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NADIA 川上

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小さな恋の物語 ・ 慎之介&ジェイク編

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  滞在初日にして無断外泊をかました大地が、
  まさか! 
  相思相愛の彼女、しかし許婚もいる彼女と
  超えてはいけない一線を超えてしまった、
  などとは、夢にも思わず。

 
  ジェイクはスマホの着信音で目が覚め、
  「もしもし?」少々寝ぼけ眼で出ると、
  『おはよう。今日もよく眠れたか?』

  ジェイクは笑いながら答える。


「おはよ……昨夜は誰かの声聞きながら寝たから
 ぐっすり眠れたよ」

『そうか。それは良かった』

「で、何時にアパートを出るの?」

『あぁ、10時前には出ようと思ってる。飛行機に
 乗る前1度電話する。で、せっかくだから、そっち
 じゃ泊まりで旅行にでも行くか?』

「旅行?」


  一気に頭の中が覚醒し、電話の相手 ――
  慎之介に聞き返す。


『あまり遠出は出来ないが、行きたい所ピックアップ
 しておけ』

「ホント? でも、どこも夏季休暇で空いてないかも。
 ホテルでゆっくりでもいいよ」


  もうすぐ訪れる恋人との逢瀬に思いを馳せ、
  薄く微笑む。


『せっかくジェイと一緒に居られるのにホテルだけだと
 もったいない!』

「ははは ―― でも、ホテルの方が2人っきり、
 誰にも邪魔されないよ? ゆっくりと過ごせる
 と思うけど。それに……」

『……それに?』

「……ホテルの方が、声も思いっきり出せるし……」

『エッチだな、何をしようとしてるんだ?』


  慎之介が楽しそうに笑い、ジェイクも笑う。


「慎さんと同じ事だよ」

『俺は健全なことしか考えてないぞー?』

「嘘ばっか……」


  声を出して笑い、会話の内容を国枝の皆んなに
  聞かれないよう思う存分愛の言葉を囁き合って
  電話を切る。

  少し赤くなった頬を擦りながら階下のお茶の間に
  下りると、朝茶を飲んでいたあつしが笑った。


「おはよ。楽しそうに話してたな? 顔が真っ赤。
 いちゃいちゃ話してたんだろー?」

「聞こえた?」

「笑い声がね。ほら、顔洗って来い。飯出来てるぞ」

「うん」



***  ***  ***



  コニーに見送られてセキュリティエリアを通過し、
  出国審査を済ませてジェイクに電話をかけた。


『もしもし?』

「今から飛行機に乗るよ」

『あと、12時間後には会えるね。楽しみ!』


  嬉しそうに笑うジェイク。


「今はまだ国枝の家?」

『うん、遥々アメリカから会いに来てくれる恋人の為に
 せっせとボディケアしてる。こんなに風呂が楽しいと
 思うのは生まれて初めてだ』

「そう。それは良かった」


  慎之介は笑いながら免税店を物色する。


『こっちに着くのは朝だからな。きっちりと飛行機で
 眠って来いよ?来たらばっちり観光ガイドしてやる』

「はい。分かりました。ご主人様」


  古今、こちらアメリカでも日本語の認知度は
  かなり高いが。
  雑多な人種が集まるこんな場所で、いちいち他人の
  話に聞き耳を立てる暇人はいないだろう。
  それをいい事に、堂々と甘ったるい言葉で話し、
  通話を切るとジェイクへのバレンタインギフトを
  探し始めた。

  自分用の買い物ではまず入る事はない
  「ティファニー」の店舗を見つけ、
  思わず中に入る。

  自分ではどうゆう物が売れ筋商品なのか?
  てんで分からないので、店員を呼んで見繕って
  貰う。


『ハイティーンの男の子でも普段使いが出来るような
 リングを探しているんだが』  

『畏まりました、少々お待ち下さい』


  店員が提示してきた商品の中から、ジェイクが
  好きそうなデザインを見つけ、購入。
  搭乗口へと向かう。

  機内への案内は既に始まっており、
  喜々と乗り込んで席に座った。

  もうすぐだ……もうすぐ、ジェイクに会える。
  そして、また暫く会えなくなる。
  コニーに言われたよう、飽きる位までジェイクを
  堪能しよう。
  大丈夫……これが最後じゃないんだから。

  慎之介はジェイクから貰ったハンカチを握りしめて
  彼の待つ日本へ向かって動き始めた景色を眺めた。 




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