好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番

文字の大きさ
68 / 95
第八章 開花する才能

67 優秀な補佐の誕生

しおりを挟む


――ゲオルグが王宮で学び始めて5日目。

 ゲオルグは、1人で王宮の書類保管庫にいた。
 というのも、ゲオルグは、たった1日で、複数の書類を読み解きながら、宝石を仕分していくパターンをつかんでいた。
 サフィールの側近のジェフも、『ゲオルグ様は、さすがですね。もう私は、必要ありません。わからないことだけ聞いて下さい』と言って、ゲオルグの能力の高さに感心していた。

 ゲオルグは3日目には、ジェフが用意していた、過去の仕分け結果のパターンを覚えた。
 そして、4日目からは、1人で王宮の書類保管庫の、過去の仕分け結果を読み解いていた。

「ゲ~オ~ル~グ~、これまだやるの?」

 ゲオルグの耳にサフィールの明るい声が届いた。
 ゲオルグは、書類から顔を上げると、サフィールを見ながら言った。

「ああ。今日の夕方くらいまではやる。なんの用だ? 今まで全く話かけもしなかったんだ。そんなお前が突然話かけるなど、何かあったのだろ?」

 サフィールはこの5日、全くゲオルグに話しかけることはなかった。
 公務や学院に行って不在という時もあったのだが、基本的にずっと執務室にいたのに、集中して学ぶゲオルグの邪魔にならないように、声をかけなかった。
 それなのに、声をかけたということは、何か用事があるということだ。

 ゲオルグは、サフィールの思慮深いところを好ましいと思っていた。 

「あ~~やっぱり、幼馴染っていうのは厄介だね~~♡ 隠し事できないね~~~♪」

 サフィールはいつもより、機嫌良さそうに、ゲオルグの前に一枚の書類を差し出した。

「こ、これは……」

 ゲオルグが書類に目を移すと、サフィールは、いつもお道化た様子ではなく、王族として威厳に溢れた声を出した。

「ゲオルグ・ランゲ殿、あなたを一級鑑定士として認めます」

「ようやく、通った!!!」

 ゲオルグが珍しく、大きな声を上げた。

「ははは、これで、ようやく13歳のシャルロッテに追いついた!!」

 ゲオルグの言葉に、サフィールは溜息をつきながら言った。

「追いつくも何も、彼女は幼い頃から宝石の専門教育を受けたエキスパートで、ゲオルグは独学だろ? しかも、一級鑑定士だなんて……普通は、有り得ないんだよ」

 宝石の一級鑑定士。
 この資格は国際的にも通用する最難関の資格だ。シャルロッテはこの超難関の資格を、13歳という若さで取得した。
 ちなみに、ホフマン伯爵家のハンスホフマンは、この一級鑑定士の資格を16歳の時に取得した。
 現ホフマン伯爵は二級鑑定士、ホフマン伯爵の奥方は三級鑑定士の資格を持つと言えば、この一級鑑定士の資格を取ることが、どれほど大変なことなのかわかるだろう。

 ちなみにこの国には一級鑑定士は、前ホフマン伯爵が亡くなってしまったので、シャルロッテを含め、現在わずか7人しかいない。
 ゲオルグで8人目になる。
 ゲオルグ以外の資格取得者は、いずれも宝石を生業にする宝石のプロばかりだ。

 そんな中、ゲオルグは宝石の特別な訓練を受けていないにも関わらず、独学でこの資格を取得した。
 これは快挙といえることだった。

「私だって完全に独学というわけではない。一級鑑定士に教えを受けた」

「教えを受けたって……数回、城の鑑定士にわからないところを、聞いたくらいだろ?」

「一級鑑定士は少ないんだ。私の自己都合で時間を取らせるわけにはいかない」

「まぁ、それで受かるゲオルグは凄いよ。ふふ、でも、ゲオルグのそんな嬉しそうな顔、久しぶりに見たかも。ゲオルグ。おめでとう」

「ありがとう、もしかして、これ、今、受理されたのか?」

 ゲオルグは書類を持ち上げながら言った。

「正解~~♪ 父上に呼ばれて行ってみたら、印を押したところだったんだ。
 これは、ゲオルグに渡す分で、『早く持って行ってやれ』って」

 サフィールは、本来ならランゲ侯爵家に早馬で届けられる書類を、直接ゲオルグに届けにきたのだ。

「それはすまないな」

「いいよ。私も直接渡したかったし~~♡」

「だが……長かったな……この資格を取るまで、3年はかかったな……」

 ゲオルグがもう一度書類を見つめながら感慨深そうに呟いた。

「まぁ、たった3年で取得したとも言えるけどね~~。正直、あのホフマン伯爵の子息が、自分から婚約破棄を言い出しておいて、『自分が必要だ~~』とか、斜め上なこと言ってられるのは、この資格を有していることが大きいだろうしね」

 実際に一級鑑定士の鑑定結果というだけで、国内でも国外でも信頼度が上がり、取引がスムーズになる。
 国際的に認められているこの資格を有しているハンス・ホフマンの影響力が大きいのは、宝石業界では当然とも言えるのだ。

「だろうな……まぁ、シャルロッテは、この資格以上に、もっと高度なことをしているようだがな……その辺りは実際に見て覚えるしかないな……」

 ゲオルグは、少しだけ困ったように笑った。
 そうだ、自分はまだまだなのだ。
 シャルロッテは、一級鑑定士以上の仕事を13歳から行っている。
 その仕事は、実際に行っていた前ホフマン伯爵から教えを受けたシャルロッテしかわからない。

「大丈夫でしょ? 難関資格の勉強をしながら、Sクラスの生徒代表しちゃうんだから♪」

 サフィールの能天気なセリフにゲオルグは、溜息をついた。

「……あれは、サフィールが手を抜いたからだろ? 私に気を遣ったのだろうが……」

「あはっ♪ どうだろ~~ね~~~♡」

「誤魔化すな。はぁ~~。ところで、ステーア公爵家のハワード殿が、なぜ急に学院に来たのかわかったか?」

 先程までお道化ていたサフィールの顔が、急に真剣な顔になった。

「それなんだよね……ハワードがどうして、学院に……シャルロッテ嬢が絡んでいることは間違いないとは思うんだけど……読めない男だからな。
 しかも、シャルロッテ嬢の秘書の教育まで受け持つなんて……本当に何を考えているんだ? 洗脳とかしてないといいけど……」

「そうだな。止めようにも、すでにステーア公爵家に行った後だったからな」

 ゲオルグも顎に手を当てて唸った。
 シャルロッテの秘書になるエイドという男は、正直、底が知れない。
 幼いゲオルグとシャルロッテの縁を完全に切るために、動いたという過去もある。
 
 当時のエイドの決断は、良くも悪くもゲオルグから、シャルロッテを完全に奪うことになったのだ。
 シャルロッテは、婚約者がいたのだ。あの時は、あのエイドという男の判断は正しかった。
 そんなことはわかっている。だが――それでも、ゲオルグは、あの時、自分からシャルロッテとの繋がりを完全に奪ったエイドという男の判断が、忌々しいと思っていた。

「ゲオルグ、気を付けなよ。シャルロッテ嬢の秘書は、ハワードにどんな洗脳を受けているかわからない。まぁ、エカテリーナの話では、見どころのある人物みたいだけど、所詮は下働きの男だから、シャルロッテ嬢の身の回りの世話をするくらいだろうし、大きな問題はないだろうけど…なんの基礎も無い者に務まるほど、秘書とはそんなに甘いものではないからね~~」

――ただの下働きの男に秘書など務まるはずはない。――本当にそうだろうか?
 ゲオルグは、そう思い、小さく息を吐いた。

「使えなければ、追い出すだけだ。私がもっと優秀な秘書を探せばいい」

「まぁ、それがいいだろうね~~。今は、シャルロッテ嬢の心をなぐさめるためにいるのだろうから、そのうち、『使えない』って辞めさせれば、いいんじゃない?」

「そうだな……」

 ゲオルグは、手元の書類を眺めながら思った。
 シャルロッテが絶対の自信を寄せる男がどれほどの人物なのか……これは、ずっとシャルロッテの側にいたあの男への嫉妬かもしれない。

「お手並み拝見だな」

 ゲオルグは、そう呟いたのだった。






しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

処理中です...