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雪合戦まであと17日
しおりを挟む放課後。平塚に話がある。
だが彼は気が付けば教室からいなくなるので、俺は終わったらすぐに平塚に声をかけた。
「平塚、ちょっといい?」
平塚は、やはり早くも鞄を持って帰りそうな勢いだった。
「いいよ。これからテニスあるから、長くは無理だけど、どうした?」
「雪合戦の戦略のために現状分析したくて、情報を集めてるけど……よくわからなくて困ってる」
「情報か……ちなみに野沢はどんな情報がほしいの?」
これまで本ばかり読んで、人付き合いは最低限だったので他のクラスどころか、このクラスにどんな人がいるのかもわからない。だからここは顔の広い平塚に相談することにした。
「他のクラスの主要な戦力と、このクラスにどんな人がいるのか知って、将軍を決めたいかも。あと17日で雪合戦だし」
「え? もう、それくらいしかないんだ……」
「うん」
「このクラスの……ん~~。他のクラスの主要な戦力っていうのは俺が明日提供する。明日の放課後、時間ある?」
「ある」
平塚はそう言った後に、俺にだけしか見えないようニヤリと笑って見せた。
「ここは情報屋に協力してもらおうか……」
「え? 情報屋?」
そして、俺から視線を逸らして扉の方を見た。
「西田さんたち、ちょっといいかな?」
平塚が声をかけたのは、校則スレスレの服装でいつも先生に注意されているギャルと呼ばれる女子3人組だった。
(え!? 西田さんたち!? 平塚って本当に顔広いな)
同じクラスだが、俺は彼女たちと話をしたこともなければ目も合わせたことがない。
それに確か夏休み前に彼女たちはSNSで教室の中でダンス系の動画を撮って、指導を受けていたはずだ。
彼女たちとは、このまま一言も話をすることもなく卒業すると思っていた。
「平塚? うわっ、幻の野沢もいるじゃん!!」
「本当だ、幻の野沢だ」
「こんな近くで初めて見た」
(幻……俺は珍獣扱いなのか……)
平塚が困ったように言った。
「いや、幻じゃなくて、リアルだから。それよりわかる範囲でいいんだけど、このクラスの人の特技とか知ってたら教えてくれない? 今後の雪合戦の参考にするから」
「雪合戦ねぇ~~だるいけど、平塚には借りがあるし、そのくらいならいいよ」
3人の中でも一番派手な西田 遥がそう言うと、他の二人も「別にいいよ」「まぁ、今日はヒマだし」と言ってうなずいた。すると平塚は、西田を見ながら言った。
「俺、これからテニスなんだけど、野沢の質問に答えてあげて?」
(え!? 俺だけ!? 平塚帰るの!?)
平塚は「野沢、明日な!!」と言って颯爽と教室を出て行った。
俺と初対面のギャル3人を残して……
(ああ~~こんなことになるなら、自分で地道に調べればよかった……)
平塚がいなくなって、呆然としている俺を見て、西田が鞄を置いて近くの席に座った。
「野沢、それで知りたいことって何?」
西田が席に座ると、他の2人も俺を取り囲むように座った。
「紙とペン持ってくるから少し待って」
俺は自分の机に戻ると名簿やメモとして使っているコピー用紙と筆箱を持って来た。
「そこ座れば?」
「うん」
西田に言われて、彼女たちの後ろの席に座った途端に、西田の隣にいた女子が口を開いた。
「初めて近くで声聞いたけど、野沢はやっぱりイケボ。先生が教科書読む人を当てるとか言うと、『野沢に当たれ』って願ってる女子多いよ。知ってた?」
「いっつも本読んでてしゃべるのレアだし。隠れファン多いよ、野沢」
なぜ隠れるのだろうか?
隠れないでほしい……
そんなことよりも、3人が俺の名前を知っていたことが驚きだ。
俺には全く3人の名前がわからない。西田はさっき平塚が名前を呼んだからかろうじてわかるくらいだ。
西田の右隣は、肩までの髪の女子。そして左隣の子は髪を一つに結んでいる。
「野沢って、シャンプー何使ってんの? サラサラすぎるんだけど」
急に一つ結びの女子に髪に触れられて、硬直する。
「うわっ、肌もヤバいって。化粧水、何使ってる?」
西田に頬を撫でられて、顔を遠ざけた。
男子同士なら少々のスキンシップの経験はあるが、女子とのスキンシップは経験がないので遠慮してほしい。
男子だ女子だと考えるのは時代に合っていないというのはわかるが、身体の構造が違うのだから仕方ない。
(あ……もう、家に帰りたい……)
俺は早くこの場を去りたいと思いながらも、話を続けた。
「シャンプーは、名前はわからないけど透明のボトルに入ってるヤツで、化粧水はつけてない」
「透明のボトルって何もわかんないし! ウケる!!」
「本当にいい声。野沢、そんな警戒すんなって。もう触んないから。それで、聞きたことって?」
西田が笑いながら俺を見た。
俺は気を取り直して、3人の前に名簿を向けた。
「名簿順に、どんな特技を持った人か教えてくれないか? 雪合戦の参考にするから」
3人を見ながら尋ねると、一つ結びの女子が口を開いた。
「え~~と会川はね~~、3組の井之頭さんと付き合ってるよ。帰り道とか普通に手とかつないでイチャついてる」
「そうそう、井之頭さんに頭上がらないっていうか……いいなりになってる感じ」
「へぇ……」
どうしよう、初めから情報が濃すぎる……しかもそんな情報雪合戦に使えるのかさえあやしい。
そして、名簿が進み、川中 亜里沙と書かれたところまで来た。
すると、一つ結びの女子が笑いながら俺の首に腕を回して言った。
「何? 私の何が知りたいわけ?」
(あ、この人川中さんって言うんだ……割とスキンシップの激しい人だな……)
「川中さんって、お兄ちゃんとか弟いる?」
「え? 弟がいるけど……弟知ってるの?」
川中は驚いて俺を見た。
「いや、男子に普通に触れるみたいだし、異性の兄弟がいるのかと思っただけ」
すると西田が「ふ~ん」と言って俺を見た。
「私は、兄弟いると思う?」
「いると思う。性別はわからないけど、上がいる気がする。結構歳が離れてそう」
西田はいつも教師に注意されても堂々としている。
なんとなくだが、彼女自身が周りから溺愛され、甘えが許される環境にいたのだろうな、と思えた。
「はは、正解。社会人のお兄ちゃんと、大学生のお姉ちゃんがいるよ。でもそういうのわかるんだ……どうしてわかんの?」
「本の登場人物とかと類似点とかがあると、あの人は歳の離れたお兄さんがいた、とか、妹がいたとか」
「本の登場人物って存在しないじゃん」
川中が俺を見たので、俺は川中を見ながら答えた。
「ん~~でも、完全に作られたキャラってたぶん少なくて、きっとこれまで会った人とかを参考にしてることもあると思うし……実際こういう時に聞くと当たるから」
西田の目の奥が光った気がした。
「……野沢って、面白いね」
俺は西田から目をそらして川中を見た。
「川中は何が得意?」
「バレー部でセッターしてる。以上」
他の人の情報は多いが、彼女自身の情報は少なかった。
そして名簿が進み、佐々木 凛香のところまで来た。
すると肩までの髪の女子が口を開いた。
「私は、特技ないよ」
「凛香は、動画編集とか神だよ」
「そーそー凛香が編集すると、めっちゃカッコよくなるし」
すると川中と西田がすぐに声を上げた。
(動画編集か……)
編集作業というのは、非常に頭を使う作業だ。
前後の繋がりや全体の流れ、そしてどこを見せるかで見せ方が変わってくる。
もしかして平塚のように将来を見据えた行動なのだろうか?
「将来はそっちの方面に進むの?」
「別に……ただ楽しいからやってるだけだし」
楽しいからやってる。
「俺が本を読む理由と一緒だ……」
俺は西田や川中、佐々木とはわかり合えることはないと思っていた。
むしろイメージで会話さえも通じないのではないかと恐れていたが、話をしてみるとそんなこともなく、自分と同じ中学生なのだと思えた。
「野沢って、話をしてみるとイメージと全く違うね。クールで私たちを見下してるのかと思ってたけど、どっちかっていうと癒し系じゃん。はは、意外でウケるけどいいわ」
川中が楽しそうに笑うと西田が笑って名簿の中の清水 慶太を指さした。
「ほら、次は清水。顔がいいからめちゃくちゃモテるのに、恥ずかしがって誰とも付き合わない。雪合戦では戦力になると思う。今は陸上やってるけど、小学校までソフトボールクラブにいたし」
「へぇ、小学校の時にソフトしてたんだ」
そして西田は、次に鈴木 弥生を指差しながら言った。
「弥生は、女ハンのキーパーしてる。動体視力が神ってる。女子ハンドが県大会に行けたのは弥生のおかげ」
「しかも、県の選抜メンバーに選ばれてるし、高校からもすでにスカウトが来てるって話」
「……やっぱり、鈴木って凄いな」
急に3人が協力的になって驚きながら俺は3人からクラスメイトの特技を聞いた。
最後の人の情報を聞き終わり、俺は3人にお礼を言った。
「今日は教えてくれてありがとう。助かった」
まさか3人がこんなに真剣に教えてくれるとは思わなかったので、驚いていた。
「いいよ、じゃあ、自販機でいいから何か奢って」
川中が笑ったので、俺は素直に答えた。
「財布持ってないし、登下校中の買い食いは校則違反」
「真面目か!?」
「うん。俺、割と真面目」
俺が答えると西田が目を細めて笑った。
「あはは。自己申告で真面目っていうとか、マジでウケる!! じゃあ、奢らなくていいから、普通に一緒に帰ろう。それなら問題ないでしょ?」
すると川中が俺の腕を握った後に、佐々木が俺の顔をのぞきこんだ。
「じゃあ、行こう!! 何個か野沢に言ってほしいセリフがあるんだけど言ってくれない?」
「あ、私もある。野沢に、ハルト様のセリフ言ってほしい!! これ読んで!!」
そして俺は、川中が読んでほしいと開いた画面を見た。
『俺から逃げられると思っているのか? 絶対に逃がさない』
俺は画面を見て思わず、同情のこもった目で佐々木を見つめた。
「ええ……こんなこという男、やめた方がいいと思うよ……」
「は?」
「そもそも初めから、逃げたいと思わないような人を選んだ方が、あったかい家庭を築けると思うけど……」
唖然とする川中の隣で西田が爆笑した。
「あははは。野沢っていくつなの!? マジでウケる!!」
「ハルト様は二次元だから問題なし」
「こっちの人の方が優しそうだけど……」
俺は画面に写っていた端の優しそうな好青年を指さした。
「野沢、そいつ一番ヤバいって!! ヤンデレ、監禁されるって~~」
「ええ……こんな優しそうなのに……」
「野沢、見た目に騙されるな!! 何気にハルト様の方が溺愛甘々だ」
「こんなセリフをいうのに溺愛甘々……そうなんだ。難しいね、人間関係って……」
「あはは、お腹痛い。あはは」
川中も西田と一緒に涙目で声を上げて笑っていた。
その後、俺は絶対に話すことはないだろうと思っていた人々と並んで、話をしながら家に帰るという不思議な体験をしたのだった。
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