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成長編
円谷医院にて ―― それぞれの痛み
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手術室の前のベンチに力なく座る柾也・理玖・久子の3人。
誰の手もシャツも、真っ赤な鮮血がべっとりとついている。
絢音がナースセンターで借りてきたタオルを濡らし、順に3人の手についた血を拭っているのにも、3人は全く反応しない。
どうにか血の痕跡を拭き取り、上着を脱がせた時、ナツが駆けつけてきた。
己の両手に顔を埋めて、3人共肩を震わせる。
泣いているのか……と、絢音もナツも思ったのだが、3人の声に涙の気配はなかった。
そこにあるのはただ深い悔恨。
「……まさか、こんな事になるとは思ってもなかったから……本当にごめんなさい……」
「まりちゃんに、もしもの事があったらどうしよう……」
「縁起でもねぇ事言うなよ。和泉は大丈夫……真吾先生が診てくれてるんだから。大丈夫だ……」
そのとき廊下の向こうからカツ カツ カツ ―― 靴音が聞こえてきた。
「ナツ、絢音」
張り詰めた呼び声に、一同はハっとしてそちらを振り返る。
「あなた」
「お父さん」
「小父さん」
「茉莉江の容態は?」
その問に答えられる者はまだいない。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
そして数時間後――、
ようやく ”手術中”のライトが消えた。
大きな酸素マスクと何本ものチューブに繋がれた茉莉江が、ストレッチャで手術室から運び出されてくる。
「茉莉江……」
「まりっ!」
続いて出て来た真吾がマスクをはずしながら告げる。
「手術は成功しました。後は患者さんの体力次第です。一時は失血性のショック症状を起こし大変危険な状態になりましたが、幸い処置が早かったお陰で大事には至りませんでした。あとはさらに輸血を続け、意識が戻るのを待つしかありません」
「ありがとうございました」
絢治とナツが揃って深く頭を下げた。
「患者さんは状態が落ち着くまでは集中治療室に入ります。では、私はこれで」
真吾やスタッフ達が立ち去ると、一同は誰からともなくバラバラと集中治療室へ移動を始める。
***** ***** *****
窓辺の分厚い遮光カーテンに外光を遮られている治療室内は時間の経過を忘れさせる。
時計を見ると、もう明け方と言える頃だった。
緊急事態だとはいっても、とりあえず無事が確認出来た今。
勉強を滞らせる訳にはいかない。
高校生3人はガラス越しに茉莉江の寝顔を見つめ、彼女の傍らに寄り添っている母親に後は任せて。
学校へ登校し普段通りの日常講義をこなして、夕方、コンビニで入院生活に必要な物や滋養のつく食べ物を買って、円谷医院へ戻った。
だんだん麻酔が切れてきた。
少しずつ意識もはっきりしてきて、私は何処かの病院のベッドに寝かされている事が分かった。
恐らく三上くんから連絡を受けたのだろう。
ベッド脇にはお母さんが座り、私の手を握ってくれていた。
(って事は、ココ、円谷医院?)
あの闇医者があまりに苦しむ私に見かねて途中で放り出してしまった処置は、真吾先生が滞りなく終わらせてくれたようだ。
私のお腹の中に赤ちゃんはもう、いない……。
こんな事になる前は、”この子さえいなければ ――”って、何度も 何度も思ったのに。
今になって自分がどんなに軽率で愚かだったか身に沁みて分かった。
私が殺したも同然……。
お母さんに握られていない方の手で触れたお腹は、当然ペコンとへっこんでいて涙がどっと溢れ出た。
赤ちゃんを失ったという現実が胸を襲う。
開いていた子宮口が締まりだした為、お腹が痛くてたまらない。
だけど、そんなお腹の痛みより、心の痛みの方が何倍も大きいし辛い……。
ちゃんと産んであげられなかった私の赤ちゃん、本当にごめんなさい。
私は赤ちゃんを想って泣いた。
お腹の痛みに耐えながら、何度も何度も赤ちゃんに謝った。
そんな私を見て、お母さんも耐えられない様子で目頭を押さえている。
お母さんは握った私の手を、何度も優しく撫でてくれた。
誰の手もシャツも、真っ赤な鮮血がべっとりとついている。
絢音がナースセンターで借りてきたタオルを濡らし、順に3人の手についた血を拭っているのにも、3人は全く反応しない。
どうにか血の痕跡を拭き取り、上着を脱がせた時、ナツが駆けつけてきた。
己の両手に顔を埋めて、3人共肩を震わせる。
泣いているのか……と、絢音もナツも思ったのだが、3人の声に涙の気配はなかった。
そこにあるのはただ深い悔恨。
「……まさか、こんな事になるとは思ってもなかったから……本当にごめんなさい……」
「まりちゃんに、もしもの事があったらどうしよう……」
「縁起でもねぇ事言うなよ。和泉は大丈夫……真吾先生が診てくれてるんだから。大丈夫だ……」
そのとき廊下の向こうからカツ カツ カツ ―― 靴音が聞こえてきた。
「ナツ、絢音」
張り詰めた呼び声に、一同はハっとしてそちらを振り返る。
「あなた」
「お父さん」
「小父さん」
「茉莉江の容態は?」
その問に答えられる者はまだいない。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
そして数時間後――、
ようやく ”手術中”のライトが消えた。
大きな酸素マスクと何本ものチューブに繋がれた茉莉江が、ストレッチャで手術室から運び出されてくる。
「茉莉江……」
「まりっ!」
続いて出て来た真吾がマスクをはずしながら告げる。
「手術は成功しました。後は患者さんの体力次第です。一時は失血性のショック症状を起こし大変危険な状態になりましたが、幸い処置が早かったお陰で大事には至りませんでした。あとはさらに輸血を続け、意識が戻るのを待つしかありません」
「ありがとうございました」
絢治とナツが揃って深く頭を下げた。
「患者さんは状態が落ち着くまでは集中治療室に入ります。では、私はこれで」
真吾やスタッフ達が立ち去ると、一同は誰からともなくバラバラと集中治療室へ移動を始める。
***** ***** *****
窓辺の分厚い遮光カーテンに外光を遮られている治療室内は時間の経過を忘れさせる。
時計を見ると、もう明け方と言える頃だった。
緊急事態だとはいっても、とりあえず無事が確認出来た今。
勉強を滞らせる訳にはいかない。
高校生3人はガラス越しに茉莉江の寝顔を見つめ、彼女の傍らに寄り添っている母親に後は任せて。
学校へ登校し普段通りの日常講義をこなして、夕方、コンビニで入院生活に必要な物や滋養のつく食べ物を買って、円谷医院へ戻った。
だんだん麻酔が切れてきた。
少しずつ意識もはっきりしてきて、私は何処かの病院のベッドに寝かされている事が分かった。
恐らく三上くんから連絡を受けたのだろう。
ベッド脇にはお母さんが座り、私の手を握ってくれていた。
(って事は、ココ、円谷医院?)
あの闇医者があまりに苦しむ私に見かねて途中で放り出してしまった処置は、真吾先生が滞りなく終わらせてくれたようだ。
私のお腹の中に赤ちゃんはもう、いない……。
こんな事になる前は、”この子さえいなければ ――”って、何度も 何度も思ったのに。
今になって自分がどんなに軽率で愚かだったか身に沁みて分かった。
私が殺したも同然……。
お母さんに握られていない方の手で触れたお腹は、当然ペコンとへっこんでいて涙がどっと溢れ出た。
赤ちゃんを失ったという現実が胸を襲う。
開いていた子宮口が締まりだした為、お腹が痛くてたまらない。
だけど、そんなお腹の痛みより、心の痛みの方が何倍も大きいし辛い……。
ちゃんと産んであげられなかった私の赤ちゃん、本当にごめんなさい。
私は赤ちゃんを想って泣いた。
お腹の痛みに耐えながら、何度も何度も赤ちゃんに謝った。
そんな私を見て、お母さんも耐えられない様子で目頭を押さえている。
お母さんは握った私の手を、何度も優しく撫でてくれた。
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