ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

文字の大きさ
256 / 308
第六章 最強チーム、強大国へ

5 客人

しおりを挟む




 しばらくして小舟に乗った人物の顔が見えるようになった頃、ブラッドが小さな声で呟いた。

「ランヴェルト……」
 
 ブラッドの言葉を聞いてレオンが声を上げた。

「ランヴェルト!? あいつ……一人で来たのか!? 俺がこの船に乗っているって知っているだろうに……いい度胸だな」

 先日レオンは、戦場でランヴェルトと会っている。
 レオンがそう言うと、船の尖端にロープが投げられ、それを使って小舟に乗った男がこの船に乗り移って来た。
 そして船首の棒の上に降り立った。

 男は不敵な笑みを浮かべ、ブラッドとレオンを見ながら言った。 

「……久しぶりと、あいさつをした方がいいか? ハイマの公爵子息殿と、元スカーピリナの王よ」

 するとレオンが鼻で笑いながら大剣を引き抜き、ランヴェルトに向け鋭い眼光で言った。

「冗談はよせ、そんなあいさつを交わす仲ではないだろう? ……用件は?」

 ランヴェルトは片眉を上げながら言った。

「忌々しい水賊連中が活気づいていてな……そちらの判断の通り、現在陸上での移動は危険極まりない」

 ブラッドとレオンはその言葉に違和感を覚えた。
 一瞬二人は顔を見合わせたが、すぐにランヴェルトの方を見た。
 そしてブラッドがランヴェルトに問いかけた。

「……ではどうするつもりだ?」

 ランヴェルトは無表情に言った。

「ハイマの王太子妃は必ず無傷で案内する。彼女を守るお前らもな。ハイマの腹黒だけではなく、スカーピリナの猛獣までいるんだ。本当は教えたくはないが、背に腹は代えられない。この船のままイドレに入るルートを案内しよう」

 ブラッドが無表情に口を開いた。

「船のままだと? この船でイドレ国に入るというのか?」

 ランヴェルトはブラッドを見据えながら言った。

「ああ。そういうことだ。恐らく彼女を安全にイドレに連れて行くにはそれしか選べない。……ああ、そうだ。一つ重要な情報をくれてやる」

 ブラッドが眉を寄せるとランヴェルトが口を開いた。

「……ダラパイス国大公子息率いる水賊調査船団が……撃破された」

 ブラッドが目を大きく開け、レオンが口を開いた。

「何!? それで、ダラパイス国の大公子息の安否は!?」

 ランヴェルトが一度空を見上げながら言った。

「そこまでは確認できていない。随分と――乱戦だったようだからな……そのせいで水賊が活気付いている」

 レオンとブラッドは視線を合わせると、ランヴェルトを見た。そしてブラッドが口を開いた。

「案内を頼む」

 ランヴェルトが口角を上げながら答えた。

「承知した。私はこちらの船に乗る。これからのルートは少々舵取りに癖があるからな、何、たった数日で着く。ハイマの王太子妃に手を出したりはしない」

 ブラッドがランヴェルトを見ながら言った。

「わかった……部屋を用意しよう」

 するとレオンが溜息を付きながら言った。

「お前と一緒に旅をすることになるとはな……」

 ランヴェルトが口角を上げながら言った。

「納得いかないのか? 随分と器が小さな男だな。元王よ」

 レオンが自嘲気味に笑いながら言った。

「元々俺の器なんてひび割れだらけのガラクタだ。それを何度も補強して、今、ここに立ってんだよ」

 ブラッドが遠くを見ながら呟いた。

「生きていればひび割れくらい入る。それを補強して生きられる人間が強い人間だ。だが……面白いな……ハイマでは器は強いか弱いかという言い方をするが……イドレでは大きいとか小さいという言い方をするのだな」

 そしてランヴェルトはブラッドを見ながら言った。

「ハイマの王太子妃と話がしたい」

 ランヴェルトの言葉にブラッドが鋭い視線を向けながら言った。

「それは……彼女が決めることだ」

 ランヴェルトが腕を組んで息を吐いた。

「じゃあ、俺が『謁見を所望している』と伝えてくれ」

 ブラッドは、無表情にランヴェルトから視線を離すとレオンを見た。ブラッドの視線を受けて、レオンがレイヴィンを見た。

「見張り頼む」

 レイヴィンは無表情で答えた。

「御意」

 ランヴェルトが胸元から何かを取り出して上空に放った。すると空に光が放たれた。ブラッドがレオンに向かって言った。

「関係各所に通達を……私は彼女とフィルガルドに伝える」

「ああ」

 こうして、ブラッドは甲板を去った。
 そして、レオンが皆に向かって声を上げた。

「聞いていたな。イドレ船に着いて行く。どうやら、想像以上に水賊は厄介らしい。水上戦にも……備えろ!!」

 船から「おーー!!」と言う大きな声が響いたのだった。レオンは、船に戻って来ていたガルドを見ながら言った。

「死神、甲板は任せた。俺はこいつと船長と話をして来る」

「はい」

 ガルドが返事をすると、ランヴェルトがガルドを見た。

「探している男は見つかったか?」

 ガルドが困ったように言った。

「いえ、ご存知ですか?」

 ランヴェルトが無表情に言った。

「さぁな……」

 そしてランヴェルトはレオンとレイヴィンと共に船長室に向かったのだった。

しおりを挟む
感想 955

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。