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本編
5 糖度2 (ほとんど甘さはありません)
しおりを挟むそれから数日後、とうとう主人公が学院に入学してきた。
名前は、やはりナターシャだった。
主人公はさすが乙女ゲームの主人公だけあって、髪の艶、肌の美しさ、美貌。どれをとっても素晴らしかった。
(うっわ~~~。ディラン様のような超絶美形を見慣れて、他の攻略対象の美形を見てもなんとも思わなかったのに!!
主人公はやっぱり別格だわ~~~。綺麗~~。同じ人間とは思えないわ~。)
私は思わず、うっとりと主人公の美しさに魅入っていた。
ゲームでは主人公の入学が遅れたのは国境付近で争いがあったからだった。
たしか辺境伯である主人公ナターシャのお父様の活躍によって、この国の平和は保たれているのだ。
だからゲームでは学生筆頭であるディラン様が慣れていない主人公を心配して、学院でのお世話をしたり、ダンスパーティーで主人公をエスコートすることになったのだ。
だがゲームのキャメロンは、それをわかっていながら『あなたのダンスが一定の水準に達していない場合は、王子殿下の評判に関わるため同行を許可出来ませんわ』と言って主人公にダンス勝負を挑むのだ。
今日の授業が終わるとディラン様に声をかけられた。
「キャメロン、ちょっと一緒に来てくれる?」
「? ……はい」
私が返事をすると、ディラン様は窓側の一番前の席から廊下側の一番後ろの席に移動した。ここは主人公ナターシャの席だった。
近くで見ると主人公はますます美しい。
(まつ毛長い!! 目が大きい!! 口小さい!! 鼻が高い~~~)
私が興奮気味に主人公を観察していると、ディラン様が主人公に声をかけた。
「久しぶりだね、ナターシャ。叔父上は息災かな?」
「これは、ディラン様。お久しぶりですね」
(ディラン様かぁ~主人公とディラン様は幼馴染だから、そう呼ぶのよね~。いいな~人前で堂々とディラン様って呼べて……)
一応、私はディラン様との婚約を解消するまでは婚約者としての立場があるので、人前で『ディラン様』と呼ぶことはできない。うっかり呼んでしまったことはあるのだが……。
だが、主人公とディラン様が幼馴染というのは貴族であれば誰でも知っていることなので、好きに呼んでも問題ないのだ。
「ナターシャ。一応学院内では、『殿下』って呼んでくれない?」
(…………え? なんと? 今、なんと言ったのですか?)
私は思わず目を疑った。ゲーム内で主人公はいつでもディラン様と呼ぶことができた。それなのにこれはどういうことなのだろう?
私が不思議に思っていると、主人公が申し訳なさそうに言った。
「……あ、申し訳ございません。そうですよね、殿下。ご無礼をお許し下さい」
「いいよ。次から気をつけてね。ところで、学院の案内を頼まれているんだけど、一緒にどうかな?」
「ありがとうございます。この学院は大きいので助かります」
どうやらディラン様と主人公は学院案内に行くようだ。
そう言えば、ゲームでは確かにマップ上で、カーソルを合わせるとディラン様が『ここは講堂だよ。講演会や音楽祭などで使用するよ』と2章の間は選択すれば説明してくれていた。私はディラン様の説明が聞きたくて何度も説明にカーソルを合わせて声を聞いた。
私がゲームに思いを馳せていると、ディラン様が私の方を見た。
「キャメロン、君は彼女とは初めて会うよね? 彼女は叔父上の娘のナターシャだよ。昔、一時的に城で一緒に住んでいたことがあるんだ。ナターシャ、キャメロンだよ。僕の婚約者だよ」
「キャメロン様。お初にお目にかかります、ナターシャと申します」
ナターシャ様に頭を下げられ、私は困ってしまった。
「ナターシャ様、おやめ下さい。私は侯爵家の出身ですのでどうぞ気軽にお声がけ下さい。私はキャメロンと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「ふふふ。ありがとうございます」
2人が学院の案内に行くのなら見送ってから帰ろうと思っていると、ディラン様が私に笑顔を向けてきた。
「キャメロンも一緒に行かない?」
「え? ええ。ナターシャ様、よろしいでしょうか?」
(こんな展開ゲームにあった?? いや、そもそもゲームではカーソルを合わせる度に説明してくれたから、よくわからないけど……一緒に行ったのかな?)
「まぁ、嬉しいわ。私、知っている方があまりいなくって、お友達がほしいと思っていたの」
「ブルーノも、いいかい?」
「はい」
私はますます困惑してしまった。元々ゲームでは、主人公の席はディラン様の隣だったはずだ。
それなのにこんなに端と端に離れているし、さらに主人公の隣には攻略対象で3章から登場する予定の騎士団長であるトリスト伯爵子息のブルーノ様が座っていた。
(まぁ、ゲームでは3章からの登場でも同じクラスなら……まぁ、普通に会うわよね)
ブルーノ様が立ち上がると、主人公を見て礼をした。
「お久しぶりです。ナターシャ様。ますます美しくなられましたね。殿下に頼まれておりますので、責任をもってご案内致します。覚えておいででしょうか?私はトリスト伯爵子息のブルーノです」
「ふふふ。もしかしたらそうではないかと思ったのだけど、ブルーノ様ったら、昔と、とっても変わっているんですもの。お声がけ出来ずにいましたの。ありがとうございます。ブルーノ様」
ナターシャ様がブルーノ様にあいさつをした。
このゲームがすぐに主人公と攻略対象とくっつく理由の一つに、『主人公と攻略対象は全員幼馴染』という素敵な設定があった。
私のように幼馴染の親しい男性のいない女子には『羨ましいすぎる憧れのシチュエーションランキング2位《私基準の脳内ランキング》』の幼馴染との再開ラブシチュだ。ちなみに脳内ランキング1位は血のつながらない兄や弟ができるというシチュエーションだ。
(幼馴染との再開シーン。本気でいいわ~~)
私が思わず目を細めていると、愛しのディラン様が声が聞こえた。
「じゃあ、学院の案内に行こうか」
「はい」
そして私たち4人で学院の案内をすることになったのだった。
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