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第六章 最強チーム、強大国へ
5 客人
しおりを挟むしばらくして小舟に乗った人物の顔が見えるようになった頃、ブラッドが小さな声で呟いた。
「ランヴェルト……」
ブラッドの言葉を聞いてレオンが声を上げた。
「ランヴェルト!? あいつ……一人で来たのか!? 俺がこの船に乗っているって知っているだろうに……いい度胸だな」
先日レオンは、戦場でランヴェルトと会っている。
レオンがそう言うと、船の尖端にロープが投げられ、それを使って小舟に乗った男がこの船に乗り移って来た。
そして船首の棒の上に降り立った。
男は不敵な笑みを浮かべ、ブラッドとレオンを見ながら言った。
「……久しぶりと、あいさつをした方がいいか? ハイマの公爵子息殿と、元スカーピリナの王よ」
するとレオンが鼻で笑いながら大剣を引き抜き、ランヴェルトに向け鋭い眼光で言った。
「冗談はよせ、そんなあいさつを交わす仲ではないだろう? ……用件は?」
ランヴェルトは片眉を上げながら言った。
「忌々しい水賊連中が活気づいていてな……そちらの判断の通り、現在陸上での移動は危険極まりない」
ブラッドとレオンはその言葉に違和感を覚えた。
一瞬二人は顔を見合わせたが、すぐにランヴェルトの方を見た。
そしてブラッドがランヴェルトに問いかけた。
「……ではどうするつもりだ?」
ランヴェルトは無表情に言った。
「ハイマの王太子妃は必ず無傷で案内する。彼女を守るお前らもな。ハイマの腹黒だけではなく、スカーピリナの猛獣までいるんだ。本当は教えたくはないが、背に腹は代えられない。この船のままイドレに入るルートを案内しよう」
ブラッドが無表情に口を開いた。
「船のままだと? この船でイドレ国に入るというのか?」
ランヴェルトはブラッドを見据えながら言った。
「ああ。そういうことだ。恐らく彼女を安全にイドレに連れて行くにはそれしか選べない。……ああ、そうだ。一つ重要な情報をくれてやる」
ブラッドが眉を寄せるとランヴェルトが口を開いた。
「……ダラパイス国大公子息率いる水賊調査船団が……撃破された」
ブラッドが目を大きく開け、レオンが口を開いた。
「何!? それで、ダラパイス国の大公子息の安否は!?」
ランヴェルトが一度空を見上げながら言った。
「そこまでは確認できていない。随分と――乱戦だったようだからな……そのせいで水賊が活気付いている」
レオンとブラッドは視線を合わせると、ランヴェルトを見た。そしてブラッドが口を開いた。
「案内を頼む」
ランヴェルトが口角を上げながら答えた。
「承知した。私はこちらの船に乗る。これからのルートは少々舵取りに癖があるからな、何、たった数日で着く。ハイマの王太子妃に手を出したりはしない」
ブラッドがランヴェルトを見ながら言った。
「わかった……部屋を用意しよう」
するとレオンが溜息を付きながら言った。
「お前と一緒に旅をすることになるとはな……」
ランヴェルトが口角を上げながら言った。
「納得いかないのか? 随分と器が小さな男だな。元王よ」
レオンが自嘲気味に笑いながら言った。
「元々俺の器なんてひび割れだらけのガラクタだ。それを何度も補強して、今、ここに立ってんだよ」
ブラッドが遠くを見ながら呟いた。
「生きていればひび割れくらい入る。それを補強して生きられる人間が強い人間だ。だが……面白いな……ハイマでは器は強いか弱いかという言い方をするが……イドレでは大きいとか小さいという言い方をするのだな」
そしてランヴェルトはブラッドを見ながら言った。
「ハイマの王太子妃と話がしたい」
ランヴェルトの言葉にブラッドが鋭い視線を向けながら言った。
「それは……彼女が決めることだ」
ランヴェルトが腕を組んで息を吐いた。
「じゃあ、俺が『謁見を所望している』と伝えてくれ」
ブラッドは、無表情にランヴェルトから視線を離すとレオンを見た。ブラッドの視線を受けて、レオンがレイヴィンを見た。
「見張り頼む」
レイヴィンは無表情で答えた。
「御意」
ランヴェルトが胸元から何かを取り出して上空に放った。すると空に光が放たれた。ブラッドがレオンに向かって言った。
「関係各所に通達を……私は彼女とフィルガルドに伝える」
「ああ」
こうして、ブラッドは甲板を去った。
そして、レオンが皆に向かって声を上げた。
「聞いていたな。イドレ船に着いて行く。どうやら、想像以上に水賊は厄介らしい。水上戦にも……備えろ!!」
船から「おーー!!」と言う大きな声が響いたのだった。レオンは、船に戻って来ていたガルドを見ながら言った。
「死神、甲板は任せた。俺はこいつと船長と話をして来る」
「はい」
ガルドが返事をすると、ランヴェルトがガルドを見た。
「探している男は見つかったか?」
ガルドが困ったように言った。
「いえ、ご存知ですか?」
ランヴェルトが無表情に言った。
「さぁな……」
そしてランヴェルトはレオンとレイヴィンと共に船長室に向かったのだった。
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