ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第四章 お飾りの王太子妃、郷愁の地にて

14 隣国の王都へ(1)

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 それから私たちは、無事にガラマ領南部の山脈を超えて、大公領の外れにある大公家の別荘で一泊した。そして、いよいよ今日、ダラパイス国の王都に入る。夕方にはダラパイス国の王城に到着する予定になっていた。
 ガラマ領内とは違い大公領に入った途端、格段に道が良くなって馬車での移動が快適になった。そのせいか少しだけ馬車の速度が上がった気がした。

「馬車がほとんど揺れないわね」

 何気なく呟くと、ジーニアスが説明してくれた。

「ダラパイス国は、国内に海がなく海路を持たない代わりに、多くの河を利用して、国内外に多くの水運を確保しております。また大公閣下は街道整備も積極的に行っております」

 水運の整備か……もしかしてダラパイス国の本当の凄さって、土木技術なのでは? ハイマは造船や、建築、武器などの製造業の技術は高いが、ここまでの旅を思い出すと土木技術は高いとは言えない。

「そうなのね。教えてくれてありがとう、ジーニアス」

「いえ」

 ジーニアスと話をしていると、ブラッドが声上げた。

「クローディア殿。そろそろダラパイス国王都に入るぞ」

 ブラッドに言われて馬車の外を見ると、大きな城壁が見えた。ベルン国には城壁はなかったが、ダラパイス国には、ハイマのような城壁があるようだった。
 そして城門の中に入ると私は思わず声を上げた。
 
「凄い……綺麗な街」

 ダラパイスの王都の道は綺麗に整備され、建物も皆揃っており、とても美しい街だった。街中には大きな噴水もある。

「いつか……こんな街をのんびりと観光出来たら素敵ね……」

 私は美しい街並みにため息が漏れた。人も多く活気に溢れている。こんな街を自由に歩けたらどれほど素敵だろうか……。
 だが、私はハイマ国の王太子妃で刺客にも狙われている。街を自由に見て回れないことくらい充分に理解していた。きっと私が行けば護衛を多く引きつれて歩くことになるので、みんなの負担になるし、街の人たちにも迷惑がかかる。
 私が街並みを眺めていると、ブラッドが私を見て目を細めながら言った。

「のんびりと観光か……」

「……ああ、気にしないで。本当に観光できると思ってないから」

 それからすぐに私たちはダラパイス国の城に到着した。城に着き、大きなエントランスに通されると良く知る人物が立っていた。

「クローディア!! 無事だったのか?」

 私はゆっくりと声をかけてくれた人物に近付きながら言った。

「ごきげんよう、お兄様。どうしてここへ?」

 私の目の前にはハイマにいるはずの兄が立っていたのだ。幼い頃の兄はハイマから出ることは許されなかったが、学院を卒業した途端、国内外を飛び回っているので、ここにも仕事で立ち寄ったのだろうと思った。

「どうしたもこうしたもない!! 到着予定は随分と過ぎているのに、おまえはまだ城に着いていないと言うだろう? 挙句の果てにはベルン奪還に加担したと聞いて、心配していたんだ!!」
 
 どうやら兄は、独自ルートのおかげで私の情報が手に入ったようだった。

「お兄様、落ち着いて下さい。もしかして、私を心配してわざわざ来てくださったのですか?」

「そうだ。お前の無事をのために来た。それなのに……クローディアは随分と落ち着いているのだな……まぁ、元気そうでよかったと思うことにしよう。クローディア、陛下や王妃様がお前の到着を待ち過ぎて体調を崩しそうなほど心配している。早く謁見の間に向かいなさい」

「え? ええ」

 それから私は、すぐに案内されてダラパイス国の謁見の間へと通されたのだった。





 謁見の間には、私とブラッドだけが行くことになり、玉座には祖父国王と祖母王妃が座っていた。 
 二人は私を見るなり、玉座から離れ私を抱きしめながら言った。

「ディア、久しぶりだな!! 大変だったな……」

「ああ。ディアちゃん、つらい結婚をさせてしまってごめんなさいね。側妃を娶る習慣のないハイマで側妃を娶る前提の結婚だんて……恨んでいるでしょう? あやまって済むことではないけど、本当にごめんなさい」

 クローディアの記憶の中の二人と、目の前の国王と王妃は違いがないように思えた。二人とも、とてもあたたかく迎えてくれてほっとした。それに、側妃を娶るのが当たり前のダラパイス国の二人が、結婚のことをこんなに気にしてくれているとは思わなかったので少し驚いた。

「……お久しぶりです。私も……お二人にお会いしたかったです」

 私が二人に笑いかけると国王が眉を下げながらとんでもないことを言い放った。

「カインから聞いた……本国ではお飾りの王妃だと言われているとは……すまない、ディア」

 ああ、なるほど。兄が私の現状を二人に伝えていたからこんなにも二人は心を痛めていたようだ。

「どうか、顔を上げて下さい」

 私の言葉に祖父は顔を上げた。

「結婚を決めた時、王太子はディアを大切にすると言っていたし、もし離婚するようなことがあっても、そちらのレナン公爵子息殿も、ディアが承諾したら、レナン家に伴侶として迎え入れるつもりだ、と言って下さったからな。ハイマ、ダラパイス両国のためにもどうしてもハイマ王室に入ってもらう必要があったのだ。だが……本当に悪かった……」

 は? え? 待って、おじい様、今……なんて言った? 伴侶? 誰が、誰の?

 私は音がしそうなほどのぎこちない動きで、ブラッドを見た。

「……そう……なの?」

 私が尋ねると、ブラッドは顔色一つ変えずに言い放った。

「……ああ」

 ブラッドの伴侶?! はぁ~~? ブラッドってば、そんな重要なこと言ってないし、聞いてないし、初耳ですけど~~?!
 私は唖然としながら、そんな大切なことを今日まで一言も口にしなかったレナン公爵子息様の顔を無言でひたすら見つめることしか出来なかったのだった。



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