25 / 95
第二章 霧のかかった未来
24 星祭りの腕輪(6)
しおりを挟むホフマン伯爵が、城へ星祭りの打ち合わせに行った次の日、私とハンスはホフマン伯爵の執務室に呼ばれた。
「ハンスの腕輪が採用された」
伯爵はそう穏やかに告げた。
「え? 私の腕輪が? 本当に?」
「ああ」
「やった!!!」
ハンスは信じられないと、いう顔をした後、とても喜んでいた。
きっとこれで、伯爵の狙い通り、ハンスは宝石の勉強にも、力を入れることだろう。
(よかった……)
私はハンスを見ながら言った。
「ハンス!! 凄いわ!! おめでとう!!」
「うん!! ありがとう! 絵になったら、一緒に見に行こうね!!」
「もちろんよ!!」
私がハンスと喜び合っていると、ふと、ハンスが伯爵の方を見た。
「あ、おじい様。シャルの腕輪は、使わないんですよね?」
「そう……だな」
「ねぇ、シャル。シャルの作った腕輪、僕にくれない? シャルの初めて作った腕輪だろう? とてもキレイだったし、欲しいなって思ってたんだ」
元々、お父様には小さすぎるし、エイドに貰って貰おうと思っていたが、ハンスが貰ってくれるなら、腕にも合うし、有難いと思った。
「ええ。ハンスが貰ってくれるなら嬉しいわ」
「えへへ。やった!!」
私たちが、笑いあっていると、ホフマン伯爵が困った顔をして、私の腕輪を差し出した。
「実は、ランゲ侯爵子息のゲオルグ殿も、この腕輪を褒めて下さったようで、シャルロッテさえよければ、ゲオルグ殿に、お贈りしようと思ったのだが……」
私はその名前を聞いて固まってしまった。
「ランゲ侯爵子息のゲオルグ……様が?」
すると、ハンスが声を上げた。
「おじい様、その腕輪はシャルの初めての腕輪です。それは、私がいただきます。ねぇ? シャル、私にくれるだろう?」
伯爵と、ハンスにじっと見つめた。
なぜ、ゲオルグが私の腕輪を見たのか、状況はよくわからないが、私は乗馬大会の時のゲオルグを思い出した。
(……ゲオルグに腕輪を贈りたい。次は頑張っての応援の意味を込めて)
私は、目の前で真剣な顔をしているハンスを見た。ハンスは、嘘をつかない。どこまでも真っすぐで、正直だ。そのハンスが、自分の作った腕輪が欲しいと言ってくれている。
本当に欲しいと思っていてくれている証拠だ。
私は、エイドに言われた言葉を思い出した。
『お嬢、いいですかい? これからお嬢は、色んな男性と知り合うと思います。ですが、絶対に何が合っても、ホフマン伯爵家の坊ちゃんを一番に考えて下さい。そうすりゃ~間違いはありません』
(そうよ。エイドが間違いないって、言ったわ。私が優先すべきは、ハンス)
「伯爵、申し訳ございません。私は、ハンスに腕輪を贈ります」
「やった~~」
ハンスは嬉しそうに笑った。だが、ホフマン伯爵もどこか、嬉しそうだった。
「ふふふ。そうか、ハンスに贈ってくれるのか、それでは断るしかないな」
「申し訳ございません」
私が頭を下げると、ホフマン伯爵はにっこりと笑った。
「いや、問題ない。シャルロッテ嬢。腕輪を孫に譲ってくれて感謝する。ランゲ侯爵家子息殿については、私に任せてほしい」
私は、腕輪をハンスに渡した。
「どうぞ」
「ありがとう!! 大切にするね!!」
ハンスの嬉しそうな笑顔が、なぜか心に突き刺さった。
この星祭りのシュテルンリングのおかけで、私たちは随分と変わった。
ハンスは、自分の腕輪が、大聖堂の絵に描かれたことで、宝石への苦手意識も薄れ、以前より真剣に宝石の勉強を始めた。
そして、私は……。
ハンスの婚約者として、他は視界に入れずに生きて行く決意が出来た気がした。
162
あなたにおすすめの小説
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる