ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

文字の大きさ
229 / 308
第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて

45 大物を

しおりを挟む



 みんなで賑やかなお茶の時間が終わって、私はアドラーとリリアと再び甲板に出た。

「眩しい……」

 扉を開けると陽の光が目に飛び込んで来た。
 
「クローディア。どうした?」

 呼ばれて視線を向けると、逆光で一瞬誰なのか見えなかったが声でわかった。低くて凛とした低音は波の音や海鳥の鳴く船の上でもよく響く。
 私は口角を上げながら尋ねた。

「レオンこそ、何しているの?」

 ようやく目が慣れてきてレオンの顔が見えた。レオンが少し塀が低くなっている甲板の淵に座っていた。どうやらレオンが座っている場所は柵の向こう側で船側の壁が少し低くなっていてあまり入らない方がいい場所のようだ。

「何って……見ればわかるだろ? 釣りだよ。今は燃料補給のために停泊中だからな……」

 この船は大きいのでなかなか寄港できる場所も少ない。だから燃料の補充は水上で行うこともあるというのを聞いた。

「へぇ~~釣りか……」

 私は柵の前から呟いた。するとレオンがニヤリと笑った。

「やってみるか?」

 私はアドラーとリリアを見ると、二人は「あまり端に近づかないで下さいね」と言ってくれた。するとレオンが歩いて来て、長い足で難なく柵を飛び越えると、片手で私を抱き上げて腕に座らせるように持ち上げた。そして私を見上げて優雅に微笑んだ。

「では、どうぞ……美しい人……」

「ふふ、ありがとう」

 レオンは私を抱いたまま柵を超えると、自分の座っていた木箱に私を座らせてくれた。そして自分は近くあった木箱を寄せてそれに座った。

「ほら、やってみろ」

「うん」

 私はレオンから釣り竿を貰った。そしてレオンはアドラーやリリアを見ながら言った。

「お前らもやるか? 夕食が豪華になるかもしれないぞ?」

 するとアドラーとリリアも木箱を持って近くに座ると、レオンから釣り竿を受け取った。

「夕食、豪華にして見せます!!」

 意外にもリリアはかなりやる気だ。

「では、少しだけ」

 アドラーも釣り竿を持った。二人とも慣れた手つきでエサを取り付けると竿を振ってを水の中に投げ入れた。
 海鳥と波の音、そして多くで燃料を入れているであろう船員たちの声が聞こえた。私は竿を持ったままレオンに尋ねた。

「レオンはよくここにいるの?」

 レオンは「ああ。こう見えて夕食にも貢献しているんだぞ?」と言って笑った。そして再び静かな時間が流れた。

「来ないわね……」

 そう呟いた時。

「あ!! 来ました!!」

 リリアが要領よく、竿を振って糸を引き上げた。

「これは大きいな」

 アドラーが急いで網を手にするとリリアの釣った魚を引き上げた。

「こっちに入れろ!!」

 レオンが床のフタを開けるとそこには水槽のようになっていてた。ちなみにまだ魚は一匹もいない。リリアが釣った魚が今日最初のようだ。

「リリア、凄いわ!!」

 リリアは針を外して魚を入れると「運がよかっただけです」と答えた。そして、そのうちアドラーが声を上げた。

「私のも来ました!!」

「お? デカいな」

 今度はレオンが網を持ってアドラーをアシストした。アドラーの魚もリリアの釣った魚に負けないほど大きい。

「あ、また来ました!!」

 リリアが声を上げた。再びの声にまたしてもレオンが網を持ってアシストした。
 その後もリリアとアドラーというルラック兄妹の竿には次々に魚がやってきた。



 アドラーとリリアが魚を釣り上げていると、ラウルがやって来た。

「クローディア様の声が聞こえると思ったら、釣をされていたのですね」

 私は釣り竿を持ちながら答えた。

「そうなの」

 するとレオンがラウルに声を上げた。

「丁度いい。副団長、そこの網を持て」

「え? はい!」

 そしてラウルは、網を持つとアドラーの釣り上げた魚を網に入れるためにアドラーの側に膝をついた。ラウルにアドラーを任せたレオンはリリアの隣で網を構えた。
 レオンはその後リリアの釣り上げた魚を網に入れた。

「凄い!! これはこの辺りじゃかなり貴重な魚だ。旨いぞ!!」

 するとラウルが声を上げた。

「こっちもかなり大きいな!!」

 本当にアドラーとリリアは凄すぎる。開始数分で次々に釣り上げていた。ラウルが魚を水槽に入れると、同じく水槽に魚を入れたレオンが言った。

「副団長もやるか?」

 するとラウルは困った顔をして「もうすぐ見張り担当なので、あまり長居もできませんので私は網を持って補佐をします」と答えた。
 それから4人で釣りをしていると、次々にアドラーとリリアの釣り竿に魚がかかった。その度にラウルが網に魚を入れて補佐をしていた。

「全然来ないな……」

 レオンがぼんやりと水辺を見ながら呟いた。

「そうね……でも数センチ離れたところでは釣れているから魚がいないわけではないよね……」

 こうしている間にもアドラーの釣り竿に魚がかかっている。するとレオンがじっと私を見ながら言った。

「魚に不安が伝わるんじゃねぇか?」

「不安……」

 私はレオンから視線を逸らして下を向いた。不安はたくさんある。するとレオンが私を見て子供を諭すように優し気な顔で言った。

「なぁ、クローディア。肩の力を抜け」

「え?」

 突然どうしてそんな話になったのかわからなくて、思わずレオンを見ると彼は片方の眉を上げながら言った。

「魚釣りってのはそんな顔でするもんじゃねぇぞ?」

 私は水辺を見たが波があり自分の顔が見えなかったのでレオンに尋ねた。

「私――どんな顔してるの?」

 レオンは眉を下げながら「困った顔だよ」と答えた。
 そして木箱を私の横にピッタリとくっつけると自分の釣り竿を船の上にあげて、私の頭をレオンの胸に抱き寄せた。

「クローディア、その不安……俺にも分けろ。分割するぞ、お前の持ってる不安」
 
 するとリリアが真剣な顔で言った。

「私にも分けて下さい。クローディア様の不安、私も一緒に持ちます!!」

 そしてラウルも私の近くで膝を付き真剣な顔で言った。

「クローディア様、私も持ちます。ですが……クローディア様が不安を抱えているのは、前に進んでいるからです。誰も通ったことのない道を進もうとしているからです。私もあなたの隣で、あなたが不安を抱えながら歩むその道を共に歩きます!!」

 ラウルの言葉にアドラーが先ほどと同じように柔らかな表情で言った。

「もちろん私も隣にいますよ。大丈夫。この船の航跡のように……あなたの通った後には、道が出来きます」
 
 ああ、そうか……
 私、自分で思っているほど器用な人間ではないのかもしれない。全てを同時に考えていたから不安に押しつぶされそうになってつらかったのかもしれない。


 私は思わず笑ってしまった。

「ふふふ、ありがとう……みんな」

 私はレオンに頭を抱き寄せられ、揺れる水面を見つめながら言った。

「この道はどんな未来に繋がっているのかな? ちゃんと正解の道を歩いているのかな?」

 不安を口にするとレオンが私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

「っちょっとレオン。髪、髪がぐちゃぐちゃになるって!!」

「逆だよ、逆」

「逆?」

「クローディアが『これだって決めて』歩いた道が正解になるんだよ。だから望む未来を描いてただひたすら歩けばいいだろう。安心しろ。隣を歩きたいというヤツはたくさんいるよ。俺のようにな」

 私は至近距離でレオンの瞳を見つめた。

「……歩いた道が……正解?」

 その時だ。
 私の釣り竿が大きくしなった。

「あ!! 来た!! 重っ!!」
 
 レオンが私と一緒に釣り竿を支えてくれた。

「こりゃあ、デカいな!! 呼吸を合わせるぞ!!」

 そしてアドラーとラウルも網を持って隣に来た。

「どちらに来ても大丈夫です!!」

 そしてリリアが水槽のフタを開けてくれた。

「いつでもどうぞ!!」

 レオンは私の手を取りながら言った。

「焦るなよ、クローディア。もう大物がかかってる。動きを見てゆっくり確実に引き上げるぞ」

「ええ」

 私はレオンに抱きかかえられるように一緒に釣り竿を持つと魚の動きと合わせてゆっくりと引き上げた。

「今だ。引き上げるぞ! 双翼どっちに行くかわからねぇぞ!」

「うん!!」

「はい」

「問題ありません」

 レオンと一緒に力を入れて引き上げたところをアドラーとラウルが網で支えてくれた。そしてアドラーの網に半分入ったが、まだ暴れていたのでラウルも同時に網で押さえて4人で引き上げた。
 そして打上げられた魚をリリアが逃げないように水槽に入れた。

「クローディア様、とんでもない大物です!!」

 魚は私くらいの大きさだった。レオンは大きな声で笑った。

「あはは、とんでもないな」

 私もおかしくなっていつの間にか笑っていた。

「はは、本当ね……凄い」

 私はみんなを見ながら言った。

「ありがとう……みんな」

 みんなは笑って「お安い御用です」と言ってくれた。
 こうして私はみんなのおかげでとんでもない大物を釣り上げることに成功したのだった。




しおりを挟む
感想 955

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく…… (第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。