7年目の本気

NADIA 川上

文字の大きさ
114 / 124
第2章 東京編

ジゼル 初日

しおりを挟む
 土壇場のWキャスト配役と主役・九条勇人の
 熱愛肯定宣言が良くも悪くも話題を集め、
 ミュージカル『ジゼル』初日のチケット売り上げは
 WDCでも歴代2位を記録した。

 会場となるWDC大ホール前の通りは、
 通常の2倍の行列整理スタッフを投入しなければ
 いけない程、チケット(当日券)を求める人々で
 ごった返し、時間が過ぎるごとにその数は確実に
 増えていった。


 出入口全てのガラス扉に
 「ジゼル」(藍子バージョン)の
 ポスターが貼り出される。
 そして、本日初日という大文字。

 全てのチケット売り場窓口へ、
 早くも「本日分完売」のプレートが出された。



 大ホール・ステージ幕内

 さっきまで出演者一同によるバーレッスンが
 行われていて。
 今は各出演者も裏方スタッフも直前の
 ウォ-ミングアップと総チェックで大忙しだ。


 チケットの売れ行き通り
 客席は開場数分後には満席になり、
 初日のみのファンサービスとして、
 可能な限り立ち見客も受け入れられ、
 場内は文字通り大入り満員の大盛況と
 なっている。


 ステージ幕内では、
 各々が開演へ向け自分達のポジションに着いて、
 静かにその時を待つ。


 裏方スタッフのベルボーイが告げながら
 小走りに去っていく。


『まもなく2ベル入りまぁす』


 勇人はちょっとイライラした様子で
 楽屋の方を見つつ。


「ったく、藍子の奴メイク直しに
 何十分かける気だっ?!」


 アカデミー(団附属のバレエ学校)から
 特待生としてコールド・バレエ(群舞)で
 特別参加の大地が言う。


「オレ、呼んでくるよ」



 さっきのベルボーイがここでも
 <2ベル入りまぁす>と叫びながら、
 走り去って行った。
  
 それと入れ違いでやって来た大地が、
 藍子の楽屋のドアをノックする。


「藍子さん? そろそろ開演だけど」


 室内から藍子の声。


『ハ~イ、すぐ行きます』




 その楽屋の中――――


 メイクと衣装の最終チェックを鏡で見ながら済ませ、
 すぐ出て行こうとしてまだ素足な事に気がつく。


「!ったくもう――落ち着け、私……何てことないわ、
 いつもの稽古の延長よ……だから、落ち着け……」


 ドレッサーの足元へ置いてあるトウシューズに足を
 入れたその時!
 鋭い激痛に貫かれ、その足を庇うようにその場へ
 座りこむ。
 慎重にそのトウシューズを脱ぐと、割れたガラス片が
 数個シューズの裏へ突き刺さっており、それが藍子の
 足裏をかなり深く傷つけている。

 外廊下で<1ベル入りま~す>の声。
 再びドアがノックされ大地の声も藍子を急かす。






 ステージ幕内 ~ 上手

 板付き(初めからステージ上の定位置にいる)
 出演者達及びオーケストラピットの
 プレイヤー(演奏家)達もスタンバイ完了し。

  
 客席側に開演を知らせるベルが鳴り、
 アナウンスも観客達に着席を促す。

 エディ達出番待ちの出演者のいるステージ上手へ
 やっと藍子が現れた。


「お前、おっせぇよ」

「ごめんなさい。
 シューズがなかなか見付からなくて」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...