57 / 95
第七章 幸せの予約
56 秘書の事前準備(1)
しおりを挟む「シャルロッテ。これが小切手だよ。エイドもよく聞きなさい。決して妥協せずに、いい物を買いなさい。今後は、エイドも、陛下に拝謁を賜る機会があるのだからね」
私はお父様から小切手を受け取りながら頷いた。
「わかったわ!! お店は決めてあるの。さぁ、エイド行きましょう」
「はい」
今日は、エイドの秘書用の服を2着ほど購入することになっていた。1着は公の場に着て行けるようにエイドぴったりに仕立てて、もう1着はすぐに使えるように既製品の服を買う予定だ。
私はエイドと、王都でも有名な高級な紳士服を扱うお店に向かった。
以前、元ホフマン伯爵やハンスと一緒に行ったお店だった。お店の方の対応もよく、元ホフマン伯爵家の服を仕立てていたお店なので、今後貴族の方々ともお会いすることになるエイドにも、ぴったりのお店だと思ったのだった。
「……お嬢、本当にこの店に入るんですか?」
窓ガラスから見える服を見ながら、エイドが困ったように言った。
「そうよ」
「まぁ、お嬢が舐められないためにも服は必要ですしね。行きましょう」
「ええ。きっと、エイドなら良く似合うわ」
「そうですかね~~?」
こうして、私はエイドと共に店に入った。
すると、以前、元ホフマン伯爵やハンスと共にお邪魔していた時は、とてもにこやかにしていたお店の方が、私たちの顔を見た途端に、迷惑そうに眉を寄せた。
「なんだ、お前たちは。ここはお前らのような庶民の来る場所じゃない。帰れ、帰れ!!」
バタン!!
扉が大きな音を立てて閉められた。
私たちはお店に入った瞬間に、外に追い出されてしまったのだ。
何か起きたのかわからなくて、唖然としていると、エイドが私の頭を撫でた。
「さぁ、行きましょうか。お嬢」
以前、お邪魔した時は、いい人のように見えたが、どうやらそうではなかったようだった。
私のお店選びが悪かったせいで、エイドにつらい思いをさせてしまって申し訳なく思った。
「エイド……イヤな思いをさせてしまって、ごめんなさい」
エイドは、困った顔をして、頭を撫でながら言った。
「俺は全く気にしてませんよ。ここはこういう店ですから。あの……お嬢さえ良ければ、俺が執事服を仕立てて貰った店があるんですが、そちらに行きませんか?」
エイドの執事服は、動きやすいだけではなく、執事服を着たエイドは、とてもカッコよくて私も大好きなので、私は大きく頷いた。
「ぜひ、そこに行きましょう!」
「はい、案内しますよ」
私はエイドの案内で、エイドの執事服を仕立ててくれたお店に行くことになったのだった。
☆==☆==
「お嬢。ここですよ」
エイドに連れて来られた場所は、趣のある小さなお店だった。
古い外観だったが、よく手入れしてあり、掃除も行き届いており、とても素敵なお店だった。
「こんにちは~~」
エイドは、ためらうことなく、お店の扉を開けた。
「あら? エイドちゃん。この前は、麦を運んでくれてありがとう。おかげで助かったわ」
中に居たのは、小柄でとても元気なお母様くらいの御歳の女性だった。
どうやら、エイドとは、かなり仲が良いらしく、親し気に話をしていた。
「いいって、いいって。困った時はお互い様。それより、親方か、イーグルはいる?」
「ええ。いるわよ。ちょっと~~来て~~」
女性が奥の向かって叫び、しばらくすると、お父様と同世代くらいの男性が出てきた。
「お~~エイドじゃねぇか~。どうした?」
「こんにちは、親方。実は、俺、秘書になるんだけど、貴族連中に舐められない、国王陛下の前に出ても恥ずかしくない服を作ってくれるか?」
エイドに親方と呼ばれた男性は、呆気なく答えた。
「おう、任せろ。今度は、執事じゃなくて、秘書なんだな」
「そう。既製品で1着、仕立てて1着。2着欲しいんだけど……」
エイドの言葉を聞いた男性は、眉を寄せながら言った。
「既製品? すぐに必要ってことなのか?」
「うん」
「ん~~。じゃあ、あいつにも手伝わせるか……」
男性は、顎に手を当てて考えた後に、店の奥に向かって叫んだ。
「おい、イーグル。顔見せろ!!」
すると、今度は、エイドと同じくらいの歳の男性が、眠そうに目を擦りながら出てきた。
「ふぁ~~~あ、親父。どうした? お~~エイドじゃねぇか~~この前は、俺の代わりに麦運ばせちまって悪かったな」
「俺も買い物の途中だったからな、ついでだから気にすんなよ」
どうやら、このイーグルと呼ばれた男性ともエイドは知り合いのようだった。
私が黙って、エイドとお店の方のやり取りを見ていると、イーグルさんと目が合った。
「おお??? こ、こ、こ、こちらの、べ、別嬪な女の子は誰だ? まさか!! エイド、身を固めるのかぁ~~? くそ~~顔か? 顔なのか? 俺が今まで生きてきた中で出会った、一番の別嬪だぜ!! あの、やっぱりエイドじゃなきゃダメですか? 俺はどうですか?」
イーグルさんに近づかれそうになると、エイドが私とイーグルさんの間に入ってくれた。
「おい、イーグル。お嬢に気安く触るな!!」
「え? お嬢? お嬢って、あのお嬢??」
イーグルさんが、驚いた顔で私を見ていた。
どうしたのだろうか?
あの、お嬢とは、どういう意味だろうか?
私が首を傾けていると、女性が大きな声を上げた。
「まぁ、まぁ、まぁ、あなたが、エマちゃんが、天使がこの世に舞い降りたという、あの、天使ちゃんね」
(天使ちゃん?!)
天使ちゃんというのは、もしかして、小さい時のことだろうか?
どうやら、エマもこの方々と知り合いのようだった。
すると、親方さんも、私を見て嬉しそうに言った。
「お~~~、この娘が、あのお嬢か~~。色男のエイドに『目の中に入れて外に出したくない』なんて、物騒なことを真顔で言わせる天使かぁ~~こりゃ~~。確かに目の中に入れておきたいかもしれねぇな~~」
(エイドがそんなことを?!)
「確かに、俺も、この娘だったら、目の中から出したくないかも……しかも、貴族令嬢とは思えないほど、穏やかで可愛い!! 姿絵が欲しい……」
「だろ? お嬢は天使な上に賢いし、可愛いし、心まで綺麗だからな。だが、姿絵は絶対にダメだ。イーグルはあんまり見るな。お嬢が減る」
「見るだけで、減るか!! お前、お嬢が絡むと心が狭いよな~~」
(エイド?! 他の人にもそのセリフを言っているのね?? 恥ずかしいです~~!!)
「まぁ、というわけで、俺としては、絶対にお嬢に、恥かかせたくねぇんだ。最高の手仕事頼めるか?」
エイドの言葉に、イーグルさんが「ニシシ」と笑った。
「任せろ!! 親父~、あの腹黒次男坊の布を注文する時に、見つけた例のアレ、使ってもいいか?」
「おお!! あいつは、一級品だ。それにエイドに、合いそうだしな」
「あはは、エイドちゃんは、男前だから出来上がりが楽しみねぇ~~さぁてと、じゃあ、エイドちゃん、こっちにいらっしゃい。採寸しますからね」
「ああ、おかみさん、よろしく頼みます。おい、イーグル。お嬢に失礼があったら、わかってるだろうな?」
エイドが、イーグルさんに近づくと、イーグルさんが青い顔をしながら言った。
「そんな怖い顔で睨むな!! イケメンの睨みなんて受けたら、石化しちまうだろ?! 何もしねぇ~よ」
ここからでは、イーグルさんの顔は見えたが、エイドの顔は背中を向けていたので見えなかった。
そのうちに、エイドの姿が見えなくなった。
一体、エイドは、どんな顔をしたのだろうか?
私が、そんなことを考えていると、お店のドアが開いた。
「誰かいるか?」
(え? あの方は………)
私は思わず、固まってしまった。
まさか、この方とここで会うことになるとは思ってもいなかったのだ。
「おお、腹黒次男坊じゃねぇか」
え?!
信じられないことに、イーグルさんは、この方に向かって失礼なことを言っていた。
下手すれば、不敬罪で掴まるかもしれない、お方だ。
私が、この場をどうすればいいのか考えていると、その方が口を開いた。
「誰が、腹黒だ!! まぁ、次男なのは間違いないが……」
(もしかして、仲がいいのかしら?! ええ? この方と???)
私が混乱していると、目が合った。
「おや、君は……」
私は急いで頭を下げた。
「初めまして、シャルロッテ・ウェーバーと申します」
すると、楽しそうな声が聞こえて顔を上げた。
「初めてじゃないよね? 貴族学院の教室で会ってる」
「はい」
私は、昨日、この方にお会いしたばかりだった。
――ハワード・ステーア様。
この国の貴族の頂点に君臨するステーア公爵家のお方だ。
私はそんな方とお会いすることになるとは思わなくて、立ち尽くしてしまったのだった。
186
あなたにおすすめの小説
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
【完結】王妃を廃した、その後は……
かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。
地位や名誉……権力でさえ。
否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。
望んだものは、ただ一つ。
――あの人からの愛。
ただ、それだけだったというのに……。
「ラウラ! お前を廃妃とする!」
国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。
隣には妹のパウラ。
お腹には子どもが居ると言う。
何一つ持たず王城から追い出された私は……
静かな海へと身を沈める。
唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは……
そしてパウラは……
最期に笑うのは……?
それとも……救いは誰の手にもないのか
***************************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
地味顔令嬢の私を「嘘の告白」で笑いものにするつもりですか? 結構です、なら本気で惚れさせてから逆にこっちが盛大に振ってあげます!
日々埋没。
恋愛
「お前が好きだ。この俺と付き合ってくれないか?」
学園のアイドル、マルスからの突然の告白。
憧れの人からの言葉に喜んだのも束の間、伯爵令嬢リーンベイルは偶然知ってしまう。それが退屈しのぎの「嘘の告白(ウソコク)」だったことを。
「あの地味顔令嬢が俺に釣り合うわけないだろ。ドッキリのプラカードでも用意しとくわ」
親友のミネルバと共に怒りに震える彼女は、復讐を決意する。まずは父の言いつけで隠していた「絶世の美貌」を解禁! 嘘の恋を「真実の恋(マジコク)」に変えさせ、最高のタイミングで彼を地獄へ突き落とす――。
「……今さら本気になった? 冗談はやめてください、これドッキリですよ?」
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる