ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第四章 お飾りの王太子妃、郷愁の地にて

4 カードゲームで休息を(2)

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「クローディア、これがカードだ」

 遊戯室に到着して、レオンに渡されたカードを見て私は驚いた。
 まさにこのカードはトランプだった。トランプのマークは違うが構造は同じだった。
 私がじっとカードを見ていると、ヒューゴが説明してくれた。

「このカードのマークはそれぞれ、人、土地、資源、守り神を現しています。国を司る要素だと言われています」

 人は丸が書かれており、土地は台形、資源は三角が二つ繋がり、守り神はアルファベットの『S』のような形が書かれていた。
 確かトランプは、剣、こん棒と、お金と聖杯だった気がするので、考え方まで似ているように思える。
 そしてゲームの内容は、ほぼポーカーと同じで役を作るゲームだった。ただチップを使うという要素はなく単純なカードゲームだ。
 その辺りが私の知っているポーカーとルールが違うが、こちらの世界のルールの方がシンプルなのでわかりやすい。『ロイヤルストレートフラッシュ』という言い方は違っても、ポーカー・ハンドつまり役は同じだ。ワンペアやツウペアなど同じ名前の役もある。強い役を作るという大きな目的は変わらない。
 ヒューゴの説明が終わると、レオンが口を開いた。

「とりあえず、まずやってみせるか。ダラパイス国の秘書、侍女殿、相手をしろ。側近は解説」

「かしこまりました」

 そして私は、レオンとヒューゴとリリアの対戦を見学をすることにした。対戦の準備をしている間に私は隣に立っていたアドラーに尋ねた。

「ねぇ、アドラー。これって運がかなり必要なゲームよね?」

 私の問いかけにアドラーが答えた。
 
「クローディア様、確かにこのゲームは運が全てだと言う方も多いのですが、一概にそうとは言えません」

「そうなの?」

 私はカジノなどにもあるので、ギャンブルの要素が強いのかと思っていた。

「はい。例えば共有カードを記憶すれば、デッキに残っているカードの予測も可能ですし、相手の性格やクセを知っていれば相手の手札をある程度予測できます」

 おお、カウンティング……それは記憶力のいいアドラーじゃないと厳しい戦略な気がする。
 私がもし勝負をするとしたら、カウンティングは荷が重い。ということは、相手のクセを見て、予測かするしかないのか……
 勝負が終わってみるとレオンの圧勝だった。
 
「レオン、強いのね……なにかコツがあるの?」

 レオンは片眉を上げながら言った。

「このゲームは常に冷静に、その場、その場で瞬時に相手の手札を予想して、自分の手元のカードで最適な布陣で迎え撃つというのがコツだな。クローディアも見ているだけではつまらないだろう? そろそろやってみるか?」

 なんだか軍議のようなアドバイスを受けたが、やってみなければわからない。

「一度、やってみるわ」

 次は私もゲームに参加することにした。
 私とレオンの対戦の準備をしていると、サフィールとディノが遊技場に入って来た。サフィールは私たちの近くまで歩いて来ると、不機嫌そうに眉を寄せながら言った。

「ディア、こんなところにいたのか?」

 和やかな空気は、サフィールの登場と共に霧散した。サフィールはみんなの気まずそうな空気も読まずに、レオンに向かって言った。

「スカーピリナ国王、御言葉ですが、なぜディアをこの呪われた地に留めているのですか? 早く出発するべきだ!!」

 レオンは呆れたように答えた。

「クローディアのことを優先しろというから、使えるヤツかと思えば……外は大雨、そして次の休息地まで山を超える必要がある。この状況ですぐに出発しろとは……とんだ愚か者だな」

 いつも怖い顔をしていても、どこか優しさを残しているレオンの表情から甘さが消えた。
 一緒にいる私たちの空気まで重くなる。だがサフィールは、そんな空気など構うこともなく口を開いた。

「山越えでなくとも、ルートを変更すれば良い。とにかくこのガラマ領に留まるのは危険だ。火龍の最期の地で、もし呪いを受ければ、どうなるのかわからない」

 レオンは鋭い目つきでサフィールに尋ねた。

「これからルートに変更すれば、移動距離が増え、クローディアの負担が増えるのは明らかだ。そもそも貴公が口にする火龍の最期の地、呪いとはなんだ? 以前はこの地にそのようなものはなかったはずだ」

 空気がとにかく重い。隣でアドラーも何かあった時にはすぐに動けるように足に重心を置いているし、リリアも私の方に少し寄って、すぐに動けるように構えている。今や楽しいはずの遊技場は、闘技場のような緊迫した状況だった。

「呪いの地だと言われるようになったのは、最近だ……だが、未知のものだからこそ警戒している。それを臆病だとあざ笑うというならそれは傲慢だ」

 ――未知のものだから警戒している。

 サフィールの言葉は、わかる気がした。誰でも未知の物は……怖い。だが、それでも大雨の中、移動するというのは賛成はできない。呪いの危険と事故の危険、天秤にかけても私たちは事故の危険を回避する方を選ぶだろう。
 
「仮に呪いがあったとして、この大雨の中、クローディアを移動させることはしない」

 レオンも私と同じように思ったようで、サフィールを睨むように言い切った。二人の間に目には見えないが火花のようなものを感じる。
 重苦しい空気に段々耐えられなくなってきた。私は、サフィールを見上げながら言った。

「サフィール様、呪いのことを心配して下さるのはわかりました。ですが、私もこの雨の中の移動はご遠慮いたします」

 私の言葉を聞いたサフィールが私を見ながら大声を上げた。

「しかし、ディア!! もし呪いを受けたらどうするのだ!?」

 私はサフィールを見ながら言った。

「では、サフィール様。呪いと言われるようになった理由などを聞かせて頂けませんか?」

 呪いというと迷信のように思うが、地球でも過去に病気などの流行が呪いと言われることもあるし、毒ガスの発生など自然現象が呪いだと言われた時代もあった。だから今回はなぜ呪いと言われているのか知る必要があると思ったのだ。

「わかった」

 サフィールも頷くと私の側に座った。レオンも眉を寄せながら話を聞く体勢になった。

 こうして私はカードゲームはお預けになり、サフィールから呪いについての説明を聞くことになったのだった。

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