ちょい悪オヤジに恋をした

NADIA 川上

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出逢い ②

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 俺が連れて来られたのは、
 怪し気な事務所でも、ホテルでもなく、
 西武新宿駅から歩いて10分程の所にある
 古びた雑居ビル。

 その1階にあるテナント。

 彼 ―― 手嶌さんが開けたドアから中へ入れば、
 馴染み深い匂いに包まれた。


「……ここは、病院?」


 いや、規模的には”診療所”か。


 机の上にある聴診器やカルテ、
 衝立の向こうに見えるベッド。

 どれもこれも父の勤務先に行けば目にする物だ。


「正確には診療所だった場所だ」


 俺の独り言に答えてくれた手嶌さんの存在を
 すっかり忘れていた。

 ”―― だった場所”と、彼は過去形で話したが、
 聴診器も薬品棚も、それから衝立の向こうの
 ベットも、今も尚使われているような、真新しさが
 あるように見えた。

 彼は片隅にあるミニキッチンでドリップコーヒーを
 淹れながら話しを続ける。


「元医院長だった野郎がな、博打と女で大損した
 挙句とんずらかましやがったんだ」

「とんずら……」


 ドリップしたての香り立つコーヒーをマグカップに
 注ぎ、俺の分は机に置いた。


「で、お前は何なんだ」

「……は?」

「何だってあんな所でふらふらしてたんだよ」

「……自分の事、確かめたかったんだ」

「確かめる ―― って、お前ゲイなのか?」


 俺はゆっくり頭を振った。


「でも、そうなのかも知れない。どっちかって言うと
 女の子といるより同性といた方が楽しいし、友達が
 グラドルとかAKBの話題で盛り上がってても、
 全然ついていけないから」

「そいつぁ単なる好みの問題じゃねぇのか?
 それに今の時代、ゲイ・レズ・バイの境界線はかなり
 曖昧だからなぁ。男といる方が楽しいとか、女ネタに
 ついていけねぇとか程度なら、そう気に病む事は
 ないんじゃないか?」

「そう、なんですか……?」

「ま、ナンパされてぇなら、制服着てくるのはアリだな
 あそこら辺の連中はそうゆうの好きらしいから」

「ナンパとかまでは考えてなかった」

「じゃ、何しに行ったんだよ」

「ただ……誰か、相談出来る人が欲しくて……」

「さっき学生証でも見たが、その制服、私立祠堂
 学院じゃないか? あんな金持ち学校が専任の
 カウンセラーもいねぇのかよ」

「もちろんいるよ。でも、先生なんかに言ったら、
 その日のうちに親へまで連絡がいって、次の日には
 学校中の晒しモノだ。3-Sの桐沢はホモだって」

「(ため息と共に)なるほど、今時の高校生は
 えげつないね……」


 手嶌さんは胸ポケットから取り出したタバコを
 口にくわえ、ライターの火をかざしてから、
 ふっと気付いたよう、


「タバコ、いいか?」

「ええ、どうぞ」

「んじゃ、遠慮なく ――」


 と、くわえタバコに火を点け、紫煙を燻らす。


 ……ここへはほとんど強引に連れて来たのに、
 タバコは遠慮するなんて、可笑しな人だ。

 でも ―― 良く見ると……かっこいい。


「あ、あの ―― さっきは、助けてくれてありがとう
 ございました。変なこと言って、ごめんなさい」

「んー?」

「人殺し、とか、人攫いとか ――」

「あ、あぁ、テンパッてたんだろ。しょうがねぇ。
 ってか、2丁目っつても初心者向けの店が
 あるだろ。そっち行けよ、今度から」

「もちろんあります。ネットでもちゃんと調べたし。
 ”ツバキ”って店、知ってます?」

「あぁ、ちょうど2丁目と**の境にある老舗だな」

「そこへ行こうと思ってたら途中で道が判らなくなって
 あの小父さんに道を尋ねたら、ツバキなんかへ
 行くより自分が買ってあげるとか言われて、いきなり
 腕を掴まれて……」

「ハハ ―― そんなんでよく2丁目なんかへ来たな。
 無駄にチャレンジ精神だけは旺盛なんだ」

「! 無駄に、って……酷いです。怖かったのに……
 グスッ ――」

「あぁ――分かった、分かったから、泣くな」

「………」

「とにかく、てめぇの性癖確かめたいって性春のお悩み
 は分かったが、来るなら観光客も多い日曜の昼間に
 しろ。危険も減るし道にも迷い難い」

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