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第六章 最強チーム、強大国へ
39 二人きりの馬車
しおりを挟む私はイドレ国の北側の景色の美しい場所に来ていた。馬車にはフィルガルドと二人きりだった。
「クローディアと二人で馬車に乗るのは初めてですね……」
結婚前は当然、フィルガルドが移動する時は、クリスフォードが常にそばにいた。それにフィルガルドと二人で移動する機会なんてほとんどなかった。
結婚式の時は、教会から城まで馬車に乗ったがお付きの人もいた。
そう言えば、転生してからずっと私はフィルガルドと二人になることを避けていたので二人になったことがほとんどない。
「そうですね……」
私は過去を思い出しながら答えた。
「どこで間違ってしまったのでしょうか?」
フィルガルドが切なそうに言った。
そんなフィルガルドに、私も胸が苦しくなるのをこらえて言った。
「きっと間違いとか、間違いじゃないとか、そんな風に考えている中に答えはない気がします」
「え?」
フィルガルドが私を見た。
「だって、私たちには……選択肢なんて何もなかったじゃないですか……その時、その時、目の前にあった最良を選び続けただけ……間違いも正解もないんですよ」
クローディアはただフィルガルドを助けたかった。
フィルガルドは、王としての責務を果たしたかった。二人とも感情を殺して、役目を全うすることだけを考えた。
「クローディア。あなたの未来を私に下さい。私はあなたと共に在りたいと願っています」
真剣な顔のフィルガルドに私は真っすぐに彼を見ながら言った。
「もう私は、自分の未来を誰にも渡さない。自分で決断して進む」
フィルガルドは目を大きく開けた後に破顔した。
「……わかりました。あなたの選ぶ未来に私が立てるように努力します」
私は、そんなフィルガルドに向かって口を開いた。
「フィルガルド。では私も……夫のあなたに私の考えていることを伝えることで誠意をみせる」
「え?」
「私は今、精一杯できることをして、後は未来の自分にバトンを託す。だから……フィルガルド……お願いがあるの……」
私は自分の願望をフィルガルドに伝えた。
思えばこれまで、私はこんな風にフィルガルドと真正面から自分の思いを伝えたことはなかったかもしれない。
感情ではなく、冷静に自分の願望を口にした。
本当に何も考えず、ただ私はフィルガルドに願望を伝えることが出来た。
そういえば、いつからだろう。
自分の本当の望みをためらわずに口にできるようになったのは……
それはきっと、厳しくて、真っすぐで、優しいあの人のおかげ……
まるで周囲の時間が止まったかのように感じる。
フィルガルドの顔が……
驚きから……ゆっくりと、考え込む表情に変わった。
そして、目を細めて私を優しく見つめ……最後に微笑んだ。
「きっとそれは……あなたにしかできない。……わかりました。……あなたの願いを……受け入れます」
フィルガルドと夫婦になって初めて、私はこんなに穏やかな気持ちになったかもしれない。
そしてフィルガルドが両手を広げた。
「今だけでいい、あなたを抱きしめたい」
私が頷くと、フィルガルドが私の隣に来て抱きしめた。
言葉は……なかった。
フィルガルドの少し早い鼓動の音と、あたたかな体温、そして彼の好む石鹸の香り、力強い手の力と、視界に移るフィルガルドの揺れる髪……
それが世界の全て。
これから世界の命運をかけた作戦が始まるというのに、私はとても穏やかな気持ちでその時を迎えることが出来たのだった。
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