ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ

231 神様の采配(1)

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 ジーニアスに連れられて重厚な扉の部屋に向かうと、ロウエル元公爵が椅子に座っていた。

「クローディア殿、お待ちしておりました」

 ロウエル元公爵は、椅子から立ち上がりながら私を迎えてくれた。

「これは、ロウエル様。ごきげんよう」

 私はロウエル元公爵にあいさつをした。
 どうやらこの件はロウエル元公爵に関係があるようだ。
 
 だからジーニアスの表情が硬かったのね……

 ブラッドのお使いならジーニアスがこれほど緊張はしないだろう、と思っていたがやはり違ったようだった。
 ジーニアスが、ロウエル元公爵に「クローディア様にはまだ何もお伝えしておりません」と言った。
 
 一体どうしたというのだろうか? 
 この部屋の調度品はどこかちぐはぐで統一感がない。
 良い物だとはわかるが……船内に飾る調度品の一時置き場だろうか?

 そんな風に考えていると、ロウエル元公爵が口を開いた。

「クローディア様、こちらは船が寄港した際に立ち寄った国々からハイマ王家に頂いた献品の数々です」
「ハイマ王家への献品……」

 通りでどれも素晴らしい品だが、統一感がないはずだ。
 クイーンイザベラ号を見てこれほどの調度品を譲ってくれたということは、今後このクイーンイザベラ号を利用したいという意味だろう。

「これが全て……」

 それで私にこんなに貰ったよ、と見せてくれているのだろうか?
 でも、国が貰った物なら私ではなく、フィルガルド殿下や、ブラッドに見せた方がいいのではないだろうか?
 いまいち状況が読めず困惑していると、ロウエル元公爵が説明を続けてくれた。

「記録書記官が同行していると聞いてな、クローディア殿の専任の者に依頼して、記録を取ってもらったのだ。船に乗っている間に記録を作れば、私も管理する方も手間が少ないからな」

 あ、もしかしてジーニアスに他の任務を与えたことに対する報告??

 ロウエル元公爵は私のことをジーニアスの上官認定しているのだろうか? 実際にはその辺りは全てブラッドが管理しているので、私よりもブラッドに言った方がいいと思うが……。

「ご報告感謝いたします」

 話は見えないが、報告をしてくれたことに感謝をすると、ロウエル元公爵は口角を上げながら言った。

「ああ、すでに理解されているのか、話が早い。では奥の部屋へ」

 ロウエル元公爵はずんずんと奥へ進んで行く。

 え? え? 私、話、理解してないよ!?

 困ってジーニアスを見ると、ジーニアスが小声で説明してくれた。

「実は、こちらのお部屋の宝物は、ハイマ王家への献品なのですが、奥のお部屋にはクローディア様個人への献品の数々が保管されています」

 は?

 私への献品??

「それって、私への贈り物ってこと?」
「そうです」

 私が戸惑っていると、奥の部屋から「クローディア殿、こちらへ」とロウエル元公爵の声が聞こえた。

「すぐに行きます」

 慌てて、奥の部屋に入ると、私は思わず言葉を失った。

「え……?」

 明らかに先ほどの部屋より、物が多い。
 しかも、王家への献品の品は、絵画や甲冑といった芸術品が多かったが、この部屋には宝石や、ドレスなどの品が多かった。

「この辺りは、ダラパイス国王家からだ」

 ダラパイス国王家ってことは……お祖父様!?

「そしてこの辺りは、ダラパイス国の大公家」

 ひぇ~~高そうな宝石~~~!! サフィール……こんなにたくさん……

「そしてここはベルン国王家からだ。『突然のことなのでこのような物で申し訳ない』と使者が言っていた」

 いやいや、どうしてこんな高そうな布地があるの??
 アンドリュー殿下……絶対用意してた……
 ベルンも大変なのに……
 
「そしてここ全てが、スカーピリナ国王家からだ」

 待って!!
 ルーカス陛下、レオン、これはやり過ぎです。
 多すぎ、多すぎ~~~!!
 夜光草までくれたのにぃ~~~
 とにかく、後でレオンと話をしよう。

 私が宝物の数々に戦慄していると、ロウエル元公爵が小さな箱を指さした。

「そしてこれは……ダブラーン国の町をクローディア殿の考えた水の壁で救った時に貰ったものだ。なんでもあの辺りは砂漠が近く、時々自然発生の火災に悩まされているらしい。今後はこの方法で村を守れると、感謝されて彼らの宝をくれたのだ」

 私はロウエル元公爵を見て驚いた。

「え? 町を火事から救った? ロウエル様、それは素晴らしいですね!! でしたら、これはロウエル様がお持ちになるべきではありませんか?」

 どう考えても、町の人を助けたロウエル元公爵の功績だろう。
 私が貰うのは完全にお門違いだ。
 ロウエル元公爵は平然としながら言った。

「私の功績ではない。あなたがいなければ村は救われなかった。あなたが必要ないというなら、王家に回す。とにかく中身を見てくれ」

 私が必要ないなら王家に回すって……。
 そんなことってある??

「クローディア様、まずは中身を確認してはいかがですか?」

 ラウルに言われて私は頷いた。

「そ、そうね……」

 ジーニアスが箱を開けやすいように用意してくれた。

「さぁ、クローディア様どうぞ」
「え、ええ」

 私は緊張しながら箱を開けた。

「これは……何かしら?」

 箱の中には綿のような物に守られた乾燥した少し白っぽい木の枝が入っていた。

 え? これって、木の枝……だよね?

 貴重な物なようだが、私はあまり植物に詳しくないため、これが何か全くわからない。
 真っ白い木の枝……白樺とか??
 でも白樺の枝って意外と白くないよね? 
 首を傾けていると、アドラーが息を呑んだ後に呟いた。

「これは……もしかして!!」

 アドラーはこの中身が何かを知っていたようで、かなり驚いていた。
 
「ジーニアス、これは何?」

 ジーニアスに尋ねると、ジーニアスが私の顔を真剣に見ながら言った。

「これは……恐らく――石花木です」

 石花木……どこかで……ああ!!

「ダラパイス国の噴水の!?」

 私が声を上げると、ジーニアスが頷いた。
 待って、待って……確か『石花木』ってダブラーン国の王家でさえよくわかってないって言ってたよね?
 それをこんなにたくさん!?

 動機が激しい。
 困惑と緊張で頭の中が混乱していた。


 私はゆっくりと箱のフタを閉めると、大きく息を吐いてから言った。

「ブラッドに報告しましょう」

 するとアドラーがすぐに「ブラッド様にご報告いたします」と言って部屋を出た。
 私をずっと見ていたのか、ロウエル元公爵と目が合うと、彼は上機嫌に言った。

「ふっ、どうやら受け取ってもらえるようだな」

 私は深く頷いた。

「はい。有難く頂きます」

 現在、私たちはダラパイス国と秘密裏に噴水に描かれていた植物を使うと何が出来るのかというのを調査していた。だから噴水に描かれていた植物である『石花木』をハイマ王家に献上されるのはかなり困る。
 私は真剣な顔でロウエル元公爵を見つめながら尋ねた。

「本当に陛下にお渡ししなくても良いのですか? これは大変貴重な物です。それを私に渡して……本当に後悔しませんか?」

 ロウエル元公爵は口角を上げながら言った。

「いくら良い物であろうとも誰に何を渡すのか、それで全てが決まる。木こりに良く切れるオノを渡せば、オノは最高の働きをしてくれるだろう。だが木こりに素晴らしい小麦を渡してもパンにはならず朽ちていくだけ。あなたにこれを渡すのが一番有益だと思っただけだ」

 ロウエル元公爵は、エルガルド陛下ではなく、私にこの貴重な物を託してくれた。
 私はその信頼が心から嬉しいと思えた。

「ありがとうございます、ロウエル様」

 私は心からお礼を伝えた。

「それはいつか……ダブラーン国の民に伝えてやってほしい」

 ロウエル元公爵は、これまで見たこともないほど穏やかに微笑んだのだった。
 私は「はい」と答えたのだった。







――――――――――――――――







次回更新は9月7日(土)です☆






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