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小さな恋の物語 ・ 慎之介&ジェイク編 ②
しおりを挟む間もなく日本へ到着すると言う機内アナウンスで、
ジェイクに言われた通りに、機内でぐっすりと
睡眠をとっていた慎之介は目を覚ました。
大きく背伸びして、
窓を覗くと目下には日本の地が見える。
ごちゃちゃとしている風景も何故だか
懐かしい。
愛おしい人が自分を待っている。
それを考えると、ワクワクと胸の中がむず痒い。
きっと今頃ジェイクも、同じ気分を味わっている
かもしれない。
ジェイクの顔を見たらとりあえず「ただいま」だ。
あいつは俺の顔を見て「おかえり」って
言ってくれるかなぁ。
キスしちゃうかも……とニヤけながら準備をする。
今にでも出口に走って向かいそうな足を
押さえながら、近くに迫って来る滑走路を
眺めていた。
*** *** ***
ジェイクとて、逸る気持ちを抑え切れず随分と
早くに空港に着き、慎之介に言われた通り、
搭乗口へは行かず駐車場に止めた車の中で
その時を待っていた。
この時期、日本のワイドショーでも
株式会社”TSUMURA”の後継者問題が
話題になっている。
国枝が手を回して、ジェイクの顔だけは載せない
ようにしているが、登下校時の隠し撮り写真を
公開している週刊誌が数冊あるのだ。
自分達の知らない人間が自分達の事を知っている。
慎之介と歩きまわる事は出来ない。
いつ、祖父の耳に入るか分からないし、
自分達の関係が少しでも露呈すれば
必ず悪い事が起こる。
……それだけは避けなければいけない。
「やっぱ旅行は無理かなぁ……」
どこかへ泊まりに行きたいのだが、
日本国内はもとより海外だって
ウロウロしない方が懸命だ。
「どうせ休みだし……俺の手料理でも振る舞って
やるか? もちろんデザートも手作りで」
ふと、考える。
「ケーキ作りには粉、だよなぁ……何かに使える?」
いつの間にか”製菓”より、
「粉プレイ」を考案している事に気付き自嘲する。
「俺もアホだな……」
笑いながら車外に出て外の空気を吸っていると、
スマホに着信が入った。
画面には絵文字のハートマークで囲まれた
「しんのすけ」の文字が出ている。
通話ボタンを押し、言葉を発しようとした
ジェイクより先に、
『ただいま』
慎之介本人の声が耳元で響く。
「おかえり。慎さん」
ジェイクは微笑み、ゆっくり振り返った。
笑いながら入り込むのは後部座席。
続けて慎之介が乗り込んで車のドアを閉めた。
「運転は?」
笑いながら聞くジェイクを座席に押し倒して、
「まだしない」
ジェイクに覆いかぶさって唇を寄せ、
ジェイクも笑いながら慎之介に抱きついて
唇を重ねた。
「……んっ……っ」
息つく暇もない程深く激しく舌を追い求められ、
ジェイクも必死に慎之介に応える。
「苦し……っ……あっ……ふ……っぁ」
逃げようとするが顔を両手で包まれ動けない。
「まだ まだ……」
慎之介は何度もジェイクの舌を吸い、
その度にジェイクの身体がぶるりと痙攣をする。
「も……っ」
息も絶え絶えになりながら慎之介の肩を叩き、
ようやく解放された。
「はぁ……っ……苦しかった……っ」
紅潮した顔で慎之介を睨むが、
「久しぶりだからしょうがないだろ?」
慎之介は笑って、
軽くキスをしてジェイクを抱きしめた。
「ただいま。ハニー……おや、
もう言ってくれないのか?」
「ただいま、ダーリン ―― って、
さぶいぼ立った……」
「何で鳥肌が立つんだ? 失礼だな」
「だ、だって……恥ずかしいじゃん」
「電話では超がつく程素直なのにな」
「うるさい」
笑い合いながら再度深くキスをして
後部座席から出て運転席と助手席に座ると
「ジェイ」
「何?」
自分を見ている慎之介を見た。
「覚えてるか? 今日がお前と出会って1年目だ」
「あ ―― そうだ。その位だったね。まさかさぁ……
こんな風になるなんて想像も出来なかった」
笑って慎之介の手を握る。
「俺も……こうやってジェイと過ごせるなんて
思ってもみなかったよ……こうして、手を繋いで、
笑って……キスが出来るなんてな」
指を交互に絡め、慎之介も笑う。
「嬉しい?」
「勿論だ。嬉しすぎて……愛してる」
「変な日本語」
抱きしめてくる慎之介をジェイクも抱きしめた。
そのまま貪りあう様にキスを深く重ねる。
ずっとこのまま……このまま2人で
どこかに行ければいいのに……
そんな事は出来はしないと分かっているから
余計に熱い思いが募る。
どれ程唇を重ねていたのか分からないくらいの
長い間、互いの口中を蹂躙し続けて、
慎之介がやっと唇を離した。
「名残惜しいけど、続きは夜ね」
「おう」
本当に名残惜しそうに離れる慎之介の頬に
軽くキスをして、ジェイクは車を発進させた。
「仕事、今日は何時までの予定?」
「お得意様への挨拶回りだけだからそんなには
かからない。終わったら、ジェイに真っ先連絡
するよ」
「わかった」
「ごめんな」
その言葉に、ジェイクは笑う。
「何で謝るの?」
「せっかくの休暇なのに……」
「寂しいのは確かだけど、急に決まった出張のおかげで
こうして今会えたんだから、結果オーライだよ。
その代わり、夜になったら思いっきり甘えるからね」
「おぅ、任せておけ」
「今から夜が待ち遠しいや」
「だな!」
笑いながら手を恋人繋ぎにし、
慎之介の温もりを ―― 確かな愛情を
実感しながらジェイクは微笑んだ。
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