んだ街道で鍋やかまどなどを手際よく出して作り薪を集めて料理を始める。
しばらくして料理が完成した。
「これは?」
何か平べったいものと野菜が浮かんだスープを渡される。
「水団(すいとん)と呼ぶ料理です。野菜を煮て調味料で味付けしたスープに小麦粉を水で溶いたものを入れたものです」
初めて聞く料理であった、腹が空いていたのですぐさま口に入れる。
『美味しい!』
すぐさま子供らが笑顔になる。
「(それほど複雑な料理ではないがとても美味いな。王国軍で出されている料理とは比べ物にならん)」
王国軍の食事は大抵ボソボソと固いパンと少しの具が入った塩スープだけである。それに比べればご馳走だった。妻もこれほど美味い料理など初めてで味を何度も確認しながら食べていた。
「簡素な食べ物ですが」
「いや、助かったよ」
所持金もさほど無かったから彼女らが食事を作ってくれるのは非常にありがたい。食事を終えて再び街道を進みだす。
「お父さん、足が痛い」
娘が痛みを訴えた。子供らはこれまで長い旅などしたことがなかったから仕方が無いな。休息を取り子供の足を見ると何箇所か赤くなっていた。
「お子さんが長旅で足を痛めたのですね」
するとミアータが何かを出してくれる。
「脚の擦り傷や靴擦れなどに良く効く軟膏です。多少時間がかかってもいいですからじっくりと塗ってください」
そうして子供らの足に優しく軟膏を塗る。
「今日はここまでで終わりにしましょう」
日暮れが近くなり野営の準備に入る。
自分らは手ぶらであったがミアータらが簡易テントから食器まで全て出してくれる。
「すごいな」
「どうかしましたか?」
「君はこんな子供なのにあらゆる場所で生活できる能力を持っていることが」
「ハクロウのおかげです」
「命の恩人の名前か」
「そうです」
「そうか」
やっと聞くことが出来た。
「先に忠告しておきますが私、いえ私達は貴族や大人から言葉に出来ない暴力と理不尽な仕打ちを受けました。貴方が優れた人物であることは分かります。ですが、それだけです。ハクロウが命を助け客人としてもてなせというから従いますが序列としてはこちらが上です。むこうに着いたら客人待遇は終わり問答無用で戦力となってもらいますから」
彼女らは手助けはするが敵意は消えないといっていた。そういう理由ならば仕方が無いとしかいえない。この世界では脅威がそこかしこにあり平和に暮らせる場所など一握りの水ほども無い。水は簡単に手から零れ落ちてしまう、落ちた水は二度と拾えないのだ。
「魔物への警戒はこちらで行ないます」
明日からも歩く事になるから早く寝なさい、と。
そうして翌日からも長い距離を歩く事になる。
「止まって下さい」
「どうした」
「敵を探知しました、数は50ほど。どうやら山賊の類みたいですね」
このままこちらに向かってきていると。だが、どこにもその姿は無いが。
「あなたはまだ入ったばかりで能力の使い方が分からないですね」
「能力?」
よくよく考えてみればなぜこんな子供らだけで構成されているのか?そこが不思議だったのだ。
「『情報展開、戦術を構築』」
するとヘッドサークレットから凄まじいほどの情報が流れ込んできた!
「こ、これは!」
何もかもが見える。周囲の地形、マップ図、木などの障害物、位置情報、そして隠れている敵の反応まですべてが。
「【隠蔽】などで上手く隠れているみたいですが『ガーガス・オルタネイト・システム』ならば隠れる事は不可能」
すぐに殲滅する、と。
「オーレル殿らはここに残って下さい」
全員が装備を取り出す。短剣からクロスボウまで。どれもこれも見た事が無い形状をしている。
「自分も付いて行く」
「危険に晒すなと命令を受けていますが」
それでも、確認したいのだ。圧倒的多数の王国軍を壊滅させたその能力の一端だけでも。
「いいでしょう」
付いてきなさいと。30名の内5人残り後は敵がいる方向へと向かう。向かうと間違いなく山賊らがいた。上手く隠れているようだが自分らには生命反応がしっかりと見える。
「結構な相手だな」
「問題にもなりません」
え?どういうことだろうか。
「全員スタン・ボムなどを投げ入れてからクロスボウの一斉射撃で黙らせます。逃がすと面倒ですから」
そうして「見ていろ」といわれて子供らは二手に分かれる。左右に分かれて攻撃態勢を整える。だが、かなりの距離が残っているのだが。
「攻撃開始!」
子供全員から何か球体のような物が敵に向かって何個も投げ入れられる。すると、
「ギャァアァ~!」
敵全員が飛び出せ・・・なかった。まるで糸で縫いつけられたかのようにビクビクと震えるだけである。次にクロスボウを構えた子供らの攻撃を食らう。
ガガガガ~。
まるで豪雨を叩きつけるかのように打ち出される矢の猛攻によってあっけなく最後を終えた。
「めぼしい物がありませんね」「そうですね」「こんなものでしょう」
子供らが無駄に時間を取られたと舌打ちする。敵全員の生命反応が消え遺体を確認する。そして装備などを剥ぐ。
「なにか?」
「君らはそんなことまでするのか?」
山賊なので生死は問われない、しかし先ほどまで生きていた人間の装備を奪い取るとは。
「戦利品の回収は勝者の当然の権利であり傭兵として当たり前です」
「それはそうなのだが・・・」
彼女の言い分に間違いなど一つも無い、だからこそ異常なのが分かる。こんな子供らが生き抜くには敵は殺さなければ自分が殺されることを良く理解していた。だが、子供の身体能力では大人に勝つのは難しい。ならば別の力が必要となる。
ミアータらが使っていたあの装備、あれの威力と攻撃速度を改めて確認する事となった。
「(こんな子供らに与える装備としては間違いなくありえない)」
王国軍を一方的に殲滅させたあの装備、世界のどこにも存在しないその装備の恐ろしい事。盾も鎧も軽々貫通し連射可能でありすぐさま矢を補充できる。これだけの人数であるにもかかわらずこの脅威なのだ。これを大量に所持しているのなら矢が尽きぬかぎり近づく事は出来ないだろう。
「すまないが」
ほんの少しだけ、その装備を見せてもらえないかと。怪訝な表情を一瞬浮かべたが、
「少しだけですよ」
そうしてそのクロスボウを渡される。
「(何と見事な出来だ。基本は木材などで出来てる。大人サイズだがかなり軽いな。これなら多少訓練すれば子供で扱える。この世界の石弓に良く似ているが根本的に違いすぎる。矢を連射する構造は理解できないしあれほどの威力を維持など不可能だ。魔力を付与されてもいるな、それの影響か。まさかこれほどの装備を大量に保持してるのか)」
装備には飾りらしい飾りなどは全くなく機能性だけを求めていた。「恐ろしく強力で手軽」としか感じなかった。自分も最新式の装備には興味を持っていたがこの装備とは比べる意味すらなかった。時代が完全に違うとしか思えない、まさに『殺戮の道具』であった
これならば非力な子供でも装備で固めた大人を殺せるだろう。
試しに空に狙いを付けて構える。ストックがあって構えやすかった。発射すると、
バシュン!
軽い音と共に矢は遥か彼方に飛んでいった。
「(これほど強力なのに反動をまるで感じないとは。兵器の概念を完全に変えてしまっているぞ)」
矢の到達点は目視できないだろうな、あまりの簡単さに笑いが込み上げてくる。
「(これを相手に進軍する?馬鹿を言うな、これではただの的だ)」
自分ではこれを相手にする作戦は考えられない。知らなければ良かったと感じるぐらいなのだから。
「もう、よろしいですか」
「ああ、すまなかった」
そうして装備を返す。正直に言えば返すのが惜しかったがここで逆らえば家族共々死へと旅立つだろう。
「君らは傭兵だといっていたね」
「そうですが」
「なぜ、王国軍に敵対した」
「ハクロウから命じられただけです」
依頼主の事などしらないと。
「(獣人国から依頼を受けたのではないのか?)」
明確に敵対しているのはそれだけ、他にも仮想敵国はある。外交も良くない、誰かが攻め込んでも不思議ではないのだが。
「詳しいことはハクロウから聞いてください」
「そうだな」
今は家族と共に安全な場所まで逃げることが先決だった。
そうして移動と野営を繰り返して目的地へと到着した。ナルダーと呼ばれる都市であり近年傭兵らの活躍によって比べ物にならないほど安定した治安を守っている。
「おかえりなさい」
狼の仮面のをつけた主人らが門の前で待っていてくれた。
「ただいま戻りました」
「我が主人よ、家族の安全をもたらし感謝しております」
頭を下げて平伏する。騎士としての上位者への礼法、相手は「生真面目だなぁ」とぼやいていた。
「さっそく住居に案内するよ」
ミアータらと別れて数人と共に都市の中へと案内される。
「ここだよ」
案内された場所の家は、
「!」
前の家の3倍はあろう広さとよく管理されて綺麗な家だった。
「どうしたの?」
「いえ、これは」
「あ、あなた」
妻も子供らも皆驚いた。中に案内されるとさらにビックリした。前の家の家財や道具などは全て置いてあり広々とした空間と真新しさが眩しい。
「とりあえず足りない物はこっちで買い足したから」
「ほ、本当に自分らにこの家を・・・」
「まぁ、とりあえずという所だけどね」
言葉が出てこなかった。
「傭兵ギルドから拠点として預かってるんだけど自分は子供らのそばから離れたくない。そっちで好きに使っていいよ」
維持管理はこちらでやれ、そう簡潔に。
「さっそくで悪いんだけど時間が詰まっている、4日後から正式な仕事を与える」
「分かりました」
ここからは仕事の話だった。家の中の椅子に座り家族と話を聞く。
「オーレル、あんたの能力なら300人ぐらいは統率できるね。訓練を施せる人数はその4倍ほどか」
「はっ」
「自分は傭兵団団長としてこの都市を含む複数の都市の治安と安全確保の依頼を受けている」
主に魔物などの討伐や商人らの護衛など仕事はいくらでもあると。相当に優秀で信頼が厚いのだろうな、でなければこんな家を拠点として貸したりなどしない。
「すぐさま部隊を率いて出て欲しいんだけど信望の無い指揮官は無意味、簡単に裏切られるからね」
この人物も老将軍と同じ事を言っている。
「新しく買ってきた奴隷らに基礎訓練を施す『訓練教官』として始めてもらう」
人数は全員で1000人を越えるのだとか。いきなり大変な仕事だな。
「マニュアルはこっちで用意してるからそれに沿って行なって。子供らだから無理押しは出来ないけど必要以上に甘やかすな」
何か必要な物はあるか?そう問いかけてきた。
「所持金が余りなくて」
「ああ、そうだったね」
皮袋を出される。
「当面の生活費として15万ギニー、1月ごとに3万ギニーを出す」
「本当ですか!」
王国軍の給金の3倍以上も出してくれる、だと?
「これはあんたの能力を高く買っているからだけど失敗すれば当然金は減っていく」
「わかりました」
「後はあんたの能力と結果次第で給金は増えていく」
「基礎訓練ですがどのような内容ですか?」
中身を確認すると走り込みが多いな、あとは文字の読み書きや数字の計算など。元奴隷だからそんなことは教えられていない。これも必要な教育だった。
そちらについては他の人物と協力して教えろと。
「とりあえずこれでいいか」
フィアナ、ファレナと。名前を呼ぶと2人の女性が隣に立った。
「すまないけど魔物の討伐依頼などが入っている。後のことを話し合って」
「かしこまりました」「お気をつけて」
そうしてハクロウは出て行った。
「確か貴女はヴァトラー公爵の妾のファレナ様ですか?そして娘のフィアナ様?」
そうです、と。
「失礼いたしました。我が主は公爵家の庇護を受けているのでございますね」
なるほど、名領主と名高いヴァトラー公爵が後ろ盾ならば納得が出来る、それも次の言葉を聞かなければだった、
「違いますよ」
公爵家のほうが庇護を受けているのだと説明された。
「?」
「私と我が娘は公爵家に居場所がありません。他の妻とは仲が悪すぎて理解しあうのは不可能でしょう。他の妻は生まれの身分に合わせて領地を与える事が決定しておりますが私達に与えられるものはほとんどなく平民同然の生活が精々です」
大貴族家でも今の世の中で家を繁栄させていくことは難しいと。
「今後の生活を考えて苦悩していたのですがハクロウの庇護を受けて将来は公爵家とは付かず離れず程度の関係を保ち独立した爵位と領地を与えてもらえると内々に約束しております」
その勉強として側にいるのだと。
「そんなことが可能なのですか?」
「そのようです」
公爵家から物資を買ったり交易はするが貸し借りは作らない。そういう方針らしい。
「領地を貰い領主として立つには優秀で忠実な家臣が必要だと」
「自分らがそうだと」
「領地の下級貴族家や騎士らの子供らもこの部隊に参加しています。それらの中から部下として引き立てろとも言葉を貰っていますよ」
「本来であればハクロウがそれを受ける立場なのですが」
本人が断固拒否しているのだとか。
そうして訓練予定日まで時間を潰す、というが身なりが教官らしくないので最低限それは整えろということだった。
そうして訓練予定地まで行くと、
「(オイオイ年齢も種族なども不問で奴隷だけ買ってきたって言うがこの人数は・・・)」
圧倒的多数が成人しておらず子供しかいなかった。種族も纏まりがなく性別も関係が無く根こそぎ買ってきた、そう表現するしかなかった。そしてその人数の多いこと多いこと。1000人ほどと言っていたが実際に集まると壮観だな。
彼らは普通の服を支給されていてそれに着替えている。
「あなたは?」
「君達の基礎訓練を任かされたオーレルだ」
ヘッドサークレットからの情報で上位者だと伝えられる。
「お、俺たちは・・・」「わ、私達は・・・」
怯えと恐れなどが入り混じった不安の色がハッキリと見えた。マニュアルでは戦闘用員と非戦闘用員を出来る限り早く分けさせろと書かれている。
「(こんなご時世では子供らとて武器を取らざるを得ないか)」
大人と違い子供らは手間がかかる。だから大量に放置され簡単に売られる。見たくもない現実だがそれでも命令は絶対だ。
「(幸か不幸かこの子らには頼る相手がいない。買い主に忠実であることを最初に教えないとな。そこから先は長いが金を支払い終われば自由になるか留まるかの選択肢が与えられる。まずはそこまで行ってもらわないと)」
自分とて後進に教育を施さないといけない時期に来ていた、その前に老将軍がいなくなり最悪のクズを押し付けられて諦めていたがこのような大役を与えられるとは。
「(老将軍が常々話していた『名将はいかなる命令でも部下に与え命令を受ければ戦に勝つ事だけしか考えない』と。まだまだその域まで到達できてはいないがこれも人生だろう。ならばいまはこの子供らを鍛えて生き延びられるようにしなければ)」
そうして訓練を開始する。
まずは最低限動ける体力を作る、それをしばらく行い戦闘行為可能かどうかの判別をする。敵を前にして動けなければ死を意味するからだ。そういうのには別の仕事を割り当てられる。そこからは装備を与えて的などを相手にしての訓練となる。武器ごとに使い方や整備方法などを学ばせる。その間自発的に落ちる子もいれば積極的に訓練に励む子などが現れだす。
この辺りでやっと適性があるかどうかの選別に入れるようになる。
「これが結果です」
ハクロウに結果を報告する。その中身はヘッドサークレットを通じて全て伝わっているが明確な数字として形で確認する必要があるのだ。
その中身をじっくりと確認していく。
「戦闘が可能なのは6割ほどか・・・」
「はい」
ハクロウの顔色は余り良くない。予想していたよりも少ないからだろう。だけど、訓練などに手は抜いていない。子供と言う事を考えればこれは仕方がない部分がある。種族もバラバラなのでその辺りの意識の差も大きいのだ。
「落ちた子供の中で土壁を作ったり動物などを飼育訓練できる子供らもいたかな?」
「たしかにおりますが」
そういう子供らも結構多かった、もっとも役に立つかどうかだと聞かれれば大した価値はないと言える。その程度などちょっと経験と知識があればできることだから。
「よし、その子らには工作兵や飼育兵として教育を施して兵科として運用する」
ハクロウは利用価値があると判断したらしい。正直に言えば何をさせるのか分からなかった。
「このまま基礎訓練を続行して」
まだしばらくはこの訓練を続行させろと。ただし、戦闘員以外の訓練時間は半分とする決定を出す
「よろしいのですか」
「魔物などへの恐怖に打ち勝てない者らに戦闘は強制させられないよ」
「では、どのようにして食わせていくつもりで」
「そっちは傭兵ギルドなどに伝手があるから」
「わかりました」
どうやらハクロウは資金稼ぎも一流のようだった。これだけの大人数で先のことが分からない子供らを十分すぎるほどに食わせていけるのだと断言した。何をするにしてもお金は必要だ、それに不自由しなければ大抵の事は出来る。
軍隊というのはそれだけ金がかかるのだ、固定給の貴族や騎士とは違う傭兵なのでどれだけ上手く資金稼ぎを出来るかどうかで評価は完全に違う。傭兵ギルドの依頼だけでは維持できないため色々な事を商売としている。
「どうかしたの?」
「いえ、我が主殿は本当に優れているなと思いまして」
「これしか能がないからね」
戦しか知らないから戦を商売とした、ただそれだけ。
だが、無能者らが大きな権力を握っているこの世界ではハクロウのような存在こそが大切なのだ、あの容赦のない殲滅も無意味に行なったわけではない。その理由は分からなかったが。
驕らず飾らずただ勝利するためだけにこだわり部下の配慮も徹底していた。
「(老将軍、どうやら本当の主を見つけ出せたようです)」
そこからは装備などを与えられ戦い方や動き方などを徹底的に叩き込む。
「(あまりにも上達するのが早すぎる)」
最初訓練を始めたときは種族差はあるが本当に普通の子供と変わりなかった。しかし月日を重ねていくと明らか変化していた。最初の頃はただ単純に『武器を振る』程度でしかなかった。だが、今は『武器を使いこなす』に変わっていた。ちょっと言葉違いと感じるかもしれないが中身はまるで別物だ。棒切れをもって剣の真似事をするか真剣を持って敵を殺す方法するかほどに違う。
そうして子供らは日増しに実力を高めていった。
「紹介するね。いまここにいる子供らを率いている部隊長らだよ」
カイン、エレン、ミリオン、ミエスク、ミアータ、エリス、と。6人のうち4人が子供だった。
「ハクロウ、この人は誰ですか?」
やや青みがかった髪の男の子カインとすこし緑色の髪をした少女エレンが聞いてくる。
「新しく買ってきた子供らに基礎訓練を施している教官だよ」
仲良くしろと。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
簡単に挨拶を交わす。
「(とても強いな・・・)」
会ってみてすぐに確信する。相手の能力を性格に分析するのは基本中の基本である。
指揮統率能力だけでも互角かそれ以上で一騎打ちでも勝率は3割に届くかぐらいだろうな。
カインは槍を使うようだ。礼儀作法が求められる席では剣が圧倒的に多いが実際の戦場では弓など遠距離武器に次いで高い戦果を上げる武器である。その部隊長なのだから弱いはずがない。
容姿は整っていて強い、まるで本の中の騎士のようだ。この6人の中では直接的な戦闘能力は1番高いと言えるだろう。
エレンは自分と同じ剣を得物として使っているが見慣れない剣を持っていた。直線的な作りではなくやや反りが入った片刃の剣と盾と篭手の両方を合わせた装備である。
見た目美少女だが数多くの実戦を潜り抜けてきて視線が鋭い、多分そこらの大人では相手にならないだろうな。
ミリオンはエルフのようだ。外見が若く変化しないので実際の年齢は分からないが非常に若いはずだ。彼女は魔術師などを率いている。自分が見たあの火の海は彼女らが生み出したのだろう。万単位の人数を一瞬で消し去るほどの魔術師など数えるほどしかいない。
それ以外にも彼女はハクロウの補佐などを行なっているようだ。この中では2番目の地位なのだな。
ミエスクは獣人だ。人間と同じく数が多いの上に外見的特長が多いので一括りには出来ないが猫の耳と尻尾を持っていた。そして持っている物は見せてもらったあのクロスボウと同じ物である。石弓兵はここでは一番多い構成でそれを率いてるということなのでもっとも攻撃的な部隊だといえる。
この子も将来は美人になると断言できるがどうも他人を余り信用していないようにも感じる。
ミアータは自分をここまで連れてきた盗賊らのリーダーだ。仕事は罠の設置や解除、偵察などが任務だ。特に正体を隠して仕事をする事に特化している。
時と場合によれば暗殺という選択肢すら取るだろう。
エリスは治療部隊である神官らを纏めている女の子だ。主に部隊の衛生面を配慮している。だが、この子には他とは違う感じがした『貴族としての気品』というものを感じたのだ。だが貴族の子供が奴隷であることなどありえないが。
「ハクロウ、部隊の増員はどうなのですか?」
カインが質問する。戦闘用員として使えるのは600人前後だ、それをどのぐらい割り振るのか聞いてくる。
「適正を見る限り大幅な増員は難しいな、新規に兵科を造るのでそこに割り当てるから」
「ハクロウ、そろそろ装備などを変更しないと敵への対処が難しくなります」
エレンはもっと優れた装備を補充してほしいと頼んでくる
「先の戦いで敵装備を大量に鹵獲したけどサイズが合わない、鋳潰すなどして装備に変えて回す」
「ハクロウ、傭兵ギルドが他の場所へと派遣する商人の部隊への護衛を依頼しています」
「そっか、わかった。それじゃ規模に合わせて部隊を編成する」
そうして子供らを交えた話し合いは続いていく。
「共用の軍服の支給に生活用品の補充とかしないとなぁ、ミリオン、予算はどれぐらいある?」
「すぐさま現金として使えるのは1500万ギニーほどですね。ただ、今後を考えると依頼や魔物の素材や資源の再利用だけでは追いつかないと思います」
何かしら別の資金源調達手段を考えたほうが良いと。これだけの規模なのにこれだけの予算があるのか、すごいな。ほんとに傭兵か?
「金や銀とかは必要ないから売るか。そのままだと価値が低いから加工しないと。それ以外では何が不足している」
「特に矢の消費が激しいです。生産部隊で量産しておりますが激しい戦いを想定すると間違いなく不足します」
補充してほしい数字を明確に出す。
「それは仕方がない部分があるか。もう少し資源の獲得を重視した運用も考慮に入れないといけないな」
「ハクロウ、連携を組んでいる他の傭兵への対処は?」
「そっちは装備などを回して今後とも付き合っていくことにする。まさか自分らだけで全ての依頼を達成するなんて不可能だからね」
他の傭兵にも仕事を残す配慮までするとは。
「ハクロウ、一度だけお願いがあります」
「オーレルか?どうしたの」
「御顔を拝謁してもよろしいでしょうか?」
するとカインとエレンが武器を抜きこちらに向けてくる。
「お前ごときがハクロウの顔を見ることは許さん」「あなたのような新参者が指揮官に頼みごとなどありえません」
二人の殺気は本物であった。
「いいよ」
『ハクロウ!』
「素性も分からない相手を信用できないよね。オーレルにはそう言っても良い価値がある」
そうしてハクロウは狼の仮面を外す。
「・・・っ!」
そこから現れたのは気のよさそうな少年とも青年とも言える顔立ちの男だった。
「(・・・若い、あまりにも若すぎる。どう見ても10代後半か悪くても20台半ばだ。こんな青年がこの部隊を一から立ち上げたとは信じがたいが現実だ。貴族の子供が傭兵になることなどありえないから平民か?だが、これほど優れた指揮官となるにはあまりにも早すぎる。どれほど実戦を潜り抜けてきたのか見当がつかないぞ)」
オーレルは主の顔を見て非常に驚いた。口調から若いとは思っていたが30歳はいっていると思っていたがここまで若いとは。傭兵の世界は全て実力が物を言う場所だ。この若さでここまで上がってきたのに幸運などでは説明が出来ない。全て実力だけで上ってきたのだ。
一から十まで軍隊というものを知り尽くし縦横無尽に敵を殲滅する指揮官、あれほど残酷な作戦を考えたとはとても見えない。偽者?いやここにいる全員が本物だと認めているのでそれは無い。そこらにいる生まれだけの飾りの指揮官などではなく戦いを生業とする本物の指揮官である。
「どうしたの?」
こちらの希望通りにしたのだから何か聞きたいことがあるのだと問いかけている。
「ずいぶんお若いですが」
「そうだね、20歳だね」
顔立ちに偽りは無く本当に若かった。
「どこか高等な兵学校に行っておられたのですか」
「残念だけど書物で読み書きはしたがそういう訓練は受けていないな。なにしろ運動能力低いから」
「ならば軍人系の貴族家の出とか」
「さらに残念だけどそういう血筋ではない。生まれも育ちも平凡でただ誰よりも知っていたから傭兵をしてるだけだから」
笑顔で答える内容はオーレルの予想を完全に裏切った。だけど、部隊はここに実在している。指揮官も存在する。
「出発はカインらを買ったことと生き抜いていくための職を得るためだったんだけどいつの間にかこんなに増えた。それだけ」
「では、貴族になるためでもなければ英雄と呼ばれるためではないと」
「物語ではありがちだけど一人の勇者が神々の加護を受けて敵を討ちとるってお話だね、王国の勇者が活躍したって話は聞いてないんだけど」
確かに、多少加護がある程度で勇者なのだ。まともに戦うことが出来るほうがおかしい。大多数が戦闘放棄して部屋に逃げていると聞いている。
「大体敵って言うけど誰が敵なの?」
「えっ?」
予想外の言葉を言われる。
「王国だとかは自分らさえ良ければいいだけ、魔物はそこかしこに我が物顔ではびこっている、貴族らは私利私欲のために他人を平気で追い落とす、山賊夜盗の類は当たり前、こんなにいたら誰も彼も信じられない」
ほら、敵はそこかしこにいると。冷静に考えればもはや誰でも敵とみなしてもかまわない状態なのだ。この世界には神が救済を与えることなどありえないと。
「自分が仮面を被っているのは正体を分からなくすること以外にも理由がある」
こんな青年が指揮官など笑い話にしかならないだろうな、普通は名を売るために豪華な身なりをするがハクロウは逆で正体を分からなくするために地味な外見をしている。仮面についてはあまり触れないほうがいいだろう。
そうしてハクロウは再び仮面を装着する。
「さて、王国側も獣人国側も今回の戦争をそれぞれ都合よく処理するから」
次の手を打つ、と。
『訓練をするのはいいがそれという名目での手出しを禁ずる』
つまり性の営みは絶対にしてはならないということだ。そうすると優遇されるとか何だとかの話になるので絶対にしてはならないと。子供らの中にもそう言う行為を受けているのもいるが例外なく心に傷を負っていた。
『こういうことを処理する相手がいればいいんだけど探すのは本気で大変だから』
商売女や素人女では病気や情報の隠蔽に問題がある、なら自前で用意したほうが早いそうだ。王国軍では娼婦を囲い込んでいるが妊娠や子供などの問題もあった。
『このヘッドサークレットは特別製で『月経』が起こらなくなるようになる』
つまり妊娠する心配は無い、しかし、その欲望の処理には細心の注意を払わないといけない。
『こんなことやりたくないけど好き勝手にそういう行為をされると部隊の秩序が無くなってしまう』
規律とは守らせるのが本当に難しいのだと。何しろ無法者が多い傭兵なのだ、それに配慮してないと犯罪に走る事もある。なので徹底的にしているがあと少し年月がたてばそれをしてくれる相手を探さないといけないのだと。
『そういう行為を知っていて無理矢理しようとした子供らもいた』
その子供は徹底的に躾けたそうだ。
『それは自然な行為であり押さえつけるのは良くないんだけど子供らの中には誘惑しようと考えてるのもいるからね』
ハクロウも女の子からそういう誘いを受けたことがあるそうだが全部無視している。指揮官と肉体関係となると色々と面倒なことが多いのだろうし良く思われないのは確かだ。
『そういうわけだから。オーレルには奥さんがいるだろうけどまだまだ若い、何かの気の迷いもあると思うし』
手を出したら駄目だぞ、と。やはり部隊というのはどこも同じ問題を抱えてるのだな。
『当てが無いわけじゃないんだけどねぇ』
『はぁ?』
『わかんない?』
『えっと』
そういえば自分もそういうのは本で学習しただけで妻も本で学習していた。
『子持ちの未亡人だよ!』
「はい?』
『つまりそういう行為を教えられるのは経験者だけでしょ。それなら他人の女がいい。加えて夫を亡くした相手だとさらにいい。彼女らは前の夫との間に幼い子供がいることが多い。戦乱の時代だからね。口止め料を支払うなら約束を守ることが多いし保護下において次世代への配慮も出来るからね』
説明を聞くと「なるほど!」とよく理解できた。
『娼婦だとか売春婦だとか聞こえは悪いけど全員生き抜くのに必死なんだからある程度はそう言う人材も確保しとかないとね』
こんな世の中なのだ、生活が保障されるなら体を差し出しても咎める危険性も無いだろう。
『ここで捨てられたらもっと生活に困窮する』
そうして男らの罪悪感を減らすと。
『男の方はこれで何とかできると思うけど女は選り好みが激しい、エルフなど美男子を調達できればいいなぁ』
ハクロウはどこまでも合理的だった、普通ここまで配慮する指揮官なんぞどこにも存在しない。ただひたすらに体を貪られる男や女には悪いがハクロウもまた部隊の秩序を守るのに必死なのだ。
王国軍にいたときは好き勝手に使い回され死んだ魚のような目をした娼婦ら、病気にかかり投げ捨てられる女らを見てきている。それと比べれば間違いなく天国だろう。ここでの食事などが普通の軍隊などよりはるかに厚遇されているのだから。そして待遇の良い生活を知れば逆らうことはありえない。
『自分は女をそう言う目的で相手をする気は無いけどどうしてだかそういうことを考えてる女の子が多い。別に無関心というわけじゃないけど女の相手は苦手なんだよ』
『はぁ』
『あ、別に男の子が好きだとか変な性癖は無いよ。ただそういう欲望があんまり無いというだけだし』
成人男性としては不能に近いかもしれないと。
『とにかく、彼らは仲間であるとともに商品でもあるから細心の注意を払っている、それに不用意に手を出すならば徹底的に潰すけどね』
気楽に笑っているが何か女性に嫌な思いだがあるのだろうか?
『とりあえずこのまま基礎訓練を続行して、ある程度目処が立ったら部隊を動かしてもらう』
『分かりました』
そのまま命令どおりに訓練を続行する。1ヶ月ほどでかなり統率された動きをするようになる。
「うん、ここまで行けば問題ないか」
「はい」
「オーレル、すまないけどあなたに任せられる人数には制限をつけさせてもらう。あんたはいつか奴隷から解放されて正規の部隊を率いてもらうからどうしてもそうした思惑や配慮が必要なんだよね。教えられることは全部教えるけどどこもかしこも人材不足なんだ。特に正規の部隊の腐敗の深刻さは理解してるだろう」
それはもう、あの馬鹿らのお守りなど二度としたくない。
「あんたはフィアナ付きにするから将来彼女が領主として独立したら側近として働いてもらう」
「ハクロウ殿が傍にいるのでは?」
「自分は傭兵という立場から出て行く気は無い。手助けはするけど出来るだけ彼女自身に判断させるようにする。まだどこかすら決まってないけどどうにかするよ。あ、でも彼女は公爵家の分家ではなく独立した貴族となってもらう」
「なぜですか」
「彼女は妾腹で兄弟姉妹との関係はハッキリいって良くない。分家として立てば無理難題を押し付けられるのは目に見えてる、それなら独立した貴族家として立てたほうがいい。先に言うけどヴァトラー公爵様は傭兵に理解があるから協力してるけど次の世代はどうなるか分からない。自分は貴族は好きじゃない、ちょっかいかけてくるなら踏み潰すだけ」
何かどす黒い感情が見えた。
「ま、それはそれだ。今は子供らを食わせていくのが最優先」
この人は本当に敵に対して容赦が無い。
「そんなわけだからフィアナの側近として働けるようになるため最低でも1000人は統率できるようになること」
数年以内に!そう命令される。
「自分がですか?」
「ちょっと遅いけどそれぐらいなら『ガーガス・オルタネイト・システム』の使い方を覚えれば難しくない。戦場だっていくらでも用意できる。大急ぎで覚えてもらうからね」
そうして仮想戦場というものを見ることになる
「な、何ですかこれは!」
ヘッドサークレットから見えたのは間違いなく『戦場』であった。
「ここは頭の中の戦場だけど現実と同じように感覚は同じぐらいある。傷つけば痛みを覚える、敵も同じだ。実戦ほど成長できる場所は無い、何しろ命がけなのだからな」
なるほど、圧倒的多数の子供らだけで精鋭部隊なのはこうした場所で訓練をしているからか。
「率いれる人間は均等に分配されている。たとえそれが戦闘員だろうと治療兵だろうと誰かが手を抜けば間違いなく勝利から遠ざかる」
戦争とは互いの総力戦、負ければどうなるかも分からない。勝たなければ明日は来ないのだ。
「各自手持ちの兵を確認できたら開始する」
自分は、剣と盾をもっているのが20人で弓兵が15人で魔術師が5人か、オーソドックスな編成だな。かれらはただの駒ではない奴隷の子供らが中にいる。それを生かすも殺すも自分しだいということか。
「戦闘開始!」
そうして初めての仮想戦場が始まった。
「けっこうがんばったね」
ハクロウが褒めてくれる。
自分らの部隊はマップ情報を元に敵の攻撃を受ける場所を避けて着実に戦果を稼いだが運悪く魔術師部隊とぶつかり何名か負傷者を出した、そこまでなら退却できたのだが側面から追撃部隊が出てきてあっけなく殺されてしまった。
「最初にしては文句が出ないほどに優秀なのに不満を言うの?」
「ええ、仮想戦場というものを甘く見てましたから」
初めは机の上で紙でも敷いてボードゲームのようにするのかと思っていたがあれは本物と同じだった。これならばいくらでも死なずに訓練が出来る。・・・まぁペナルティはあるがそれを差し引いても優秀すぎる。結果での順位は真ん中より少し上ぐらいでカインらはトップを独占していた。
「まぁ、カインらは初期のころから訓練を積んでいるから勝てないのは仕方がないよ」
「そうですが、やはり子供に負けるのは悔しいです」
「贅沢だねぇ、大半は惨敗しまくるってのに」
「ですが、ここならばどこよりも豊富な経験をつめます」
ここならば短期間で強い兵を育てられる。そう考えるとある疑問が浮かび上がる。
「ハクロウ殿はこれを軍などに提供しないのですか?」
「ん?ああ、そういう話か。自分は多少編成を変えたり地形による有利不利を作って仮想戦場を構築してるけどこのシステムは指揮官としての能力で勝者と敗者が明確に分かれてしまう。平民でも出世できるのなら有効だけどプライドの高い貴族しか指揮官になれない今の世界では意味ないんだよね」
たしかに、奴らは勝てないと分かれば都合よく中身を書き換えるだろう。そんな都合よく戦場が有利なはずなど無い。とてつもなく有効なのだがこれを認めてもらうにはまだまだ世界のほうが追いついていないのだ。
「さて、そろそろ傭兵ギルドの依頼をこなしますかね」
はい、と答える。もうすでに自分は騎士ではなく傭兵なのだ。高い給金をもらってるので結果を出すことでしか誠意を見せられない。
「ハクロウ、何か御用でしょうか」
傭兵ギルドで依頼を見繕う。
「この3つの依頼を受ける」
本来であるならば複数の依頼は受けられないのだが白狼はネームカラーが高く信頼があるので複数の依頼を受けても問題ないようだ。
「すみませんが依頼期日を超過したのが複数あるんです、そちらのほうも受けてもらえますか」
「またなの?」
「ええ、何度も傭兵を派遣してるのですが結果が芳しくなくて」
受付嬢が困った顔をしていた。
「中身は?」
依頼内容を確認するハクロウ。
「まだ新人が多いからなぁ」
そうしてひとつの依頼を受ける。
「オーレル、この依頼を回すから処理して」
こちらに依頼書を渡してくる。
「わかりました」
「騎士には騎士の流儀があるだろうけどもうすでに騎士ではない、ここからは傭兵の流儀で仕事に励め」
そうして奴隷の子供らとともに仕事に向かう。
受けた依頼は作物を荒らす害獣駆除の依頼だった、500人前後の部隊を指揮する、工作兵と呼ばれる部隊が中心だった。
「依頼難易度はさして高いものではないがただ駆除してもまた同じように現れる、だから」
駆除が終わった後魔物よけの土壁と堀を作り魔物の進入を防ぐのが中心の依頼だと。
「ちょっと考えればいいだけなんだけどそんな人材すらここにはいない。国軍がやる依頼なんだけどそれすら無視されている」
「なるほど」
「こういう時こそ働くべきはずなんだけど土にまみれるのはお嫌いらしい」
まったく面倒な連中だと肩を竦めていた。だから傭兵に依頼が来る。国の発展にはこういう地道な草刈り作業が多いというのにやろうとしない。
「作成に必要な情報は入っているよね」
「はい、しかしこんなものを土に混ぜて築くだけであそこまで頑丈になるとは」
オーレルは土壁作りのマニュアルと材料を見ていた。普通の土壁ではさして長いこともたない。しかし、ハクロウが用意した『合成セメント』などを利用すれば数十年は持つそうだ。それ以外にも効率的な建築方法なども持っていてすごいの一言しか出ない。
「陣地の作成には工作兵が重要となる、念入りにやらないと効果が薄いから手抜きず仕事をしてくること」
そうして依頼の場所まで行くことになる。
「ふむ」
地形は平坦とはいえないがこれならば大丈夫だろう、結構な長さ高さとなるのでそのあたりを注意しないといけないな。
「部隊を展開する」
部隊を二つに分けて害獣駆除と土壁作りに分担する。畑と森などの領域の境目に作る予定だ。
「各自セメント作りに入れ」
木で作った箱に土と合成セメントを混入し水と混ぜ合わせる、丁寧に混ぜ合わせしっかりと混ざったところで岩壁の作成に入る。
ペタペタ。
セメントと盛り石を重ねて壁を構築する、ひたすらに地味だがやっておくかどうかで今後大きく左右されるので手は抜かない。半分ほどの高さになったらいったん乾燥させてさらにその上から盛る。セメントと岩を交互に何度も積み上げて防壁を構築するが結構な距離があるので時間がかかるな。
材料となる石材は他の場所から先に大量に確保してきているので問題は無い。
そうしてしばらくするとそこそこ壁らしきものが出来上がる。だが守りの要となる場所なので結構時間がかかってしまう。その時間の間も魔物が来ることもあるのでカインを中心とした部隊が警備として一緒に来ていた。
彼らは警備場所を決めて陣地を構築していた。
「オーレルさん、壁の建築の進行率を情報として渡して下さい」
「わかった」
サークレットを通して情報を渡す。
「・・・予定より5%ほど建設が進んでいるようですね」
「あぁ、用意してもらった猫車とか言う道具のおかげだな」
車輪が一つだけの不思議な形をしていたが使うとその便利さがとてもよかった。重い材料を子供でも楽々運べるので思っていたより苦労が無い。
「それではこちらは壁が作り終わるまで防衛します」
「頼む」
そうして少し壁を高く長くしていく。
「カインはハクロウ殿をどう思っている」
「理想の指揮官であり目標でもあります」
この子は将来一軍を率いる将軍になりたいという確固たる望みを持っている、王族でも貴族でもない奴隷の子供には不可能な夢物語だがカインは実力でそれを手に入れようと日々先頭を切って行動してた。『ガーガス・オルタネイト・システム』のことを誰よりも多く調べ自分の成長のために努力を惜しんでいない。
その手には新しい槍を持っていた。
青色に光る不思議な槍で強い雷を生み出す魔法の槍だ。防具も隊長らしく見えるよう服装も違う。前の戦いの褒美に『強い装備と技がほしい!』とハクロウに求め手に入れたのだ。それをつねに傍において使っていた。
訓練する様子を見たが槍の基本に加えて不思議な動きをしている。それを何度と無く確認するように黙々と魔物相手に鍛錬をする。
「この技は非常に強いけど実戦で使いこなすには修練が必要だなぁ」
ブツブツと呟きながらのその顔は子供らしく笑っていた。魔物の血で濡れた槍を握り締めながらだ、とっても不似合いな光景である。
「(カインはハクロウの熱狂的な信者だな・・・)」
これまでの会話からある程度予想はしていたがハクロウの敵と見なせば捨て身で戦うであろう、全ての奴隷らが。確認したが子供らの境遇は様々だ。無理矢理売られたのもいれば泣く泣く売られたのもいるし食い扶持が無い下級騎士の子供や元神官などもいる。
全員に共通しているのは生活苦である。何しろ魔物が蔓延っているにもかかわらず民を守る軍隊が役立たずなのだ。傭兵などのおかげでかろうじて生活は出来ているが一刻も早く平和が欲しいと望んでいる。その根幹となる国が一部の強欲な者らで動かされているので民はもはや王らを信じていない。実際に末端から逃亡が相次いでいるのだ。
だが、それでも生活は良くはならないので傭兵となれば良い方であり山賊などに身を落とす者も多い。この子らの親もいるかどうか分からないしいても生活費に困窮しているだろう。自分らの生活すら守れずにいる状態なのだ。国の統治体制は成り立っていない。
だからこそハクロウの提供している状況こそが異常なのだと感じてしまう。
徹底的に戦略を練り装備を整え勝つべき時に勝つ。さらに次の戦いに備えての準備も怠っていない。ここまで統率管理された部隊など奇跡だと思ってしまう。
その間に何度か魔物の襲撃があったがカインらは圧倒的な強さで殲滅していく。
「部隊A1は左に回り横腹を突け。A2は射撃をしつつ包囲しろ」
防壁を構築中にも魔物らは来るがカインの指揮の下で子供らが武器をもって防戦する。的確な指揮で魔物らは近寄れずに数を減らしていく。
「(本当に成人前の子供らだけで構成されているのか疑わしくなるな)」
それほどまでにこの子らは強い。闇雲な攻撃ではなく明確な弱点を狙ってそこを徹底的に突くきわめて合理的な戦闘だ、非力であるからこそ一糸乱れぬ行動こそが不利を打破できる戦闘方法だと良く理解していた。カインは先頭に立ち縦横無尽に槍を振るう。
「テリャッ!」
そのたびに敵に明確な傷を与え弱らせる、そこを他の子供が追撃して倒していく。
「(あの槍は強力な武具だがそれだけじゃこの強さは説明できない)」
そう、覚悟が違うのだ。
どんな兵でも戦いに出るには自分を『戦に出る』という態勢を作らなければいけない。そうしなければ動くことなど不可能だ。一言で終わってしまうがこれがとても難しい。人は臆病な生き物だ、負けていると分かれば簡単に逃げ出してしまう。だからこそ自らを律す努力を怠ってはならない。
大人でも難しいことをここにいる子供らは当たり前にしていた。王国軍とは比べ物にならない精鋭である。
「(ハクロウ殿はあの若さでどうしてここまで凄いのか良く分かるというものだな。自分がその場にいなくとも勝つために何をすればいいのかを徹底的に教え込んでいる)」
これだけの部隊を短期間で作り上げられる力があれば魔物の脅威を排除することなど容易い事なのだろうな。傭兵に留まるような器ではないことを確信する。
そんなことを考えているうちに防壁を構築し終わり依頼は終了して都市まで戻る。
「カイン、オーレル。お疲れ様」
ハクロウ自ら労ってくれた。
『ただいま帰りました』
依頼を完了したことを報告する。
「作業の様子は大体予想してたから」
ちょっと予想より早く終わったと。
「さて、傭兵ギルドに報告して終わりだね」
二人そろって返事をする。
「今は王国軍に呼ばれた傭兵がいないから防備が手薄、その分だけこっちに依頼が来てるんだ」
装備などを手入れして準備しておけと。
「王国の損害はどれほどに?」
聞く必要も無いことだが確認しておきたかった。
「ヴァトラー公爵様など後方にいた部隊以外は壊滅させた、そして大量の捕虜も出た。獣人国がこれをどのようにするのかは分からないけどこの損失を回復するのは時間以外解決策が無い。国力の低下はしばらく続くだろうね。他国からの介入も予想できるから厳しい道のりになるだろう」
安易に戦争を仕掛けるからこうなった、と。ハクロウは極めて現実を見た答えしか言わなかった。
「王国はどうなりますか?」
「心配なの?」
「ええ」
「厳しい状況だけど土台までは壊れてないから何とかなると思う。まぁ政治を担当する文官と軍事を担当する武官の対立が明確になって離れていく人たちも多く出るだろう。その舵取りを誰がするのかは知らないけど」
国の規模は縮小するが残ると言われる。ここで疑問が生まれた。
「ハクロウ殿はどこかに仕官しようとは思わないのですか?」
これほどの実力ならば簡単なはずだ。
「どこかに属するということはそこの意向に従うこと、僕は偉そうな連中の顔色を見て動く人生なんて送りたくない」
国というわけのわからない物など背負いたくないと口に出す。
「では、なぜ戦うのですか」
「自分はね、極めて身勝手だから」
予想もしなかった答えを口に出した。
「自分という唯一にして絶対な世界を持ったままどこまで行けるのか、ただそれだけ。この世界に魔物の脅威が無くて醜い争いが無ければ平凡なままで終わるはずの人生が火事になりかけている。自分はただその火を消しているだけ」
そのもっとも有効な手段として傭兵を選んだだけだと。
だけど国の力を借りればもっと簡単なはずだ。
「僕は誰よりも苦しんでいるのは民だと思っている。王様の綺麗な手よりも奴隷の汚れた手のほうが好きだ。一度手に取ったならそれが最後まで歩けるようにしてあげたい。迷ったら話を聞いてあげる、躓いたら起こしてあげる、苦しんでいるなら癒してあげる。そんな小さな願いを押し通したい。それだけなんだ」
子供のような淡く儚い願い、それを手に取った。
「自分が全てを救えるなんて思ってない、誰かしら零れてしまう。それでも」
押し通せるところまで行ってみようと。
「って、指揮をとる人間としては失格だと思うよこんな答えは」
戦いに犠牲は付き物、それを受け入れて前に進まなくてはと思っているがどうにも難しいらしい。だから彼らを優遇する。いつ別れが来てもいいように。
なるほど、奴隷の子供らが最優先であり自分のことは出来るだけ後ろに回しているのだな。手柄も褒美も何もかも他の事であり私情は捨てて必要な仕事だけをしているのだと。
ああ、これを見ると王国の中心人物がいかに醜いのかが分かってしまう。
「話はこれで終わり、かな」
「ええ」
もうこれで迷いは無くなった。
「それじゃ傭兵ギルドに報告に行こうか」
仮面で表情は見えないが笑っているのだろうと思う。
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もう書かないんですか。この作品を読んでネット小説にはまり、2022年になって自分でも書いてます。続きが読みたいです
面白かったです
続きを待ってます
この小説を見つけて最初の一話を読みました。
なんか10話くらい読んでいる濃密さを感じる。
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