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本編

6 糖度6 (甘いです)

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 正直、私には何がどうなっているのかわからなかった。

 なぜ私がここにいるのかも。

 なぜ主人公とブルーノ様が2章で仲良くしているのかも。

 なぜ私が、学院案内に同行しているのかも。

 私とディラン様の少し前を歩く2人は仲が良い様子で、笑いあいながら学院の施設の案内をしていた。ブルーノ様が説明されるなら私はいらない気がする。
 ディラン様だって、全く主人公であるナターシャ様と話す様子はなく、私とばかりお話している。
 そもそも、どうしてブルーノ様が2章で登場して主人公にこんなに接近しているのだろうか?

 私が戸惑っていると、ディラン様がそっと私の手を繋いできた。

「何考えてるの?」

(えええ~~~~!! 手? 手を繋がれた?!)

私は動揺しながら答えた。

「いえ、私はなんのお役にも立っていないので、ご一緒してもいいのかな、と思いまして」


私はこの際正直に言ってみることにした。

「ああ、実はね。父上から、慣れないナターシャの世話をするように命令されたんだ。
 今回彼女がみんなと同じ時期に入学できなかったのは、戦のせいだしね。
 父上は叔父上に頭が上がらないんだ。
 そんなわけで、僕は父上に彼女に学院を案内するように頼まれたんだけど、男性だけで案内するより女性が一緒にいた方が後々のためにもいいかな、とも思ってね」

 確かに、婚約者でもない未婚の男女が2人で歩いているのは、高位貴族にとってはよくない噂になることもある。
 私はそんなことは全く気づけなかったが、さすがディラン様だ!! 
 ディラン様はお優しいだけではなく、気配りもできる。なんて素敵な男性なのだろうか!!
 こんなパーフェクトな男性がこの世にいるのだろうか? いる!! まさに目の前に!! 
 これは奇跡とも呼べることなのかもしれない。私はディラン様に出会えたことで来世の運まで使ってしまったのかもしれない。

「なるほど!! 確かにそうですわね。ディラン様は思慮深い方ですね」

 私は深く頷くと、ゲームでの主人公の父親のことを思い出した。
 確かゲームは辺境伯は主人公溺愛の甘々な父親だった。
 娘の入学が遅れて、あの父親はさぞ心配したことだろう。

(大変だっただろうな……陛下) 

 私はゲームの中の主人公への溺愛っぷりを思い出して目を細めてしまった。
 そんな私の様子を見てディラン様が困った様子で話を続けた。

「そんなことはないけど、さらに今回はちょっと困ったことになっててね。父上から、今回だけでもナターシャをダンスパーティーでエスコートもするようにって言われたんだ」

「え?」

 私はまたしてもゲームの裏設定を知ってしまった。

(ゲームでディラン様がナターシャ様をエスコートしたのって、国王陛下の命令だったんだ?!
 てっきりディラン様が、可愛い幼馴染に寂しい思いをさせないために、『慣れてないから仕方ない』って口実を作ってエスコートしたのかと思ってた!!)

 ダンスパーティー当日に私をエスコートしないのは国王陛下のご命令だと聞いて、少しだけほっとした。

(国王陛下の命令ならしょうがないか……つらいけど)

 実はゲームではハプニングキスイベントのタイミングは全部で3回ある。
 一番早くにくっつくのが2章のダンスパーティーの日。
 そして、3章の学院フェスティバルの日。同じく3章のハイキングの日。ちなみに個人的には3章のハイキングでのキスが一番好きなシチュエーションだった。

 私がゲームでのキスを思い出していると、ディラン様が真剣な顔で言った。

「でも心配しないで。ちゃんと断ったから」

ーー……は? 主人公とのキスイベントを断った??

「ええ!! 断ってもよろしいのですか? 陛下はなんとおっしゃられたのですか?」

 もしかして、そんな風に言って安心させて、私が嫉妬に駆られてナターシャ様に悪さをしないようにギリギリまで内緒にするの??

「信頼できる代理人を見つけるようにって。だから、ブルーノにお願いしたんだ。ブルーノならまだ婚約者が決まってないし、ナターシャのことも知っているし、適任だろ?」

 ブルーノ様は確かに攻略対象だし、騎士団長の御子息で昔からディラン様の信頼も厚い。
  
 私は深呼吸して話の内容をまとめてゆっくりと口を開いた。

「……では、ディラン様はダンスパーティーでは私をエスコートして下さるんですか?」

 するとディラン様が私と繋いでいた手の指を絡めてきた。いわゆる恋人繋ぎってやつだ。

(これって、憧れの恋人繋ぎ~~~?? 
 しかも初めてがディラン様なんて、私の運まさか空っぽになってないよね?!
 あ~~~もう、でも幸せだから、空っぽになってもいいや~~)

 私が憧れの恋人繋ぎを最愛のディラン様と出来たことに浮かれていると、ディラン様が美しく微笑んでくれた。

「もちろんだよ。大切な婚約者のエスコートの変わりなんてそれこそ見つけられないだろ?」

「嬉しいです!!」

 私は思わず、ディラン様と繋いだ手に力を入れて、笑顔になっていた。

「(ああ、もう可愛いな~)」

 ディラン様が立ち止まると、手を繋いでない方の手を私の頬に優しく当てた。私は無意識にディラン様の手に頬をスリスリとすり寄せてしまった。

「ディラン様の手大きくて安心します。ずっとこうしていたいです」

「キャメロン……そんなこと言うと、僕の部屋に連れて帰っちゃうよ?」

「ふふふ。ディラン様と手を繋いで寝れたら素敵な夢を見られそうですね(そんな日は来ないとは思うますが……)」

「~~~~~!! (ダメだ……連れて帰りたい……もう我慢できないかも)」

 するとディラン様が私の顔をじっと見つめたと思うと段々とディラン様の顔が近づいてきた。

(あれ? 近くない? 近くない? どうしたらいいの? とにかくディラン様が美し過ぎて拝みたいけど、眩しい~~!! 
 はっ!! もしかして、太陽に憧れてロウで翼を作って太陽に近づこうとして落ちた人ってこんな心境だったのかしら? 美しすぎて見ていたけど、眩しすぎて心臓がつらい、って感じ?!)

 私がパニックになっていると、お互いの鼻が当たりそうな位置でディラン様が呟いた。

「逃げなくていいの?」

「なぜ逃げるのですか?」

 私の言葉にディラン様が一瞬驚いた後、「参ったなぁ~」と言って頭を掻いた。

「(口を触れ合わせるだけのキスはOKってことにしよう、うん。絶対それ以上は我慢しよう!!)」

 ディラン様が何かを考えるような視線を向けた後、また顔が近づいてきた。するとその時。

「殿下~~。特別棟からでいいですか?」

 私たちの前を歩いていたブルーノ様の声が聞こえた。

「ああ。頼む」

 チラリとブルーノ様とナターシャ様の視線が私たちの繋いだ手に注がれたのに気づいて私は頬が赤くなるのを感じた。

(そうだった!! ここ部屋じゃなかった!! 人がいない特別棟へ廊下だからって!!)

私は反省したが、ディラン様と繋いだ手は離さなかった。



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