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NADIA 川上

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藤乃家御一行様、大阪・食い倒れめぐり

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「かに道楽の予約は何時?」


  時計を見ると、まだ午後2時過ぎだ。

  今日は月に4回ある定休日なので、これから
  藤乃家総出で”食い倒れめぐり”に向かうのだ。


「6時にしたわ。それまでは久々の道頓堀を散策!」


  忍が楽しそうに笑う。
  忍は国枝一家の長女で、東京で弁護士をしている。


「大阪なんて、何十年ぶりかねぇ」


  大女将と女将が揃って楽しそうに笑うと、


「タクシー来ましたよ!」


  元気のいい、仁美の声が聞こえた。


「タクシー? 電車じゃないの?」


  なんて豪勢なんだ! と驚くあつしに、


「たまに贅沢したってバチは当たりませんよ」


  女将が笑う。


「確かにそうですね」


  ジェイクも苦笑いし、一家との食事を楽しむべく、
  その後に迎えに来てくれる慎之介の顔を思い浮かべ
  ながら喜々とワゴンタクシーに乗り込んだ。


***  ***  ***



  小一時間で食い倒れの町、大阪は道頓堀に着き、
  女性陣達は喜々と散策を始める。


「俺も大阪って久しぶりだなぁ。お母はんも、
 ばあちゃん超嬉しそう」

「あぁ、いつも家とお茶屋の往復だからね。そういえば
 人一倍食いしん坊だったじいちゃんとのデートは
 いつも食い倒れだったって聞いたよ。懐かしいんと
 ちゃう」


  ジェイクとあつしは祖母と母の楽しそうな
  後姿を見ながら笑った。


「だろうなぁ。母さんもプライベートじゃ久しぶり
 だろうし」

「女の買い物は長いからさ。どっかでお茶する?」

「賛成」


  2人は女性陣に声をかけて、
  近くの喫茶店へと入った。

  舌を噛みそうな横文字のメニュー名が並ぶような
  今時のカフェではなく、昔ながらの懐かしい雰囲気
  漂う、レトロな喫茶店だ。

  2人は本日のお薦めケーキとアップルティーを
  注文し、席に落ち着いた。

  が、数分後、ちょっとした異変に眉をひそめる。


「ね、あつし、気のせいかな? 俺達かなり、
 ガン見されてるような気がするんだけど……」

「いや、気のせいなんかじゃねぇ」


  と言って、手を伸ばしジェイクの顔をこの店の
  表通りに面したショーウィンドウの方へ向けた。


「げっ ――!!」


  絶句したジェイクが見たモノは……窓辺に群がる
  女子中高生と思しき集団。
  皆、手に手に、スマホを持ってそれを店内の
  2人へ向けている。


「何、アレ……」


  その答えはジェイクとあつしの注文した
  ケーキセットを持ってきたウェイトレスが
  教えてくれた。


「ふふふ……お客さん達、関西のジャニーズJrと
 勘違いされてるみたいですよ」

「「ええーーーーっっ」」

「お2人ともとってもスマートなイケメンさんだもの。
 あ、お帰りになる前に記念写真お願いしますね」

「「…………」」


  そんな突発事件もようやく元の落ち着きを
  取り戻した頃 ――

  今度は、ダークスーツの集団がざわざわとこの店に
  入ってきた。
  さっき2人に”記念写真を”と言ったウェイトレスが
  対応してるが……


「今日はどういったご用件でしょう? あいにく
 店主は出かけてますけど」


  この集団は”招かれざる客”のようで。


「そうですか……では、近日中にもお宅の方へ
 お伺いするとご伝言願えますか。では――」


  入ってきた時と同じくざわざわと出て行った。

  カウンターの中から何かを持ち出したウェイトレス
  は、集団が出て行った後の玄関先へその何か
  ―― 塩を勢い良くバラ撒いた。


「もう2度と来るなーーっ!」


  ちょうど良く女将達からのメールが着信し、
  どうやら女性陣は先に予約の店へ向かったよう
  なので、2人も会計とウェイトレスとの約束の
  記念写真を済ませ喫茶店を後にした。


「―― な、さっきの連中……」

「ん、TSUMURA本社の営業部の人達だった」

「本社がこんなとこに何の用だったんだ?」

「さぁね……でも、あれだけの大人数を動かすと
 となると、お父さんだけじゃなく絶対お祖父ちゃんも
 絡んでるハズ。マズい事が起こらないといいけど」 

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