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第七章 幸せの予約
61 新しい仕事場
しおりを挟むエイドの服を作りに行った次の日。
私は、エマと一緒に、ランゲ侯爵家に向かっていた。
私は馬車の中には入らず、エマと一緒に御者席に乗っていた。
「忙しいのに、ついて来てくれて、ありがとう。エマ」
「いえ、お嬢様の新しい仕事場に、エイドより先に行けるのは嬉しいです」
私とエイドが服を作りに行っている間に、ランゲ侯爵家から書類が届き、仕事をするための部屋が用意できたので、屋敷に来て確認してほしいとの連絡があったのだ。
荷物があったので、念のために、エマが手伝いのために来てくれたのだ。
「ふふふ。エイドは、ハワード様のお屋敷ですものね」
「はい。エイドの代わりに、奥様にお食事の準備をして頂いているのは申し訳ありませんが……奥様の料理は懐かしくて優しくて、とても美味しいので、私は嬉しいです。ですが……奥様がお忙しい時は、今後は、私も料理をお作りしなければなりませんね」
実は、昨日からエイドがハワード様のお屋敷で泊まり込みで留守にしているので、食事はお母様が用意していた。エイドが食事担当になるまでは、ずっとお母様が、みんなの食事を作っていたので、お母様も『みんなの喜ぶ顔を見るの嬉しいわ』と久しぶりの料理を楽しんでいるように思えた。
だが、エイドが、私の秘書になったら、エマが食事を作る可能性がある?
「……そうね」
私はエマの独創的な料理を思い出して、エマにバレないように苦笑いをしたのだった。
エイドに言わせると、エマの料理は『味を全く無視した前衛的な芸術作品』なのだそうだ。言葉にするとわかりにくいかもしれないが、実際に、エマの料理を目の前にして、口にすると、誰もがエイドの評価を受け入れるだろう。
「ですが、最近は、シャロン様が料理にご興味を持たれ、奥様も嬉しそうにシャロン様に料理を教えていらっしゃるので、もしかしたら、私より先に、シャロン様が厨房に立たれる日が来るかもしれません」
シャロンは、10歳には満たないが、料理に興味があるようで、よくエイドと一緒におやつを作ったり、パンを焼いたり、サラダを作ったりしていた。
「そういえば、この前シャロンが作ってくれた、野菜のゼリーのようなサラダは美味しかったわ」
「そうなのです。本当にシャロン様も、お嬢様も天使なのに、優秀で、賢くて、多才で、素晴らしいですね!!」
「ふふふ、エマだって、馬車の運転上手だわ」
「ありがとうございます。……では、もう少し出来るところをお見せしましょうか? 速度上げます?」
「いえいえ、今がとても最適な速度よ!!」
「遠慮しなくてもいいですよ」
「いえいえ、いいのよ。約束の時間より、あまり早く着いてもご迷惑だし、ゆっくり行きましょう」
「そうですか?」
エマが速度を上げるというと、早馬の乗り手よりも早いので、新しい馬車を守るためにも、私は必死にエマを止めたのだった。
☆==☆==
「シャルロッテ!! いらっしゃい!!」
ランゲ侯爵家に到着すると、エカテリーナが嬉しそうに出迎えてくれた。
私の持って来た荷物は、ランゲ侯爵家の方が運んでくれるようで有難く思った。
「エカテリーナ、お邪魔します」
「あら? 今日はエイドではなく、エマが一緒なのね」
エマがエカテリーナに向かって頭を下げた後に言った。
「エカテリーナお嬢様、お久しぶりでございます。先日は、素晴らしい推理小説を貸して頂きありがとうございます。トリックが予想外で、とても楽しく拝見いたしました。あの小説はいいですね。ぜひ、シリーズ化して頂きたいです」
実は、エマはよくエカテリーナからよく本を借りている。始めは、私がエカテリーナから本を借りていたのだが、私は勉強が忙しくて、なかなか勉強と関係ない本を読むことが出来なかった。
そこで、幼い頃からエマが始めに読んで『これは名作だ』『これは読んだ方がいい』という作品を厳選してもらって読んでいたのだ。そのうちに、エカテリーナとエマが直接本の貸し借りをするようになったのだ。私は2人がおすすめという本ばかりを読んでいるので、いつも面白い本が読めて感謝していた。
「そうでしょ~~?? エマなら絶対そういうと思ったわ。今日も何冊が持って帰るでしょ?」
「いいのですか?!」
「いいわよ。じゃあ、2人とも、仕事場に行きましょうか」
「ありがとう」
私は、エマとエカテリーナと一緒に仕事場に向かった。
☆==☆==
「本当に、ここを私が使ってもいいの??」
私の仕事部屋は3つの部屋が、扉で仕切られて、行き来きが、できるようになっていた。
中央の部屋は、充分な広さの執務机が3つと、応接セット。さらに大きな書類棚に本棚。
そして右の扉を開けると、疲れた時に休めるようにベットやクローゼットも用意してあった。
さらに、左側の扉を開けると、ホフマン伯爵家にあった物よりも大きな宝石の保管庫。
充分過ぎるほどの設備に私は、驚いでいた。
「今後は、ここがシャルロッテの第2の家だと思ってくれていいんだから、自由にしてね。
ああ、ここのベットは仮眠室だから、泊まる場合は、あなたとエイドの部屋は別に用意してあるわ。
そちらも、後で案内するわね」
「ありがとう!」
私はお礼を言うと、執務机を確認した。どうやら、前ホフマン伯爵が用意してくれていた私専用の宝石鑑定用具は一式揃っているようだった。
婚約破棄をされた時に、ホフマン伯爵家の屋敷に置いてきてしまったので、自分で全部そろえる必要があるかもしれないと覚悟はしていた。だが、この中には前ホフマン伯爵が長年使っていて、私に譲ってくれた物もあったので、私はこの鑑定用具があったことを嬉しく思った。
きっと、この鑑定用具を持たせてくれたのは、いつも私に優しくしてくれた前ホフマン伯爵の秘書の方か、執事の方だろうと思えた。
(きっと、ハンスのお父様や、ハンスではないわ……)
――ハンスではない。そう断言出来てしまうところに、切なさを感じた。
だが、感傷に浸っている場合ではない。
私にはやることがあるのだ。
私は次に書類棚を見た。過去の書類もあるし、今日私が持って来た宝石の見本や硬度計があればすぐにでも仕分け作業に入れそうだった。
私が真剣に道具を見ていると、エカテリーナが口を開いた。
「今日は、ゲオルグがいなから、もし、足りない物や、必要な物があったら、遠慮なく私に言ってね。用意させるわ」
「ゲオルグは留守なのね」
てっきり、ゲオルグも後で顔を出してくれると思っていたので、いないことが残念に思えた。
そんな私を見て、エカテリーナは、顎に手を当てて困ったように言った。
「そうなのよ。あの子、最近朝早くから、夜遅くまで、サフィール王子殿下の所に通っているのよ。しかも、今日は王子殿下のところに泊まりで、戻らないらしいわ。……でも、こういう時にエイドが、シャルロッテについて来ないなんて珍しいわね」
エカテリーナの疑問に私はすぐに答えた。
「エイドも、留守にしているの。今、秘書の勉強をしているわ」
「秘書の勉強? まさか!! ホフマン伯爵家なんて言わないわよね?!」
エカテリーナが怖い顔をして言った。
実は、事前にエイドと話をして、ステーア公爵家にエイドが勉強に行っていることは、ランゲ侯爵家の方には、しっかりと伝えていた方がいいという結論になっていた。ランゲ侯爵家の方に限ったことではないが、貴族というのは繋がりをとても気にする。もし、何も説明しなかったら、やましい繋がりがあるのではないかと誤解される可能性があるからだ。
だから、私はエカテリーナの疑問に答えた。
「違うわ。ステーア公爵家にお邪魔しているの」
「え? どうして?」
エカテリーナは、やはりとても驚いていた。
「ステーア公爵家のハワード様とエイドは、昔からの知り合いだったみたい。私もよく知らないのだけど……」
「そうなの? どうしてかしら? エマは知っているの?」
エカテリーナの問いかけに、エマが私の顔を見たので、私は話をしてもいいという意味で頷いた。
すると、エマはエカテリーナに視線を戻し、話を始めた。
「はい。あの腹黒次男……え~。ハワード様は、なんと申しましょうか……社会勉強の最中に……偶然に、ご縁がありまして……親交を深め……」
「エマ。言葉は濁さなくていいわ。どういうことなの?」
「では……」
てエマは、ハワード様と出会った時のことを話してくれた。
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