我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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【クリストフ】(王妃ルート)

4 パンドラの箱

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ローベルと廊下を歩いていると、ローベルが楽しそうに笑った。

「どうされたのですか?」

私が尋ねると、美しい笑顔を向けた。

「いえ。お2人の様子が微笑ましいので。
私にも妻がおりますが、もうお2人のような初々しさはないので、懐かしく思っておりました。」
「初々しいですか?」
「ええ。」

私またその言葉に頬を染めてしまった。
すると、ローベルが困った顔をした。

「これから会う人物は、そんな初々しいベルナデット様には毒になる可能性のある人物です。
本来なら合わせたくはないのですが、演劇のことにかけて彼よりわかっている者はこの国にはおりませんので。ご了承ください。」

(え?まさか、私、キケン人物に会うのかしら???
それは怖いわ!)

私は恐る恐る舞踏家の方の待つ部屋へと向かった。



部屋に入ると、とても華やかな男性が座っていた。
目が会うと、凄い勢いで私に近づけてきた。

「初めまして、ベルナデットと申します。」

私があいさつをすると、オーバーな仕草で男性が私の手を取った。

(ひっ!!)

あまりのキラキラした男性の様子に私はつい手をひっこめそうになった。

「これはこれは、ベルナデット様。
なんとお美しい。だがしかし、それゆえに、なお嘆かわしい。
あなたはまるで、この宮廷という鳥かごに囚われてしまった哀れなカナリアのようだ!!」

その言葉にローベルが私と男性の前に入ってきた。

「不敬ですぞ!!」

すると、男性は大袈裟に肩を上げなら両手を上に向けた。

「これはこれは、申し訳ない。」

そして、男性は私を見てニヤリと笑った。

「私は以前、ベルナデット様のヴァイオリンを拝聴したことがございます。
この世のものとは思えぬ程の、美しい音色。
それでいて、聴くものを恐怖に陥れる絶望の表現。
全てが素晴らしかった。
私を含め、聴衆は一瞬であなたの虜になりました。」

「それは、ありがとうございます。」

褒められたのは嬉しかったのでお礼を伝えた。
すると男性は目を細めた。

「しかし、あなたの演奏は王宮に閉じ込められてしまった。」
「え・・・。」

私は思わず男性を見つめた。
男性も私に真剣な表情を見せた。

「学院をご卒業されてから一度でもあなたのヴァイオリンがその音色を聴衆に聴かせる機会はありましたか?」
「・・・・いえ。」

そうだ。
そうなのだ。
あれから私はヴァイオリンを毎日練習はしていたが、人前で弾く機会は一度もなかった。
学院に在籍していた頃は、学院のお客様や、国の外交の懇談会の場や、教会や孤児院など、ありとあらゆる場面で演奏させて貰った。
だが、クリスと結婚が決まり、王宮に入ってからというもの私は一度もヴァイオリンを練習以外で奏でたことはなかった。


男性が鋭い目つきで私を見ていた。

「あなたは主席で王立音楽芸術学院をご卒業されたとお聞きしました。
しかも、あのヴァイオリンの天才である学長、自ら技術を教えた秘蔵っ子だとも。
ベルナデット様。なぜあなたは、ヴァイオリンを手放してしまわれたのですか?」

私はその言葉に目の前が暗くなるのを感じた。

ローベルが、鋭い目つきで男性を睨んだ。

「いくら貴殿とて、無礼であるぞ。」

すると、男性がローベルを見た。

「私は今、ベルナデット様とお話中です。
その話を遮るなどと、あなたの方が不敬ではありませんか?
ローベル殿?」

「くっ!!」ローベルが鋭く男性を睨みながら口を閉じた。
そして、男性は私の方を真っすぐ見た。

私は震える声でやっとの思いで声を出した。

「手放しては・・・おりません。」

手放してはいない。
練習だって欠かさずしている。
以前ほど時間は取れていないが、まだ以前のように演奏できる。
ヴァイオリンだって欠かさずメンテナンスしている。

そう・・手放してはいない。
手放してはいないはずだ・・。

男性が射貫くような瞳で私を見た。

「ベルナデット様。
私のようにあなたの演奏の虜になった者にとって、あなたの演奏を聴くことはもはや生き甲斐なのです。
ベルナデット様が否定されても、あなたが表に出てきてくれないのなら、私のようにあなたの演奏に焦がれる者にとってはあなたはヴァイオリンを手放されたのと同じことです。」


私はその言葉に衝撃を受けて、しばらくその場から動けなくなった。

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