好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番

文字の大きさ
43 / 95
第五章 言えなかった言葉

42 新しく開いた未来(1)

しおりを挟む

 ウェーバー子爵と、エイドは、共に王宮に向かうために馬車に乗っていた。

「旦那様。折角個室タイプの馬車を買ったのですから、御者席ではなく、中に乗ればいいのでは?」

 エイドは、自分と一緒に御者席に座る、ウェーバー子爵に向かって言った。
 最近、事業が上手く行ったこともあり、長距離にも耐えられるようにと、一般的な貴族が所有している箱馬車を購入した。それにも関わらず、ウェーバー子爵は、御者台のエイドの隣に座っていた。

「エイド……無理だ。風に当たり、景色でも見なければ、精神が持たない。大体、信じられるか? 娘が突然、婚約破棄をされたと思ったら、陛下への謁見だ。陛下に拝謁したのなんて、前国王陛下が崩御された後の、戴冠式以来なんだよ?! あの時だって陛下は、豆粒くらい遠くで、ほとんどお会いしたことなんてない方なんだ。それを……このタイミングで謁見……うっ……胃が……」

 ウェーバー子爵は、胃を押さえながら言った。

「大丈夫ですか? でも、そうですね~~今日は厄日なんですかねぇ~~」

 エイドも溜息をつきながら言った。

「ああ、確実に厄日だ。もしかしたら、我が家にとって、ここ数年で一番大きな災厄の日なのかもしれない」
 
「まぁ、人間、どん底を経験したら、後は上がるしかないと言いますし。後は上がるだけですって。旦那様。こうなったら、うなぎ上りで行きましょう!!」

 エイドは、ウェーバー子爵をなだめながら言った。

「はぁ~~エイド。こんな風に、励ましてくれてありがとう。妻もエマも相当怒っているから……妻は、眉間に青筋を立てているし、エマなど、グラスを3つも握り潰していた……」

「あ、旦那様、エマが握り潰したグラスは5つです」

「そうなのか?! では、新しい物を用意する必要があるな。だが、エイドが思いの他、冷静で助かった」

「そんなことは、ありません。俺だってうっかり、怒りでホフマン伯爵家の高そうなドア、破壊してしまいましたし」

「ふっ、そうだったな。だが、そんなに怒っていたのに、エイドがホフマン伯爵家の子息に手を上げなかったことが奇跡だな」

 ウェーバー子爵が困ったように笑った。するとエイドがどこか遠くを見つめながら言った。

「俺も、いい加減大人ですし……それに……なんていうか……あの伯爵家の坊ちゃん……あいつの顔みたら、まるで壊れた人形みたいな死んだような目をしてて……お嬢が、あんな男に、嫁がなくてよかったと、少しほっとしたんです」

 それを聞いたウェーバー子爵も呟いた。

「人形……か……」

「はい……あ、旦那様。そろそろ王宮ですよ。さて、そろそろ貴族の仮面被ってくださいよ」

「わかってるよ。あ~~胃が痛い」

 こうして、2人は無事に王宮に到着したのだった。

☆==☆==


 王宮に着いた2人は豪華な部屋でしばらく待った後に、広い部屋に通された。
 部屋の中には、ホフマン伯爵と、なぜかランゲ侯爵がいらっしゃった。

「これは、ウェーバー子爵殿、いつも子供たちがお世話になっております」

 ランゲ侯爵が親し気に、ウェーバー子爵に話しかけたが、子爵は、会ったこともなく戸惑っていた。するとエイドが小声で呟いた。

「旦那様、お嬢のご友人の、エカテリーナ様とゲオルグ殿のお父様です」

 エイドの言葉を聞いて、子爵がランゲ侯爵に近づいて手を差し出した。

「こちらこそ……お2人には、いつも娘がお世話になっております」

 なぜここに、ランゲ侯爵がいらっしゃるのか?
 ウェーバー子爵が首を傾けたが理由は、わからなかった。

「とりあえず、お座り下さい。そろそろ陛下もお見えになります」

「はい」

 ウェーバー子爵は心の中で泣きそうになっていた。

 一体これは、どういう集まりなのだろう?
 婚約破棄というのは、これほど大掛かりなものなのだろうか?

 自分は、妻と縁談で結婚したが、おかげで夫婦仲もよく、円満に暮らしているので、よくわからない。
 ホフマン伯爵から『婚約破棄について、陛下に呼ばれているので同席してほしい』と言われた。
 陛下に呼ばれて断れる貴族などいない。

 子爵が汗を拭きながら、陛下を待っていると、ようやく陛下が現れた。どうやら、陛下だけではなく、サフィール王子殿下もご一緒のようだった。

 陛下が椅子に座られると、隣にサフィール王子も座られた。
 
「ホフマン伯爵家の件は、宝石事業が絡んでいるゆえ、突然だったが、皆に集まって貰った。前ホフマン伯爵は、ウェーバー子爵令嬢の宝石の仕分け手腕を随分と評価していた。私も、その令嬢が仕分けに携わるということで、継続の許可を出していたのだ。だが……婚約破棄となると話は変わってくる」

(え?)

 子爵は驚いて、ホフマン伯爵を見たが、伯爵はもっと驚いた顔で陛下の方を見ていた。

「そこでだ。サフィール先程の話を」

「御意。皆様。国益を考えると宝石の仕分けを、王家の許可のない者に任せるわけにはいきません。ですが、王家が直接管理するのも、争いの火種になるので出来ない。そこで、これまではホフマン伯爵家に委託していたこの事業を、今後はランゲ侯爵家に移行したい」

 全員が息を飲んだ後に、ランゲ侯爵が小さく笑いながら言った。

「つまり、我がランゲ侯爵家に、ウェーバー子爵令嬢の後見人になれと?」

「侯爵は、話が早くて助かる」

 サフィール王子殿下が、ランゲ侯爵の言葉を肯定するように言った。すると、慌てた様子でホフマン伯爵が声を上げた。

「お待ちください、サフィール王子殿下。我がホフマン伯爵家のハンス・ホフマンも同等の業務ができると許可を受けております」

 するとサフィールが無表情で言った。

「ホフマン伯爵、それはあくまで、ウェーバー子爵令嬢が補佐しての話だ。騎士を目指す者が、彼女がいないの状態での仕分けの継続など、話にならない。それとも、伯爵は婚約破棄をした令嬢を、このままホフマン伯爵家に置くとでもいうのかな?」

「それは……」

 ホフマン伯爵が言葉を失うと、サフィールはウェーバー子爵の方を見て言った。

「この場合。本来でしたら、ウェーバー子爵の家に委託になるわけですが、ウェーバー子爵令嬢の家では、宝石を守れない。それで、ウェーバー子爵令嬢には、ランゲ侯爵を後見人に迎えて、宝石の仕分け作業を継いで頂きたい」

「ウェーバー子爵令嬢は聡明で、素晴らしい女性だ。そんな方の後見人など、こちらには、断る理由は一切ありませんな」

 それを聞いたランゲ侯爵は「うんうん」と頷いた。
 だが、ウェーバー子爵の顔色は真っ青だった。

 実は、ウェーバー子爵は、ホフマン伯爵や、シャルロッテから『宝石の勉強』をするとは聞いていたが、結婚するための花嫁修業のような物なのだろうと、どこかのんびりと構えていた。

 それが、まさか、娘にこの国の宝石の行方が全て委ねられるような重要な勉強をしていたことなど想像もしていなかった。


 婚約破棄したばかりの娘をまたしてもどこかの家に預けるというのは、本心では遠慮したい。
 だが、そんな重大な仕事を我が家に持ち込まれてもどうしようもない。

 それに、前ホフマン伯爵亡き今、その仕事が出来るのは、もはや、シャルロッテただ1人。
 ウェーバー子爵は思わず胃を押さえたのだった。







しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

処理中です...