ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

文字の大きさ
64 / 308
第二章 お飾りの王太子妃、国内にて

45 それぞれの休日(2)

しおりを挟む
 レオンが何かとてつもなく恐ろしい誤解しているようなので、誤解を解こうとしていると、レオンが私を見ながら声を上げた。

『クローディア!! よく見ておけよ』

『え……はい』

 レオンは、スタスタと歩いて、私たちから十分に距離を取った。すると私の周りにラウルとアドラー、リリアが近付いて来てかと思うと、護衛騎士の三人もすぐ近くに来た。

「クローディア様。危ないですのでここから動かないで下さいね」

 ラウルが片目を閉じながら言うと、剣の柄に手を置きながらレオンを見つめた。レオンは随分と離れた場所から私たちを見ると、背中の鞘から大きな剣を抜いた。

「大きい……そして、やっぱり重そう」

 レオンの剣は私の身長くらいの長さがあり、あの剣を両手で水平に持っているだけでもかなり重そうだった。私がレオンの剣を見て思わず呟くと、リリアも大きく頷いた。

「あれだけの大剣、かなりの重量のはずです。それに剣を振った時の抵抗だってあるはず……」

 リリアの言葉に、ラウルが呟くように言った。

「だが……あれだけの剣を振り回せば、威力はかなりのものだ。油断すれば吹き飛んでしまうかもしれない」

 吹き飛ぶ?! そんなに?!
 私がハラハラしながらレオンを見ていると、レオンが大きく剣を振り被った。
 レオンは剣の重さなど物ともせずに、大きな剣を自由自在に扱っていた。両手で持ったと思ったら片手でも扱っていて私は息を飲んだ。
 レオンとはかなり離れているにも関わらず、ここまでレオンの剣の風を切る音とレオンの剣に吹き飛ばされた木の葉が飛んでくる。

「凄い……」

 リリアがレオンの剣を見ながら呟いた。しばらくレオンの剣を見ていると、レオンが剣を止めて、こちらに向かって声を上げた。

『側近殿、俺の相手をしてくれないか? それとも……止めておくか?』

 アドラーは、私を見て微笑みながら言った。

「クローディア様、少々陛下のお相手を致します」

「え? アドラー大丈夫?!」

 そう言うと、アドラーは美しく有無を言わせない圧を含んだ笑みを浮かべて微笑んだ後に、レオンの方に歩いて行った。

「クローディア様、アドラーの殺気が凄いのですが、レオン陛下は何とおっしゃったのですか?」

 ラウルに尋ねられて、私は困りながらも「レオンがアドラーに相手をしてくれないか、って言ったの」と答えた。
 そして、その後に慌てて私もラウルに尋ねた。

「アドラー、大丈夫かな?」

 するとラウルが片目を閉じながら言った。

「ご安心を。アドラーなら問題ありませんよ。でも、クローディア様に心配して貰えるなど、妬けますね」

 ラウルの言葉にリリアも頷きながら言った。

「クローディア様、兄なら大丈夫ですよ。確かに陛下の剣は凄いですけど……きっと兄は、陛下のとって最も苦手なタイプの剣士だと思います」

「苦手……そうなんだ」

 私はアドラーとレオンを見つめた。そう言えば、私はラウルとリリアの戦う姿は見たことがあるのだが、アドラーは噂に聞くだけで、実際に戦う姿を見るのは初めてだった。
 アドラーは、レオンの前に立つと、何か二人で話をしている様子だった。ここからでは二人の会話は聞こえない。

『おお、側近殿。逃げずに来たのか?』

 アドラーは澄ました様子で答えた。

『ええ。陛下が私を指名した理由、私なりに心得ているつもりですので、いつでもどうぞ』

 レオンはピクリと眉を動かすと、低い声で言った。

『たかが側近が調子に乗るなよ?』

 レオンがアドラーを見据えて、剣を大きく振りかぶった。

「アドラー!! 危ない!!」

 私が思わず声を上げたその時には、アドラーの姿が消えていた。

「……え?」

 私がアドラーを探すと、レオンの動きがピタリと止まっていた。よく見るとアドラーはいつの間にか、レオンの肩ギリギリに剣を近付けていた。

「何……全然、見えなかった」

 何が起きたのか全く理解出来ずに呟くと、ラウルが答えてくれた。

「アドラーは、レオン陛下が剣を振り上げた瞬間に、陛下の肩口に近付き動きを制したのです」

「つまり、アドラーはすごく早く動いたってこと?」

 私が尋ねると、今度はリリアが答えたくれた。

「その通りです。兄は動きの早さに定評があります。相手の剣より先に動くことで相手を制するのです。レオン陛下の持つあのように大きな剣は、威力は高いのですが、スピードが落ちます。つまりレオン陛下にとって兄の剣はまさに天敵のようなものなのです」

 アドラーの剣は、レオンの天敵。なるほど、剣にも苦手な相手や武器など色々な特性があるようだった。まるでじゃんけんのようだと思っていたら、リリアが私を見ながら言った。

「ですがレオン陛下は、あのような大剣を持っているにしてはかなり早い。これは並大抵の剣士では防げないと思います」

 どうやら、レオンもかなり凄いらしい。
 私がぼんやりと、レオンとアドラーを見ていると、レオンが剣を下ろして大声を上げた。

『はははは!! お飾りの王太子妃の側近というから、口だけかと思えば……面白い!! 本当に面白い!! やはりクローディア、お前は本当に面白い!! これだけの腕を持つ男が騎士ではなく、側近?! ……なるほど、やはり彼女の本命はお前のようだな』

 遠くにいる私は、レオンのというセリフしか聞き取れなかったが、どうやら、私はレオンの中で可哀想な女性から、面白い女性に変化したようだ。
 私は一切何もしていないが、レオンの中で何か心境の変化があったようだ。
 レオンとアドラーは二人で話をしているようだったが、二人の会話は私には全く聞こえない。

『レオン陛下、手加減されたようですが……もうよろしいですか?』

 アドラーは、剣を下ろしながらレオンに尋ねた。

『ああ、気付かれてしまったのか、許せ。こんな場所で本気になって、怪我をさせても国際問題になるからな。だが、お前の実力はわかった。もう十分だ』

 レオンが大剣を鞘に納めながらアドラーに向かって言った。

『そうですか、お手合わせありがとうございました』

 アドラーがレオンに一礼をすると、レオンは笑ってアドラーの肩を叩いた。その衝撃でアドラーの眼鏡がズレた。

『お前、生意気だな。名前は?』

 アドラーは、肩を叩かれてズレてしまった眼鏡を元に位置に戻しながら答えた。

『クローディア様のアドラーと申します』

 レオンが目を細めて小さく笑いながら言った。

『アドラーか。覚えた』

 二人の間で何があったのか私にはよくわからないが、なぜか二人が私たちの元に戻って来た時には、先ほどまでの緊張感はなくなっていた。

「ねぇ、リリア。あの二人何があったのかな?」

 私がリリアに尋ねると、リリアが呆れたように言った。

「クローディア様。全ての男性がそうだというわけではないのですが……男性同士が剣を交わした後に、打ち解けるという光景は、そう珍しい光景ではありません。不思議ですが」
「そうなのね、不思議ね」

 私は、アドラーとレオンが険悪な雰囲気にならずに済んでほっとしたのだった。


しおりを挟む
感想 955

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく…… (第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。