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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還
45 歴史的瞬間
しおりを挟むベルン国王城では、イドレ兵が民によって取り押さえられ、イドレ国皇帝の命を受けて派遣された貴族も皆に取り囲まれていた。
そこへアンドリュー王子が、杖を付きながらも凛とした姿で現れ、声を上げた。
「ベルン国を、返してもらおう」
その後、イドレ国の貴族は捕えられたのだった。
ここに長きに渡るイドレ国の支配は、ようやく幕を閉じたのだった。
イドレ国の兵は捕えられ、各地に残っていた兵もそれぞれ撤退することになるだろう。
人々は大いに喜び、涙を流した。
ガルド、レイヴィン、ジーニアス、レガードは、民が自らの力で国を奪還する光景をすぐ近くで見ていた。
「この事実はしっかりと記録する必要があります」
ジーニアスが、そう言ってどこから取り出した紙にペンを走らせた。
レガードは、喜ぶ人々を見ながら呟くように言った。
「私もこの光景を脳裏に焼き付けておきます。人々にとって国を失うことがどういうことなのか。騎士として……いえ、私個人としても、民のためになる選択をする必要があると思いました」
ガルドは、レガードの言葉を聞いて目を細めたのだった。
◆
そして私は……。
小高い丘の上で、国中に響き渡るかというのような民の喜ぶ声を聞いていた。
私は、民の歓声に湧く王都を見ながら呟いた。
「無事にベルン国を奪還出来たみたいね」
隣で、ラウルが嬉しそうに言った。
「ええ。これから街を復興しなければならないでしょうが、彼らならまたすぐに美しい街を作りあげることができます」
アドラーも頷きながら言った。
「そうですね」
みんなが笑顔で街をみているとブラッドは一人で眉を寄せていた。私は不思議に思ってブラッドに尋ねた。
「どうしたの、ブラッド?」
ブラッドは、私を見ると無表情に答えた。
「……少々感傷に浸っていたのかもしれない」
私は眉を寄せて、ブラッドの顔を覗き込みながら尋ねた。
「感傷に浸る?」
私は、ブラッドの考えていることを知りたかった。
もしかして、とても感動して泣きそうになっているのだろうか?
私がブラッドの言葉を待っていると、ブラッドは淡々を話をしてくれた。
「ああ。これからジルベルトをはじめ、ベルン国の貴族はやるべきことが山積して、寝る時間もないだろう。さらに王族も同様、しばらく何も考えられないほど多忙を極めるだろうな。現状把握、破損した道の整備、治安回復、民の住居の確保、民の日常回復への支援、他国への対応、そして他の領との連絡、自国の防衛……やることはかなり多いだろうとな……」
あ……。うん……。
想像すると……かなり大変そうだね。
ジルベルトたち……。
確かに……想像したら大変だろうな、とか、心が痛んだりするかもしれない。
「う……みんながベルン国を奪還して喜んでいるのに、ブラッド……そんなことを考えてたんだ。でも……そうだね。そう言われると、これからの方が大事だね」
ハイマ国の筆頭公爵家に生まれて、常に国全体を見ていたブラッドらしい考えだとも思った。
ブラッドはすでに、奪還した喜びではなく、ベルン国に住む民のこれからの幸せを考えていた。
つまり、彼にとってベルン国奪還は、ゴールじゃなくて過程だということだ。
私は、これからのベルン国を思って王都を見ていると、ブラッドが再び口を開いた。
「ああ。……それと……アンドリュー殿下を裏切り、イドレ国に嫁いだ者は、この知らせを聞きを何を思うのだろうか……と考えていた」
――確かにそれは……胸が痛む。
この知らせは、当然アンドリュー王子の元婚約者の元にも届くだろう。
その時、彼女は何を思うのだろうか?
国を離れたことを後悔するのだろうか?
それとも祖国が復活したことを遠いイドレの地から喜ぶのだろうか?
私が彼女の心中を推し量っていると、ブラッドが私の肩に手を置いた。
「そろそろ皆と合流するか」
私は、ブラッドを見ながら頷いた後に答えた。
「そうね」
こうして私たちは、ガルドやジーニアスたちと合流するために王宮に向かったのだった。
◆
私たちが、王宮に到着するとすぐにジーニアスとレガードが、走って側に来てくれた。
「クローディア様!! ご無事で何よりです!!」
ジーニアスが私を見ながら泣きそうになっていた。
「クローディア様、ベルンの民の力で、無事にイドレ国の貴族と兵を捕えました」
レガードが大きな声で報告してくれた。
私は二人を見て言った。
「そう。ジーニアスもレガードもありがとう、大変だったわね」
そして、ゆっくりと歩いてきたガルドとレイヴィンを見た。ガルドが私の近くまで来ると微笑みながら言った。
「クローディア様。素晴らしい音色でした。今度はぜひ、近くでゆっくりと鑑賞させて頂きたいです」
私はガルドを見ながら微笑んだ。
「ふふ、ありがとう、ガルド。ガルドも、レイヴィンも大変だったでしょう? ありがとう」
レイヴィンが私の言葉を聞いて目を丸くしながら言った。
「よくやったではなく、ありがとう……ですか……。言われ慣れていないので少し照れくさいですが……嬉しいものですね」
レイヴィンの言葉を聞いて、私はレオンを思い浮かべた。確かにレオンならこんな場合は、よくやったと言いそうだと思った。
私たちが話をしていると、ヒューゴと共にアンドリューがゆっくりと歩いて来た。
みんなは、私の後ろに下がると、私はアンドリューの正面に立って微笑んだ。
「もう歩けるほどに回復されたのですね。よかった」
アンドリューは、照れたように笑いながら言った。
「これも、ヒューゴ殿のおかげです。そして、何よりクローディア様、あなたのおかげです。本当に感謝しております。ささやかですが、皆様をお礼の宴にご招待したいと思います。クローディア様たちには、大変お世話になりました。ぜひ招待を受けて頂けませんか?」
アンドリューに熱の籠った瞳を向けられて、私は頷きながら言った。
「では、レオン陛下とリリアが戻ってからでもよろしいでしょうか? 我々は一度辺境伯の屋敷に戻り、レオン陛下とリリアを待ちたいと思います」
レオンとリリアの帰りを待って、私たちは三日後の夜に、このベルン国王宮に招待してもらうことになったのだった。
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