恋のリハビリ ~ 曖昧な関係に終止符を

NADIA 川上

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序章

アラサー男子も夢想する

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 妙齢の青年がうっとりとした表情で呟く


「あぁ ―― 貴方の瞳の中に俺が見える……」


 一瞬キス顔で瞼を閉じてからゆっくり開き
 鏡の中に映った自分の顔をまじまじと見ながら
 指差し確認。


「―― 洗顔よし。眉毛よし。リップクリームよし。
 (ぐふふ……と含み笑い)体よし。体調よしっ。
 鏡よ 鏡よ 鏡さん、この世で一番美しいのは
 誰ずら??」

「あんたじゃあない事だけは確かやねー」


 背後から聞こえたその声は青年の母親・
 小鳥遊 富子。

 若かりし頃は祇園の上七軒で
 引く手も数多の売れっ子芸姑として
 名を馳せていた。

 今は、間口*間(けん)ほどの小料理屋を
 つましく営んでいる。

  
「う”うわぁぁ、ひっどぉぉい……で、でも、
 判ってますよー、なんせ俺はお父さんの方のDNA
 多く受け継いで生まれちゃったみたいだから」

「……ねぇ、今日はどんな集まり?」


 青年は”ええっ”っと驚いた表情で
 鏡越しに母の顔を凝視した。


「だってあんた、下着ぜーんぶ新品に買えたやろ?
 洋服だって、こんな一張羅のスーツ着ちゃってさ。
 いっくら呑気なあんたもアラサー目前にして
 焦ったんとちゃうの? 処女よさらばって」

「露骨な表現……」

「そう ―― 女も60年やってりゃあ……で、
 いい男なん? 相手」

「お生憎様。今日のはただの頭数合わせだから」

「でもデートなんでしょ」


 青年は母から”ホレ”と投げられた小箱を
 条件反射でキャッチした。


「?? なに、コレ」

「舶来モノのめっちゃセクシーなブリーフ。
 あんたのさ、新品って言ったって、
 イチキュッパのバーゲン品やろ。
 だから三十路近くなっても処女なんだよ」

「母さぁん ―― それを言っちゃあお終いよ」

「ハイハイ……」


 と、言いつつ部屋の戸口に向かいざま青年を見て


「ねぇ」


 青年、振り向く


「いい思い出作りなね」


 母が出て行くのを感慨深げに見送り、
 早速、さっき貰った小箱の中身を取り出して
 その下着セットのセクシーさに思わず
 感嘆の声を漏らした。


「わ、お……」  


 小鳥遊 律たかなし りつ ――
 
 もうすぐアラサーに突入する崖っぷちの29才。
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