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雪合戦まであと23日
しおりを挟む机の上には、A4のコピー用紙1枚に小さな字でぎっしりと書かれた書類。
俺はその書類をすでに何度か読んでいる。だが、きっとまだこれからも確認のため何回も読むのだろう。
そして、その書類の横には、ルーズリーフがあり、さっき自分で読んでまとめて書いた雪合戦のコートの図が並んでいる。
(こんな感じかな……)
平塚と話をした翌日。俺は家に戻ると早速、先生からもらった雪合戦の資料を見ながら、どうするべきなのかを考えた。
(やっぱり、うちの学校の雪合戦のルールって独特だよな……)
この資料は昼間、学校で全クラスの大将に配られた。
平塚は先生から受け取ると、パラリと資料を見て、俺に全部手渡した。
『俺よりも野沢が先に確認して。俺は金曜に写真撮らせてもらえればいいから』
平塚に託されたこともあり、真剣に雪合戦の資料に目を通した。
ネットを見ると、雪合戦のルールを見つけることが出来た。だが、ルールが俺たちの学校の雪合戦と違う。
俺の通う谷寒東中のルールは、ドッジボールコートくらいの広さに、バスケットゴールくらいの穴の開いた的を10個用意する。
それを規定の場所に置いて、雪玉をぶつけて相手の的を破る。金魚すくいのポイの大きいバージョンを想像してもらったらいいかもしれない。
それぞれ、中央の線から相手側に入ることはできないし、中央線の前には腰くらいの高さの壁が置かれるので物理的に進入できない。これはテニスやバレーのネットのようなものだと思ってくれればいい。
10個の的のうち、1個は大将が持つ。
そして段ボール製の30センチ×30センチの盾を10個だけ使うことが出来る。
さらに大将は、好きに動ける。
【谷寒東中雪合戦ルール】
・コートの大きさは20メートル×10メートルを中央で仕切る形で行う。
・真ん中にそれぞれ120センチの板を置く。
・相手のコートに侵入するのは禁止
・人に雪玉をぶつけるのは禁止(ペナルティあり)
・中央から5メートルの場所に3つの的を置く
・中央から7メートルの場所に3つの的を置く
・中央から9メートルの場所に3つの的を置く
・一つは大将が持つことが出来る。ただし、150センチ以上の場所に持つ。
・それぞれの的は重ならないように配置する
・段ボール製の盾、30センチ×30センチの盾を10個使用可能
・盾に使用可能なガムテープは紙製で50センチ以内
・段ボール製の盾は段ボールを重ねてはならない。
・攻撃及び、雪玉作りの場所に指定はない。
・朝礼の上から指示を出すことが可能
(的当て要素の強いルールだよな……そしてこっちが規定か……)
またルールと別に規定もあり、そちらも目を通す。
【谷寒東中雪合戦規定】
・それぞれのチームは大将・軍師2名を必ず選出する。
・全クラスが2戦ずつ行い、合計で的を多く守ったチームの優勝とする。
・対戦相手は数日前に大将か軍師がくじを引く。
・雪を的に当てる練習は原則禁止。
・体育の時間にボールを使った練習が可能。
・クラス全員参加(欠席者がいても人数を合わせることはしない)
・1試合、制限時間5分間。
・雪が降らなかった場合は体育館にてボールを使用して行う。その場合は前半2分。後半3分の交代制で人数を半分ずつにして行う。
(雪合戦当日まで雪で練習できないのは、つらいよな……体育館の場合はクラスの人数をわけて前半後半……なるほど、雪の玉を作る人がいないから人数が多すぎると動きにくいってことかな……)
去年の試合は見たはずだが、人ごとだったのであまり詳細には覚えていない。
「俺、動画苦手だけど……動画も見た方がいいかな?」
そう思って動画を見ようとして手を止めた。
テレビも試合風景を流さないし、谷寒東中は個人情報保護のために学校行事のいかなる動画も個人がネットにアップしてはいけないことになっている。動画だけではなく写真もネットに掲載するのは禁止だ。
運動会のクラスの集合写真を自分のSNSに掲載した人がいたらしく、学校側から厳しく忠告があり、即刻削除を要請された。学校に取材を許可されたメディア関係者さえ、本人・保護者の同意を得て掲載することになっている。
(いや、ネットにうちの学校の雪合戦の様子があるわけないよな)
俺は眉をひそめながらルールを見直し、ふと平塚の言葉を思い出した。
――野沢がこれまで読んだ本の中で使える知識があるなら教えてほしい。
つまり俺のこれまでの読書経験に託されたのだ。
(本か……本ね……スポーツ関係の本がいいかな? ドッジボールとか……スポーツを参考にするか? でも、目的が勝利ではなく、気持ちよく動けるっていう課題に答えるのは難しいよな……)
もしドッジボールのスポーツ上達の本を見ても、練習方法やテクニカルなことが書いてあるのが普通だ。
――勝利よりも、人がどうすれば気持ちよく動いて、生産性を高めることができるのか、俺はそれが知りたい。
勝利を求めないスポーツ関係の本……
(競技関係の本で勝利を求めない本……あるかな、そんな本。もしそんな本があったとして……需要あるかな? ん~~無さそうだよな……)
出版事業もビジネスだ。売れる可能性のない本を出版したりはしないだろう。
となると、平塚の望んでいるものはスポーツ関係の本ではない可能性がある。
(あ~~どうしよう!! 何を参考にすれば、平塚の要望に応えられる!?)
顔を上げて窓の外を見た。
空は厚い雲に覆われているが、雪は降っていない。
あの雲の向こうには青空が広がっているのだろうか?
雲しか見えないので、この雲の向こうに青空が広がっているなんてとても想像できない。
(平塚は……どうしてそこまで、人が楽しむことにこだわるんだろう?)
なんとなく俺には、平塚が楽しむことにこだわるには何か理由がありそうだと思った。
人は自分の本心を上手く表現できるわけじゃない。
俺は今読んでいる、幕末を舞台にしている歴史小説を手に取った。
幕末には大きな思考の転換期が訪れた。新しく入ってきた文化や考え方と、これまで受け継がれてきた文化や考え方が入り乱れた時代だ。きっと正解なんてなかったのだろうと思う。だからこそ、人々は自分の考えることを貫くことしか選べなかった。
――戦うことで何かを守ろうとした人々、そして戦いを回避しようとした人々、そしてそんな人々に翻弄されながらもひたすら平穏を願った人々……
人が動く理由は、人それぞれだ。
さらに人は、時に何かを成し遂げようとして命までかけることもある、というのは歴史が教えてくれている。
そして……平塚には何か、譲れない思いがある。
俺はそれを知りたいと思った。
(とにかく、もう少し考えてみるか……)
俺は再び、雪合戦の資料を見た。だが、思考は平塚の本音が何なのかとても気になっていたのだった。
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