ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて

24 ハイマの王太子の旅路

　フィルガルドたちは、スカーピリナ国の国境目前までたどり着いた。彼らは、ダラパイス国王都を出てからずっと、賊との戦闘を繰り返していた。フィルガルドは馬車ではなく馬での移動を選んだため、当然彼も賊と剣を交えることになっていた。

「これで最後か……」

　フィルガルドが賊を倒すと、剣を鞘に納めた。彼の身なりがいいので狙われるというのもある。だが元々ハイマ国にほど近いダラパイス国辺境伯領付近の宿で足止めしようと考えていたエルガルドはフィルガルドにあまり多くの護衛を付けなかった。
　ガルドを師に持ち、ブラッド相手に剣を磨いてきたフィルガルドにとって、賊は特に問題でもなかった。
　そんなフィルガルドに向かって騎士団長カイルが口を開いた。

「フィルガルド殿下はやはりお強いですね……ラウルとどちらが強いのでしょうか？　殿下が王族でなければ、騎士団の幹部確実ですな……」

　カイルの言葉にフィルガルドが困ったように言った。

「ラウルとは、彼がまだ騎士団の副団長に就任する前……騎士団の第５部隊の副隊長だった時に手合わせをしましたが、２勝２敗１分です。あれから、私は忙しくなり、剣の稽古をする時間が減り、ラウルはさらに強くなっているでしょうから……どうでしょうね……」

　フィルガルドの言葉を聞いて、レガードが目を丸くした。

「え？　フィルガルド殿下、ラウル副団長に勝ったことがあるのですか？」
「昔の話ですが……」

　するとレガードが眉を寄せた後に呟いた。

「なるほど……もしかして、クローディア様がフィルガルド殿下に夢中だったのは、殿下の強さのせいなのか？」

　そんなレガードに向かってカイルが尋ねた。

「何か言ったか、レガード」
「いえ……やはり、クローディア様は殿下の剣をよく見にいらしていたのですか？」

　レガードの言葉に、フィルガルドが切なそうに目を伏せた。

「いえ……彼女は……一度も私の剣を見に来てくれたことはありません……ふふ、女性は剣など興味はないですよね。仕方ないことです」
「え？」

　レガードはそれを聞いて驚いてしまった。
　クローディアは以前騎士団の視察に来た時、一番に騎士の練習風景を見たい、と言ったとラウルが嬉しそうに話すのを聞いた。
　しかも騎士と同じ目線で見たいと言い、レガードの剣を嬉しそうに褒めてくれ、剣を持ちたいと言って興味があるといった様子だった。

（クローディア様が、剣の見学にいらっしゃらなかった？　そんなこと有り得るだろうか？）

　ふとレガードの脳裏に、クリスフォードが浮かんだ。彼は悪びれることもなく、フィルガルドを欺いた。もしかして、フィルガルドとクローディアの仲を彼が操っていたとしたら……？
　その時、聡いレガードはフィルガルドとクローディアが誰かの思惑で意図的にすれ違っているのではないか、と直感的に理解した。
　だが、ただ感じただけで証拠も何もなく、言葉にできないほど漠然としてたので、レガードは何も言えなかった。

「先を急ぎましょう」

　騎士団長のカイルの言葉でフィルガルド一行は再び、スカーピリナ国王都に向かって馬を走らせたのだった。