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第九章 幸福の足音
81 お披露目式(4)
しおりを挟むゲオルグとエイドと、もう一度、先程までいたノイーズ公爵家の控室に入った。
そこで私は、ゲオルグにビアンカ様との話の内容を報告した。
「……協力が得られたのか……」
「ええ」
ゲオルグは、ほっとしたような顔をしていた。
「ゲオルグ様、そちらは?」
エイドが尋ねると、ゲオルグが私に、真剣な顔をしながら言った。
「ああ。シャルロッテ、落ち着いて聞いてくれ。ハンス殿が、騎士として警備に来ている」
「え……騎士? 学院は?」
「辞めた、と言っていた。現在は、第3部隊の副隊長に任命されているらしい」
「……え? 凄い……」
ハンスが騎士に?
しかも、学院を辞めてまで?
それほどまでに、ハンスは騎士になりたかったの?
しかも、もう副隊長になった?
確かに最近のハンスは、学生の乗馬、剣の大会では、もう何年も優勝し、一般の大会でも、乗馬では、騎士を押さえて優勝し、剣でも上位に入賞していた。大会の優勝歴だけで、そこまでの地位になるのか、私にはわからないが、凄いということだけは確かだ。
「追い出そうとも思ったが、今日は庭の警備を担当すると言っていたので、様子を見ることにした。下手に騒いで、シャルロッテとあの男との関係を、他に探られる訳にもいかないからな」
ゲオルグの言葉に、私は慌てて声を上げた。
「追い出すだなんて!! 仕事で来られているのなら、邪魔はしたくない……。
それに……学院を辞めてまで騎士に成りたかったのだと思うと……応援したいって……。
実は……私、ずっとハンス……様が、乗馬や剣に夢中になるのが、怖いと思って……いつも心から応援できなかった……でも今なら、心から応援できる」
これは、綺麗ごとでもなく、強がりでもない、今の私の本心だった。
ハンスの才能を心から凄いと思い、応援したいと思った。
「お嬢は、本当にお優しいですね……」
エイドが困ったように笑いながら言った。
「ふっ、それに何かあっても、もう、シャルロッテの側を離れないから」
ゲオルグが懐中時計を開くと、私に手を差し出した。
「さぁ、時間だ。行こうか、シャルロッテ」
「ええ」
私は、ゲオルグの手を取った。
ビアンカ様と話をしている間にお披露目式の始まる時間になっていたようだ。
3人で、お披露目式の会場の前まで来ると、エイドが少しだけ心配そうな顔で言った。
「では、私は先に会場で待っています」
「ええ」
エイドを見送ると、私は息を吐いた。
「緊張するか?」
「ええ、緊張するわ」
するとゲオルグが柔らかく笑うと、私の手を取り、手袋の上からキスをした。
手袋越しでもゲオルグの唇の感触が伝わってきて、私は先程まで感じていた緊張ではなく、別の意味で心臓が早くなり、驚いて顔を上げた。
「少し緊張が取れたようだな……でも、その顔は、誰にも見せたくないな……」
私は、なんとなく余裕のあるゲオルグに、モヤモヤとした不思議な感情を持ってしまった。
「ゲオルグは……慣れているのね」
「慣れてはいない。女性をエスコートするのは、姉上以外では初めてだ。
だが……シャルロッテの隣に立てるのだ。どうしても緊張より、嬉しさが勝ってしまう」
「え?」
私がゲオルグを見上げると、ゲオルグは本当に嬉しそうな顔で笑った。
ずるい……と、なぜだか、そう思ってしまった。
「そろそろお時間です。扉を開きます」
「ああ」
執事に声をかけられて、私は気持ちを落ち着かせるように息を吐いた。
いよいよ、お披露目式が始まる。私は、ゲオルグを見上げながら言った。
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
優しく微笑むゲオルグ見て、私の心が軽くなった。
そして、扉が開いて、私はゲオルグにエスコートをされながら、たくさんのお客様の前に出たのだった。
☆==☆==
ランゲ侯爵のあいさつと、ゲオルグのあいさつ。
そして、私の紹介とあいさつが終わると、舞踏会が始まった。
「はぁ~~~緊張したわ」
「そうか? そうは見えなかった。見事なあいさつだった」
ゲオルグと話をしていると、エイドが近づいて来た。
「シャルロッテ様、見事なあいさつでしたね」
「ありがとうエイド」
私は、ようやく会場内をゆっくりと見渡せる余裕が出てきた。
すると会場内に、多くの男性が集まっている場所があった。
何かと思って見ていると、エマが男性に囲まれていた。
「ねぇ、エイド、エマ大丈夫かしら?」
エイドも困ったように言った。
「あ~~あれは……助けた方がいいかもしれませんねぇ」
エイドが動こうとした時。ピタリと動きを止めた。
「大丈夫みたいです」
「え?」
エイドが助けに行かないことを、不思議に思っていると、エイドが私を見て微笑んだ。
「ご挨拶に行きましょう。ゲオルグ様、やはり始めは、サフィール王子殿下でしょうか?」
「いや、サフィール王子殿下は父上とお話中だ」
ゲオルグが小声で答えた。
「では、ミーヌ侯爵ですか?」
「ああ、そうだな。初代の管理者だからな、ミーヌ侯爵の元へ向かおう、シャルロッテ、行こうか」
「え、ええ」
私はエマのことを、心配しながらもミーヌ侯爵の元に向かったのだった。
☆==☆==
「どちらのお嬢様ですか? 私は、エラベルト伯爵子息のガランドと申します」
「貴殿、私が先に彼女にお声がけしたのだ」
エマの周りには、たくさんの貴族の子息が集まっていた。
エマは、パーティーの参加は初めてだった。
ウェーバー子爵は、パーティーを主催するような方ではないので、パーティーの裏方としても参加したことはない。
マナーの本で、殿方のお誘いを断る方法も学んでいたが、これほどの人数を同時に断る方法は学んでいない。
やはり自分は、まだまだ知るべきことが多いと、エマが自分を省みていると、急にざわざわとしたかと思えば、まるで道が出来るように、人が動き出した。
エマが驚いて顔を上げると、ハワードがこちらに向かって、歩いて来て、エマに手を差し出した。
「よくお似合いですね。どうです? 私の選んだドレス、気に入って頂けましたか?」
ハワードの言葉を聞いて、さらに周りがざわざわとした。
「ハワード殿がドレスを贈った?」
「つまり、もう彼女は……」
「ステーア公爵子息のお手付き」
エマは、周りの反応から見て、どうやら、ハワードは、自分を助けてくれるらしいということを悟った。
「ハワード……様。この度は、素晴らしいドレスをご用意して頂き光栄にございます」
エマが頭を下げると、ハワードが優雅に手を差し出した。
「踊りませんか?」
エマは、正直、気は乗らなかったが、ここで見知らぬ男性に囲まれているよりはいいと思い、消去法でハワードの手を取った。
「喜んで」
そして、エマはハワードの手を取ると、皆がダンスをするホールに向かった。
「良く似合ってるじゃないか」
ハワードがエマの耳元で囁くように言った。
「派手過ぎ。おかげで目立ったじゃない」
エマも小声で答えた。
「ふふふ、目立ったのは、ドレスのせいではないがな。ところで、ダンスも上手いんだな」
「エイドと昔から練習してたから」
「なるほどな」
ダンスが終わると、ハワードは素早く、エマをテラスに連れ出した。
「ここなら、休めるだろ?」
「そうね……お嬢様のご挨拶はしっかり聞けたしね」
嬉しそうに笑ったエマの顔を見ながら、ハワードが真剣な顔をしながら言った。
「なあ~エマ。私のところに……嫁に来ないか?」
「エイドに振られたから、私で妥協してるの?」
「はぁ? エイドは、ビジネスパートナー! エマは、嫁!! 妻!!」
「私、平民だけど?」
エマの言葉に、ハワードが答えた。
「ウェーバー子爵家に養子に入れよ。大好きなお嬢様と、本当の姉妹になれるぞ? あの子爵殿なら、喜んでお前を、娘にするだろうしな……」
ハワードは手すりに身体をもたれさせながら、目を細めた。
するとエマは、自分の手を握りしめながら言った。
「お嬢様と姉妹になれるのは……嬉しいけど……。
エイドが……兄さんが、一人ぼっちになる。
だから、私じゃなくて、もっとハワードにふさわしい別の人と……」
エマの言葉の途中で、ハワードがエマを抱きしめた。
「好きなんだよ。昔から!! お前以外の女になんて興味ない。だから、エマが結婚してくれないと、私の子は残せない。いいのか? ステーア公爵家の外交担当の私の血が途絶えるぞ?」
「質の悪い脅しは止めて……本当に腹黒いんだから……」
ハワードはエマを抱きしめる腕に力を入れた。
「エマが手に入るなら、なんでもやる。
どうしようもなく、好きなんだよ……エマ以外の女なんて……無理だ」
「……シャロン様をSクラスに入れるまでは、考えられない。それに……今の兄さんを、まだ一人にはできない……」
エマは、ハワードの胸の中で呟くように言った。
「待つさ、そのくらい。何年待ったと思っているんだ。
それに……エイド……あいつも、いい加減……過去の檻から出られれば、いいのにな……」
ハワードもエマを抱きしめたまま、夜空を見ながら呟いたのだった。
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