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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて
45 大物を
しおりを挟むみんなで賑やかなお茶の時間が終わって、私はアドラーとリリアと再び甲板に出た。
「眩しい……」
扉を開けると陽の光が目に飛び込んで来た。
「クローディア。どうした?」
呼ばれて視線を向けると、逆光で一瞬誰なのか見えなかったが声でわかった。低くて凛とした低音は波の音や海鳥の鳴く船の上でもよく響く。
私は口角を上げながら尋ねた。
「レオンこそ、何しているの?」
ようやく目が慣れてきてレオンの顔が見えた。レオンが少し塀が低くなっている甲板の淵に座っていた。どうやらレオンが座っている場所は柵の向こう側で船側の壁が少し低くなっていてあまり入らない方がいい場所のようだ。
「何って……見ればわかるだろ? 釣りだよ。今は燃料補給のために停泊中だからな……」
この船は大きいのでなかなか寄港できる場所も少ない。だから燃料の補充は水上で行うこともあるというのを聞いた。
「へぇ~~釣りか……」
私は柵の前から呟いた。するとレオンがニヤリと笑った。
「やってみるか?」
私はアドラーとリリアを見ると、二人は「あまり端に近づかないで下さいね」と言ってくれた。するとレオンが歩いて来て、長い足で難なく柵を飛び越えると、片手で私を抱き上げて腕に座らせるように持ち上げた。そして私を見上げて優雅に微笑んだ。
「では、どうぞ……美しい人……」
「ふふ、ありがとう」
レオンは私を抱いたまま柵を超えると、自分の座っていた木箱に私を座らせてくれた。そして自分は近くあった木箱を寄せてそれに座った。
「ほら、やってみろ」
「うん」
私はレオンから釣り竿を貰った。そしてレオンはアドラーやリリアを見ながら言った。
「お前らもやるか? 夕食が豪華になるかもしれないぞ?」
するとアドラーとリリアも木箱を持って近くに座ると、レオンから釣り竿を受け取った。
「夕食、豪華にして見せます!!」
意外にもリリアはかなりやる気だ。
「では、少しだけ」
アドラーも釣り竿を持った。二人とも慣れた手つきでエサを取り付けると竿を振ってを水の中に投げ入れた。
海鳥と波の音、そして多くで燃料を入れているであろう船員たちの声が聞こえた。私は竿を持ったままレオンに尋ねた。
「レオンはよくここにいるの?」
レオンは「ああ。こう見えて夕食にも貢献しているんだぞ?」と言って笑った。そして再び静かな時間が流れた。
「来ないわね……」
そう呟いた時。
「あ!! 来ました!!」
リリアが要領よく、竿を振って糸を引き上げた。
「これは大きいな」
アドラーが急いで網を手にするとリリアの釣った魚を引き上げた。
「こっちに入れろ!!」
レオンが床のフタを開けるとそこには水槽のようになっていてた。ちなみにまだ魚は一匹もいない。リリアが釣った魚が今日最初のようだ。
「リリア、凄いわ!!」
リリアは針を外して魚を入れると「運がよかっただけです」と答えた。そして、そのうちアドラーが声を上げた。
「私のも来ました!!」
「お? デカいな」
今度はレオンが網を持ってアドラーをアシストした。アドラーの魚もリリアの釣った魚に負けないほど大きい。
「あ、また来ました!!」
リリアが声を上げた。再びの声にまたしてもレオンが網を持ってアシストした。
その後もリリアとアドラーというルラック兄妹の竿には次々に魚がやってきた。
◇
アドラーとリリアが魚を釣り上げていると、ラウルがやって来た。
「クローディア様の声が聞こえると思ったら、釣をされていたのですね」
私は釣り竿を持ちながら答えた。
「そうなの」
するとレオンがラウルに声を上げた。
「丁度いい。副団長、そこの網を持て」
「え? はい!」
そしてラウルは、網を持つとアドラーの釣り上げた魚を網に入れるためにアドラーの側に膝をついた。ラウルにアドラーを任せたレオンはリリアの隣で網を構えた。
レオンはその後リリアの釣り上げた魚を網に入れた。
「凄い!! これはこの辺りじゃかなり貴重な魚だ。旨いぞ!!」
するとラウルが声を上げた。
「こっちもかなり大きいな!!」
本当にアドラーとリリアは凄すぎる。開始数分で次々に釣り上げていた。ラウルが魚を水槽に入れると、同じく水槽に魚を入れたレオンが言った。
「副団長もやるか?」
するとラウルは困った顔をして「もうすぐ見張り担当なので、あまり長居もできませんので私は網を持って補佐をします」と答えた。
それから4人で釣りをしていると、次々にアドラーとリリアの釣り竿に魚がかかった。その度にラウルが網に魚を入れて補佐をしていた。
「全然来ないな……」
レオンがぼんやりと水辺を見ながら呟いた。
「そうね……でも数センチ離れたところでは釣れているから魚がいないわけではないよね……」
こうしている間にもアドラーの釣り竿に魚がかかっている。するとレオンがじっと私を見ながら言った。
「魚に不安が伝わるんじゃねぇか?」
「不安……」
私はレオンから視線を逸らして下を向いた。不安はたくさんある。するとレオンが私を見て子供を諭すように優し気な顔で言った。
「なぁ、クローディア。肩の力を抜け」
「え?」
突然どうしてそんな話になったのかわからなくて、思わずレオンを見ると彼は片方の眉を上げながら言った。
「魚釣りってのはそんな顔でするもんじゃねぇぞ?」
私は水辺を見たが波があり自分の顔が見えなかったのでレオンに尋ねた。
「私――どんな顔してるの?」
レオンは眉を下げながら「困った顔だよ」と答えた。
そして木箱を私の横にピッタリとくっつけると自分の釣り竿を船の上にあげて、私の頭をレオンの胸に抱き寄せた。
「クローディア、その不安……俺にも分けろ。分割するぞ、お前の持ってる不安」
するとリリアが真剣な顔で言った。
「私にも分けて下さい。クローディア様の不安、私も一緒に持ちます!!」
そしてラウルも私の近くで膝を付き真剣な顔で言った。
「クローディア様、私も持ちます。ですが……クローディア様が不安を抱えているのは、前に進んでいるからです。誰も通ったことのない道を進もうとしているからです。私もあなたの隣で、あなたが不安を抱えながら歩むその道を共に歩きます!!」
ラウルの言葉にアドラーが先ほどと同じように柔らかな表情で言った。
「もちろん私も隣にいますよ。大丈夫。この船の航跡のように……あなたの通った後には、道が出来きます」
ああ、そうか……
私、自分で思っているほど器用な人間ではないのかもしれない。全てを同時に考えていたから不安に押しつぶされそうになってつらかったのかもしれない。
私は思わず笑ってしまった。
「ふふふ、ありがとう……みんな」
私はレオンに頭を抱き寄せられ、揺れる水面を見つめながら言った。
「この道はどんな未来に繋がっているのかな? ちゃんと正解の道を歩いているのかな?」
不安を口にするとレオンが私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「っちょっとレオン。髪、髪がぐちゃぐちゃになるって!!」
「逆だよ、逆」
「逆?」
「クローディアが『これだって決めて』歩いた道が正解になるんだよ。だから望む未来を描いてただひたすら歩けばいいだろう。安心しろ。隣を歩きたいというヤツはたくさんいるよ。俺のようにな」
私は至近距離でレオンの瞳を見つめた。
「……歩いた道が……正解?」
その時だ。
私の釣り竿が大きくしなった。
「あ!! 来た!! 重っ!!」
レオンが私と一緒に釣り竿を支えてくれた。
「こりゃあ、デカいな!! 呼吸を合わせるぞ!!」
そしてアドラーとラウルも網を持って隣に来た。
「どちらに来ても大丈夫です!!」
そしてリリアが水槽のフタを開けてくれた。
「いつでもどうぞ!!」
レオンは私の手を取りながら言った。
「焦るなよ、クローディア。もう大物がかかってる。動きを見てゆっくり確実に引き上げるぞ」
「ええ」
私はレオンに抱きかかえられるように一緒に釣り竿を持つと魚の動きと合わせてゆっくりと引き上げた。
「今だ。引き上げるぞ! 双翼どっちに行くかわからねぇぞ!」
「うん!!」
「はい」
「問題ありません」
レオンと一緒に力を入れて引き上げたところをアドラーとラウルが網で支えてくれた。そしてアドラーの網に半分入ったが、まだ暴れていたのでラウルも同時に網で押さえて4人で引き上げた。
そして打上げられた魚をリリアが逃げないように水槽に入れた。
「クローディア様、とんでもない大物です!!」
魚は私くらいの大きさだった。レオンは大きな声で笑った。
「あはは、とんでもないな」
私もおかしくなっていつの間にか笑っていた。
「はは、本当ね……凄い」
私はみんなを見ながら言った。
「ありがとう……みんな」
みんなは笑って「お安い御用です」と言ってくれた。
こうして私はみんなのおかげでとんでもない大物を釣り上げることに成功したのだった。
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