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雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』その(18) 喪服の美少女

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天才美少女ファイター NOZOMI 衝撃のデビュー! 堂島源太郎を絞め落とす。

NOZOMI 堂島を公開絞首刑葬り!

無念!ド根性 堂島源太郎。NOZOMIに失神KO負け。引退か?

時代は格闘技もジェンダー・レスか?
真剣勝負で美少女が屈強な男を破る。
恐るべき少女 NOZOMI

翌日の各スポーツ紙はそのような見出しが躍っていた。

そして、各紙一面の写真は、背後から長身のNOZOMIにスタンディング・チョークスリーパーで絞め抱え上げられる堂島の姿。両腕をダラーンと下げ、膝の力も抜け堂島の身体は、NOZOMIの腕の中でブラーンと宙吊りとなっている異様なもの。

あの堂島が気絶した瞬間であり、まさしく、公開宙吊り絞首刑である。

あのシーンは観ている者には衝撃的でショッキングなものであった。

少女が屈強な男をKOした。
脚本あるプロレス的ショーではない。また無名の男子選手相手でもない。
真剣勝負で17才の女子高生が有名男子キックボクサーを倒してしまったのだからそのインパクトは大きい。
相手は、かつて日本王者であり、団体の看板キックボクサーの一人であった
ド根性 堂島源太郎なのだ。

勝ったNOZOMIとその関係者、ファンは大喜びだろう。でも、男でありながら少女にガチンコで敗れた、、それも失神KO負けという無残な形での最後。堂島とその関係者にとっては、こんな屈辱的なことはないだろう。

それを象徴するシーンが、各紙2面3面に載せられている。
うつ伏せに倒れている堂島の横で勝ち名乗りを上げるのはNOZOMIだ。
気絶している堂島を介抱しているのはいかつく汗くさい男たち。ドクターを呼んでいるようだ。
勝ち名乗りを上げるNOZOMIに大喜びで抱きついているのはセコンドについていたセーラー服姿の少女ふたり。
そんな可憐な少女たちと、マッチョな男たちの対比。勝利したのは少女たちなのだ。史上最大の番狂わせ。

更に、倒れている堂島の傍らで正座になって敬意を表しているNOZOMIの姿はビキニ状の蛇革水着なのだ。見ようによっては、堂島陣営としてはこれ以上の屈辱はないだろう。

17才の美少女が、現役男子一流キックボクサーをシュートマッチで沈めるという衝撃的なニュースは、海外にもセンセーショナルに報じられた。

しかし、世間はもっと驚かされることになる。堂島源太郎は意識を取り戻すことなくあの世に旅立った..。

氷雨の中。
堂島源太郎の通夜、葬儀は粛々と行われた。生前の彼の実直な人柄もあり、格闘技関係者、ファンをはじめ、多くの弔問客が訪れた。
男! ド根性源太郎の後半生すべてをかけてきた格闘技人生、その最後の試合で少女ファイターに敗れることになったのはあまりにも屈辱的で残酷ではあったが、命まで失うことになるとは思いもよらなかっただろう。

この男女決戦において、堂島が何か一石を投じたのは確かだろう。借金返済という事情があったにせよ、彼が女子選手の挑戦を受けなければ格闘技におけるジェンダーレス論争は起こらなかったのだ。堂島源太郎は勝っても負けても必ず何かを残す。

堂島源太郎、享年35歳。

「龍太んちのオヤジ、女にKO負けして死んだんだぜ、恥ずかしいな...」

葬儀の最中、堂島源太郎の息子、龍太のクラスメート数人が大人たちの目を盗んで心ない噂話をしている。

「君たち! 龍太君のお父さんの悪口は赦さないわよ。堂島源太郎さんは立派に戦った尊敬できる人。女に負けたからみっともない? ならば、君たちのお父さんとこれから戦ってみようか?」

少年たちが振り返ると、そこには長身の喪服の女が立っていた。NOZOMIである。少年たちは突然現れたNOZOMIのオーラに畏怖し「ごめんなさい...」と言い残し立ち去った。

弔問客の中にはNOZOMIもいた。
目立たないように地味な喪服、ベールで顔を隠していても圧倒的な存在感。それがNOZOMIであることは誰の目にも明らかだった。しかし、彼女の心中を思うと誰も声をかけることは出来なかった。公正な試合の結果であったにせよ、それによって相手を死に至らしめてしまったのは事実なのだから。

NOZOMIは堂島源太郎の遺影に目をやると大きく一礼した。そして、丁寧に焼香を済ませると、遺族に向かって深々と頭を下げその場を離れた。
それに応え頭を下げたのは妻の佐知子だけ。息子の龍太は不自然なほど一瞥もしない。それとは対照的に、幼い娘の麻美は憎悪の目でジッとNOZOMIを睨みつけていた。
NOZOMIは、そんな堂島麻美の視線を痛いほど感じていた。

堂島源太郎 vs NOZOMIは、堂島の死という最悪の結果になってしまった。
「リング禍」ということについて様々な議論が巻き起こった。そんな中でも批判されたのはレフェリーと堂島側セコンドの判断。全国生中継中に起こったことでありあれは残酷に映った。

NOZOMIの腕が堂島の首にまわったのは最終ラウンド残り45秒を切った時である。その時点では、堂島は両脚を踏ん張っており肘をNOZOMIの脇腹に打ち付けようとしたり、踵でNOZOMIの爪先を踏み付けようともしていた。
まだ戦う意思がはっきりしておりストップ出来ない。
残り20秒になった頃、NOZOMIの腕は深々と堂島の首に巻き付いていた。ここでストップすべきだった。
まだ目の光があったように見えたので判断を誤ったのだ。それにあと10数秒で試合は終わる。女の子にTKO負けしてしまう堂島に同情の気持ちもあったかもしれない。選手の命を預かるレフェリーにあるまじき判断だった。
彼は悔いても悔いきれない思いだ。

堂島のセコンドについていた岩崎と今井にしても同じだ。
「どんなことがあっても絶対にタオルだけは投げないで下さい!」
そう言われてはいたが、それは言い訳になるだろう。選手の健康を守るのもセコンドの役目なのだから。
NOZOMIのチョークスリーパーは、男子選手のそれと違って、一気に絞め落とすのではなく気が付くと巻き付いているのだ。まるで、真綿で首を締めるようにジワジワと窒息させる。
堂島が彼女の腕の中でもがき苦しみながらもあと10秒ちょっと持ちこたえれば判定勝ち?と思っていたら、失神した彼は宙吊りになっていた。
堂島の家族に言い訳が出来ない...。

堂島が亡くなり49日が過ぎた。

NOZOMIは堂島家に向かっている
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