225 / 332
第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ
231 神様の采配(1)
しおりを挟むジーニアスに連れられて重厚な扉の部屋に向かうと、ロウエル元公爵が椅子に座っていた。
「クローディア殿、お待ちしておりました」
ロウエル元公爵は、椅子から立ち上がりながら私を迎えてくれた。
「これは、ロウエル様。ごきげんよう」
私はロウエル元公爵にあいさつをした。
どうやらこの件はロウエル元公爵に関係があるようだ。
だからジーニアスの表情が硬かったのね……
ブラッドのお使いならジーニアスがこれほど緊張はしないだろう、と思っていたがやはり違ったようだった。
ジーニアスが、ロウエル元公爵に「クローディア様にはまだ何もお伝えしておりません」と言った。
一体どうしたというのだろうか?
この部屋の調度品はどこかちぐはぐで統一感がない。
良い物だとはわかるが……船内に飾る調度品の一時置き場だろうか?
そんな風に考えていると、ロウエル元公爵が口を開いた。
「クローディア様、こちらは船が寄港した際に立ち寄った国々からハイマ王家に頂いた献品の数々です」
「ハイマ王家への献品……」
通りでどれも素晴らしい品だが、統一感がないはずだ。
クイーンイザベラ号を見てこれほどの調度品を譲ってくれたということは、今後このクイーンイザベラ号を利用したいという意味だろう。
「これが全て……」
それで私にこんなに貰ったよ、と見せてくれているのだろうか?
でも、国が貰った物なら私ではなく、フィルガルド殿下や、ブラッドに見せた方がいいのではないだろうか?
いまいち状況が読めず困惑していると、ロウエル元公爵が説明を続けてくれた。
「記録書記官が同行していると聞いてな、クローディア殿の専任の者に依頼して、記録を取ってもらったのだ。船に乗っている間に記録を作れば、私も管理する方も手間が少ないからな」
あ、もしかしてジーニアスに他の任務を与えたことに対する報告??
ロウエル元公爵は私のことをジーニアスの上官認定しているのだろうか? 実際にはその辺りは全てブラッドが管理しているので、私よりもブラッドに言った方がいいと思うが……。
「ご報告感謝いたします」
話は見えないが、報告をしてくれたことに感謝をすると、ロウエル元公爵は口角を上げながら言った。
「ああ、すでに理解されているのか、話が早い。では奥の部屋へ」
ロウエル元公爵はずんずんと奥へ進んで行く。
え? え? 私、話、理解してないよ!?
困ってジーニアスを見ると、ジーニアスが小声で説明してくれた。
「実は、こちらのお部屋の宝物は、ハイマ王家への献品なのですが、奥のお部屋にはクローディア様個人への献品の数々が保管されています」
は?
私への献品??
「それって、私への贈り物ってこと?」
「そうです」
私が戸惑っていると、奥の部屋から「クローディア殿、こちらへ」とロウエル元公爵の声が聞こえた。
「すぐに行きます」
慌てて、奥の部屋に入ると、私は思わず言葉を失った。
「え……?」
明らかに先ほどの部屋より、物が多い。
しかも、王家への献品の品は、絵画や甲冑といった芸術品が多かったが、この部屋には宝石や、ドレスなどの品が多かった。
「この辺りは、ダラパイス国王家からだ」
ダラパイス国王家ってことは……お祖父様!?
「そしてこの辺りは、ダラパイス国の大公家」
ひぇ~~高そうな宝石~~~!! サフィール……こんなにたくさん……
「そしてここはベルン国王家からだ。『突然のことなのでこのような物で申し訳ない』と使者が言っていた」
いやいや、どうしてこんな高そうな布地があるの??
アンドリュー殿下……絶対用意してた……
ベルンも大変なのに……
「そしてここ全てが、スカーピリナ国王家からだ」
待って!!
ルーカス陛下、レオン、これはやり過ぎです。
多すぎ、多すぎ~~~!!
夜光草までくれたのにぃ~~~
とにかく、後でレオンと話をしよう。
私が宝物の数々に戦慄していると、ロウエル元公爵が小さな箱を指さした。
「そしてこれは……ダブラーン国の町をクローディア殿の考えた水の壁で救った時に貰ったものだ。なんでもあの辺りは砂漠が近く、時々自然発生の火災に悩まされているらしい。今後はこの方法で村を守れると、感謝されて彼らの宝をくれたのだ」
私はロウエル元公爵を見て驚いた。
「え? 町を火事から救った? ロウエル様、それは素晴らしいですね!! でしたら、これはロウエル様がお持ちになるべきではありませんか?」
どう考えても、町の人を助けたロウエル元公爵の功績だろう。
私が貰うのは完全にお門違いだ。
ロウエル元公爵は平然としながら言った。
「私の功績ではない。あなたがいなければ村は救われなかった。あなたが必要ないというなら、王家に回す。とにかく中身を見てくれ」
私が必要ないなら王家に回すって……。
そんなことってある??
「クローディア様、まずは中身を確認してはいかがですか?」
ラウルに言われて私は頷いた。
「そ、そうね……」
ジーニアスが箱を開けやすいように用意してくれた。
「さぁ、クローディア様どうぞ」
「え、ええ」
私は緊張しながら箱を開けた。
「これは……何かしら?」
箱の中には綿のような物に守られた乾燥した少し白っぽい木の枝が入っていた。
え? これって、木の枝……だよね?
貴重な物なようだが、私はあまり植物に詳しくないため、これが何か全くわからない。
真っ白い木の枝……白樺とか??
でも白樺の枝って意外と白くないよね?
首を傾けていると、アドラーが息を呑んだ後に呟いた。
「これは……もしかして!!」
アドラーはこの中身が何かを知っていたようで、かなり驚いていた。
「ジーニアス、これは何?」
ジーニアスに尋ねると、ジーニアスが私の顔を真剣に見ながら言った。
「これは……恐らく――石花木です」
石花木……どこかで……ああ!!
「ダラパイス国の噴水の!?」
私が声を上げると、ジーニアスが頷いた。
待って、待って……確か『石花木』ってダブラーン国の王家でさえよくわかってないって言ってたよね?
それをこんなにたくさん!?
動機が激しい。
困惑と緊張で頭の中が混乱していた。
私はゆっくりと箱のフタを閉めると、大きく息を吐いてから言った。
「ブラッドに報告しましょう」
するとアドラーがすぐに「ブラッド様にご報告いたします」と言って部屋を出た。
私をずっと見ていたのか、ロウエル元公爵と目が合うと、彼は上機嫌に言った。
「ふっ、どうやら受け取ってもらえるようだな」
私は深く頷いた。
「はい。有難く頂きます」
現在、私たちはダラパイス国と秘密裏に噴水に描かれていた植物を使うと何が出来るのかというのを調査していた。だから噴水に描かれていた植物である『石花木』をハイマ王家に献上されるのはかなり困る。
私は真剣な顔でロウエル元公爵を見つめながら尋ねた。
「本当に陛下にお渡ししなくても良いのですか? これは大変貴重な物です。それを私に渡して……本当に後悔しませんか?」
ロウエル元公爵は口角を上げながら言った。
「いくら良い物であろうとも誰に何を渡すのか、それで全てが決まる。木こりに良く切れるオノを渡せば、オノは最高の働きをしてくれるだろう。だが木こりに素晴らしい小麦を渡してもパンにはならず朽ちていくだけ。あなたにこれを渡すのが一番有益だと思っただけだ」
ロウエル元公爵は、エルガルド陛下ではなく、私にこの貴重な物を託してくれた。
私はその信頼が心から嬉しいと思えた。
「ありがとうございます、ロウエル様」
私は心からお礼を伝えた。
「それはいつか……ダブラーン国の民に伝えてやってほしい」
ロウエル元公爵は、これまで見たこともないほど穏やかに微笑んだのだった。
私は「はい」と答えたのだった。
――――――――――――――――
次回更新は9月7日(土)です☆
1,806
お気に入りに追加
8,811
あなたにおすすめの小説

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています
白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。
呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。
初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。
「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

行かないで、と言ったでしょう?
松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。
病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。
壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。
人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。
スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。
これは、春を信じられなかったふたりが、
長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。