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35 サミュエルside1
しおりを挟むサミュエルside1
小さい頃から負けず嫌いだった。
侯爵家の3男に生まれた私は、いつも年上の兄には敵わなかった。
1番目の兄とは7つ違い。
2番目の兄とは6つ違い。
上の2人の兄はお互いをライバルで親友というような関係を築いていた。
だが年の離れた私はいつも蚊帳の外に置かれた。
私はいつか追いつきたいと、学問も剣術も乗馬の懸命に励んだ。
だが・・幼い頃の年の差を埋めることはできなかった。
私は兄と比べれることから解放されたかった。
もうすぐ5歳になるという時に、現王妃様と、その時のご学友のご令嬢の方による音楽会が開かれることになった。
侯爵である父はその音楽会に招待されていた。
本来なら母か、兄が出席するのだろうが、母は病で亡くなり、1番上の兄と2番目の兄はそれぞれ用があって出席出来なかったらしく、4歳の私が父と出席することになった。
当時、音楽など全く興味がなかったので、面倒だったが侯爵家として義務感だけで出席した。
だが、そう思っていたのも演奏を聞くまでだった。
現王妃様(当時は伯爵令嬢)のピアノは本当に美しかったし、エリックの母である(当時は王女様)公爵夫人のチェロも美しかった。
だが、私が一番夢中になったのは、ヴァイオリンの音色だった。
まるでこの世のものとは思えない音色に時が経つのも忘れて夢中になっていた。
演奏が終わった後に、演奏者が会場の外に立ってくれていた。
私は迷わずヴァイオリンを演奏していた令嬢の元に走った。
4歳としては落ち着きの足りない行為だが、その時の私は夢中だった。
「待て!」という父の言葉を振り切って、その令嬢の前に立った。
「私にヴァイオリンを教えて下さい。」
父が追いついて来て、頭を下げた。
「大変失礼致しました。」
すると、その女性は「いえ。」と父に向かってにっこり笑うと、私と目線を合わせてくれた。
「ヴァイオリンを弾いてみたいの?」
彼女の問いかけに、今思えば愚かなことを言ったと、反省しているがその時の私は必死だった。
「私は、いずれあなたのように弾きます。
だから私に、ヴァイオリンを教えて下さい。」
すると、彼女は目を大きく開け楽しそうに笑った。
「ふふふ。そっか。私のように弾くのか。
それなら教えなきゃね。
ヴァイオリンの練習、大変だよ?
私、きっびし~いよ?泣かない?辞めない?」
そう言って、私のおでこにおでこを押し付けてきた。
私は真っ赤になったが、彼女の目をじっと見つめた。
「きびしくても、例え泣いても、あなたのように弾けるようになるまで、決して辞めません。」
すると、彼女が私のおでこから顔を離して、手を出した。
「じゃあ、今日私が弾いた曲を君が弾けるようになるまで、教えるよ。頑張れ。」
「はい。」
私は差し出された彼女の手を握った。
そして、本当に彼女は私がその時彼女が弾いてた曲を弾けるようになるまで、ヴァイオリンを教えてくれた。
実は恥ずかしい話だが、ずっと先生と呼んでいたので、彼女の名前は今でもわからない。
何度か聞いたが、「あの曲が弾けたら教えてあげるね。」と言われた。
そして、やっと弾けるようになった日に、彼女が隣国からの留学生で数日後に帰国することを知らされたのだ。
彼女が帰国してから、私は彼女に習ったように練習を続けた。
私はヴァイオリンを誰にも文句を言わせずに続けるために、学問も、剣術も乗馬も懸命に頑張った。
その間に第二王子が生まれ、私は第二王子の側近のための試験に主席で合格した。
その候補の中にはエリックも選ばれていた。
側近として、ようやく本格的な教育が始まろうとしていた頃、腕試しのつもりで受けた王妃様主催の音楽コンクールでなんと優勝してしまったのだ。
私は、私にヴァイオリンを教えてくれた先生の実力が証明されたようで嬉しかった。
側近候補に選ばれた時より、剣術大会や乗馬大会で、入賞したときよりも嬉しかった。
(やっぱり、先生はヴァイオリンの天才だったんだ・・。)
私が優勝したのは、先生のおかげだと思っていた。
だからこそ彼女に教えられたというプライドにかけて、宮廷楽団のトップになれるようにと努力した。
私は側近候補を辞退して、宮廷楽団員で在りたいと父に相談した。
侯爵家から絶縁されるのも覚悟していた。
だが、父はあっさりと認めてくれた。
あっさり過ぎて怖いくらいだった。
この時ほど、3男でよかったと、神に感謝したことはなかった。
結果。最年少で宮廷楽団ヴァイオリン担当のトップになれた。
そうして、私はベルナデット様と出会ったのだ。
公爵令嬢ということで、ヴァイオリントップの私が指導することになった。
噂で聞いていたベルナデット様は我儘でとてもヴァイオリンを続けられそうになかった。
(1度か、2度で終わりだろう・・。)
久しぶりにエリックの顔でも見に行くかと、軽い気持ちでベルナデット様の元に向かった。
まず驚いたのは、彼女の持っていた楽器だった。
分数ヴァイオリンなのに、信じられないくらい素晴らしい職人の作ったヴァイオリンを手にしていた。
(ああ。ヴァイオリンを挫折したら私に譲って貰えないだろうか・・。
もったいない。)
私は心の中で、楽器の心配ばかりしていた。
意識が変わったのが、私が彼女にヴァイオリンを弾いてあげた後だった。
ヴァイオリンを弾き終わり、顔を上げると、私は思わず彼女に見とれてしまった。
そして、頭の中でかつて私を褒めてくれた先生の顔と彼女の顔が重なった。
記憶の中で、先生は『すごいわ!!もうサミュエルなら大丈夫よ。』
と言って笑った。
そして、目の前の少女は、キラキラした目で、
『すごいわ!!私も先生のように弾きたいです。
私にヴァイオリンを教えて下さい。』
と言った。
どこかで聞いたことがあるセリフに思わず笑いそうになってしまった。
『私は、いずれあなたのように弾きます。
だから私に、ヴァイオリンを教えて下さい。』
私は思わず心の中で先生に語り掛けた。
(あの日、私があなたに言ったセリフを幼い少女に言われました。
あなたにヴァイオリンを教えてもらったおかげです。
やっぱり、あなたは最高のヴァイオリニストです。)
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