7年目の本気

NADIA 川上

文字の大きさ
122 / 124
第2章 東京編

★ もう、あなただけしか見えない

しおりを挟む
 社会的地位は、匡煌の方が上でも
 今夜の彼はいち招待客にすぎない。
 それに対し和巴は、急場しのぎの代役といえど、
 主役を演じたダンサーなのだ。
 
 主役抜きでパーティーは成り立たない。

 パーティー会場に戻り、次々と群がってくる人々を
 懸命にこなし取り急ぎの挨拶だけ残した和巴は、
 約束の駐車場で匡煌と落ち合いホテルを後に
 していた。


 車内は無音で、ラジオや音楽どころか会話もない。

 それでも、車窓を流れゆく夜に浮かぶライトを
 見ていると周囲の事など考えられなくなっていく。

 何故自分は今ここにいるのか。

 何故匡煌はあそこにいたのか。

 1人で考えても答えなど出ない疑問が
 頭の中で堂々巡りとなる。

 解るわけなどない。

 今までも匡煌との関係や行動について
 明確な答えなど出せた事がないのだ。

 なんとも無駄な事をしていると、
 窓に映る己の影に向け苦笑が漏れる。

 そうしているうちに連れてこられたのは、
 パーティー会場であったホテルから
 歩いてでも行ける距離にある高級ホテルであった。

 既にチェックイン済みだったらしく、
 フロントはスルーしてそのままエレベーターへ。



「今日の公演を地方から観劇しに来た客でスウィートは
 満室だった。すまん」
 

 ワンルームにベッドとソファーセットのある
 ダブルルームは意外と広々している。


「どうしてあなたが謝るの? スウィートなんかじゃ
 なくたってヤる事は出来るよ」
 
「ハハハ ――ッ、そりゃそうだ」

 
 ぼんやりと匡煌の後に続き彼がスーツのジャケットを
 脱ぐのをただ見ていると、
 ようやく和巴を振り返った彼は唇の端をつり上げて
 見せた。


「どうした? 
 めかし込んでるから脱がして欲しいのか?」

「べ、べつに。そういう訳じゃ……。
 脱ぎます(脱げばいいんでしょ)」
 
 
 からかうような匡煌の言葉にカッと
 顔が熱くなるのを感じる。

 和巴自身このような格好をするのが
 久しぶりであれば、匡煌の前でそうあるのは
 おそらく初めてだ。

 彼が言うように『めかし込んでいる』というのが
 今更照れくさくなり、咄嗟に背を向けた。

 どうせやる事はひとつで、それに衣類は必要ない。

 結局は脱ぐのだからさっさとそうしてしまえば良い。

 ジャケットのボタンを外し、飾りも取る。

 それをテーブルに置いて背中のファスナーに
 手を掛けた時、不意に和巴は背中に熱を感じた。


「続きは俺が ――」

「匡煌……」


 前に回り込んだ匡煌に軽く抱き締められ、
 包み込まれるようファスナーに触れられる。

 匡煌の熱い吐息が耳元にかかるとそれだけで
 身体の芯に熱が灯り、
 余計な事など一切考えられなくなる。

 ツ ツ ツ ツ ツ ツゥ ――――
 
 ファスナーの下ろされる音がいやに大きく聞こえる

 匡煌は肩口からはだけたドレスを床へ落とすと、
 自分の熱い唇を和巴の肩口へ這わせながら
 スリップの肩紐もゆっくり外した。

 匡煌の腕。

 その腕の逞しさと、体中で感じる彼の鼓動。

 耳元で響く優しい彼の声。

 この腕や胸に抱かれ、この声で甘く囁かれる。

 それがもう自分1人の男じゃないとしても、
 他人(ひと)の婚約者、でも、
 一度火のついた欲情は止められない。


「匡煌」


 その面もちをじっと見つめ、
 和巴は彼の後頭部に腕を伸ばして引き寄せながら、
 背伸びをしその唇を奪った。

 やりたかったからだと匡煌が言うなら、
 早くやれば良い。

 和巴もまたやりたかったのだから、
 まどろっこしく脱衣などしていられない。


「お、おまえ……」

「あ ――、や……んっ」


 薄い匡煌の唇を啄み、
 舌先で彼の口内へ進入する。

 荒くなる呼吸を繰り返しながら舌を絡めようと
 すると、しかし匡煌は容易にそれを許しては
 くれなかった。


「ぁ……」

「積極的なのも良いが、自分で蒔いた種だってぇのを
 忘れるな」

「え ―― っ……あ」


 匡煌の両手が和巴の腰に巻き付き、
 さらにグイっと引き寄せられ、
 匡煌が和巴の唇を奪った。

 和巴のキスとはまるで違う荒々しいそれは、
 けれど決して奪われているばかりだとは思わない。

 奪われ、そして与えられている。

 和巴の口内を蹂躙されれば、
 瞼を持ち上げている事も、
 唾液を飲み込む事も出来なくなっていた。


「っふ……ん ――」


 無意識のうちに匡煌の背に回っていた
 和巴の腕に力がこもる。

 抱きつくよりもしがみつくと表したいそれは、
 彼に捕まっていなければ立っていられないからだ。

 匡煌のキスは大好きだ。

 それだけで十分、
 身体の中心へと熱が集まってゆくとはっきりと解る。

 もう、和巴が身に着けているのは、
 ピンクのブラだけ。

 その薄い布地の下では痛いほどに尖った乳*が
 疼いている。

 辛い。

 ただキスを繰り返すだけでは、
 立っているのも身体に溜まった欲望も
 辛くて仕方がない。


「んっ ―― 匡煌、もう」

「どうした? キスだけでいっちまうってか?」

「もうっ ―― いけず」


「和巴、もう、どうなっても文句は言わせねぇからな」

「……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...