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【エリック】(真相ルート)

9 エリックside3

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 それから私は陰ながらベルを支え続けた。
 ベルへの想いが日に日に強くなって行く中、私はベルと街に出かけることになった。

 文具店を共に訪れた後、話をするとベルがとても聡明なことに気づいた。

(今で共に暮らしていたが、気が付かなかった。だが……これは王女の器かもしれない)

 民のこと考えるベルはとても輝いていた。
 私は何度もベルに女王の娘であることを伝えたいと思った。
 だが、まだ暗殺される可能性はあるし、セドリックから隣国との国境付近の検問を強化したとの連絡を受けたとはいえどこに間者がいるのかわからない。

(ベルに真実を話たい……だが……)

 私はベルと向かいったテーブルの下で拳を握った。

 そしてその日の終わりに、ベルが殿下のために宝石を買いたいと言い出した。

(他の男に宝石を贈るなど!!!)

 私は今にも嫉妬と怒りで理性を保つのが限界だった。
 だがそこでベルの瞳の色と同じ色の宝石を見つけた。
 日の光の中で懸命に努力する彼女の瞳のようで、その宝石を見ると少しだけ落ち着けた。

(そうだ……私は彼女の選択を待つのだ)

 私はそれをいつでも目に入るようにカフスにした。
 いつか私も堂々をベルに宝石を贈れるようになることを祈って……。

+++++

 ベルが殿下に宝石を渡した日……ベルは高熱にうなされた。
 私はすぐにベルを屋敷に連れ帰った。

 馬車の中でベルは苦しそうに眉を寄せて唸っていた。

「う……はぁ……」

 私はどうすることも出来ずにひたすらベルの手を握った。
 そして、数年前にベルが高熱を出したことを思い出した。
 その時のベルはうわ言のようにセドリックの名前を呼んでいた。

 私がそのことを思い出して胸を痛めていると、ベルがうなされながら口を開いた。

「……お……にい……さ……ま」

 私は思わずベルの顔をじっと見た。

(今、お兄様と!! ……私を呼んだのか?!)

 そう思うともう止まらなかった。
 気が付くと私はベルの唇に何度も自分の唇を重ねていた。

 そして、私は屋敷についてベルを寝かせると、ベットの横でブリジット様とトリスタン叔父上に手紙を書いた。
 元々ベルナデットを音楽学院に入学させることは音楽を重視しているレアリテ王宮に入る可能性があると見なされ暗殺の危険度が上がるために却下されていた。
 だがベルは絶対に音楽学院に入ると言い出すと思えたし、あれほど夢中になっている音楽の道を選ばせてあげたいと思った。
 私は、2人に私が絶対に側を離れないことを約束する手紙を書いた。

結果……それからすぐにトリスタン叔父上が駆けつけ、ベルナデットの音楽学院入学が認められた。

+++++

ベルと叔父上が初めて対面した日、私は父とトリスタン叔父上に呼ばれた。

「エリック……学院に入学するまで隣国に行って王配についての勉強をする気はあるか?」

「いいのですか?!」

 父の言葉に私はすぐに思わず大きな声を上げていた。

「ただ……もし、ベルナデットがお前を選ばなかった場合は無駄になってしまうのだが」

 父が私を試すように真剣な眼差しを向けてきた。

「問題ありません。王配について学ぶ機会があるのなら精進致します」

 私が力強く言うと、トリスタン叔父上が申し訳なさそうに言った。

「すまない……エリック。君にはベルを守ってもらっているのに……」

「いえ。私がしたくてしていることです」

 私が叔父上を真っすぐに見つめると叔父上が切なそうな笑顔を見せた。

「そうか……ありがとう。では向こうで課題を出し、こちらで学ぶということで、音楽学院入学までに定期的に我が国に来てくれるかい?」

「はい」

 それから私は、王配教育と音楽学院入学試験の勉強に追われることになったのだ。

+++++


 数年後……。

 音楽学院も残すところ1年となったある日、私は父の代理で王宮の父の執務室で執務をしていた。
 すると誰かが尋ねて来た。

「これはエリック様。ごきげんよう」

 入ってきたのは、レアリテ国で親しくなったリトア公爵家のルーカスだった。

「ああ、ルーカスか? どうした?」

 私は執務の手を止めてルーカスを見た。

「ちょっとキナ臭い話を聞いてね」

「なんだ?」

 ルーカスは隣国に留学していたので向こうで知り合った。
 この男はかなり顔が広く情報もかなり正確だった。
 私は急いでソファーに移動するとルーカスの話を聞くことにした。

「ラジュル国の王女と王配教育を受けているエリックの婚姻話が一部で浮上している」

「なんだと?!」

 私は目の前が暗くなってしまった。

「冗談じゃない!! 私はベルの王配になるために努力しているんだ!!」

「まぁ、私も何かの間違いだとは思ったんだが……先方から王女様の嫁ぎ先について打診があったらしくかなり慌てているようだぞ?」

 クリストフ殿下には表向きには婚約者のベルがいる。そうなるとラジュル国の王女の相手はこの国の筆頭公爵である私ということになる。

「どうして……運命とはこうも残酷なのだ!!」

 私が運命の残酷さに絶望していると、ルーカスがニヤリと笑った。
 
「エリック、運命とやらに抗ってみるか?」

「何が言いたいんだ?」

 私は眉を寄せた。

「クリストフ殿下とエリックの立場を逆転させる」

「そんなこと……」

「聞けば、あちらの王女様は出来るタイプの男性が好みらしい。そこでラジュル国の外交をクリストフ殿下に任せる。陛下や殿下には経験を積むためと言えば誰も文句は言わないだろうしな」

 ここ数年でクリストフ殿下の外交手腕には高い評価が集まっている。
 もし、大国であるラジュル国の王女の方からクリストフ殿下との婚姻を望めば、ベルの正体を知っている陛下は快く王女をクリストフ殿下の王妃に迎えるだろう。
 私はすぐに上着を羽織った。

「感謝する!! ルーカス!!」

「この礼はいずれ請求するな」

「怖いな……だが恩にきる」

 それから私はクリストフ殿下が外交の窓口になってもらえるように手を回した。
 そして私はクリストフ殿下の手腕に相手の王女が惚れてくれるように賭けに出たのだった。
 
 その出来事があった1ヵ月後にブリジット様の即位が決まった。
 ようやく暗躍していた貴族連中をあぶり出せたようで、2人はほっとしたいた。
 そのタイミングで隣国から、将来王女になる可能性のあるベルの音楽性を向上させるために未来の宰相を約束されたコンラッドがこの国にやってきた。

 コンラッドは「学長の指導のおかげで基礎は問題ありませんので、更なる高みを目指し指導します」と、ことあるごとにベルと組んでベルの音楽指導をしていた。
 そのせいもあってベルの音楽はそれから恐ろしいほどに洗練されていったのだった。

だが、その頃の私の心は不安ですでに限界が近かった。


もし、ベルが私以外を選んだら……。

もし、ラジュル国の王女を娶ることになったら……。



ーー……これから先ベルと共に歩めなかったら。


 私は苦しくて不安で、心が死んでしまいそうだった。
 苦しくなった私は、等々自分から動いてしまった……。

 月夜に1人チェロを弾いた。
 
 もうチェロに頼るしか私には手段がなかった。
 ベルへの溢れ出る想いを全て音色にのせた。


ガタッ。


 小さく音がしてベルが来てくれたことを悟った。
 チェロを弾き終え、月を眺める彼女の横顔を見るとまるで私の前から消えてしまいそうで居ても立っても居られない衝動にかられた。

 気が付くと私は後ろからベルを抱きしめて禁断のセリフを呟いてしまった。



ーー……愛している。



その言葉に嘘偽りはない。

だが……。

『卒業したら全てを話そう』そう言っていた皆との約束を考えると私は今想いを告げるべきではなかったかもしれないという罪悪感を感じていた。

あの夜からずっと……。

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