夜の記録

ドルドレオン

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彼女がいなくなった。あの日、突然、全てが壊れた。くも膜下出血だと告げられた瞬間から、世界の色がすべて薄くなったような気がした。それまでの数年間が、まるで夢の中の出来事だったかのように、急に遠く感じられるようになった。

葬式の日、主人公は無感動に黒いスーツを着て、ただひたすらに時間を過ごしていた。周囲の人々の顔も、言葉も、無意味に感じられた。誰もが悲しんでいるはずなのに、主人公だけが不自然に静かで、空虚だった。

棺の前に立ち、彼女の顔を見た瞬間、涙が止まらなくなるはずだと思っていた。しかし、涙は出なかった。むしろ、涙を流すことすら忘れてしまった自分に驚いた。心のどこかで、何かが完全に壊れてしまったのだと、無理に認めようとした。

「君がいないと、どうしていいかわからないよ…」そう言いたい気持ちが胸に渦巻いたが、声が出なかった。

彼女の笑顔、あの温かな手、あの日々に確かに存在していたはずのものが、今、目の前に無くなってしまったことが、現実として受け入れられなかった。

葬式が終わった後、主人公は自分のアパートに戻った。空っぽな部屋の中で、彼女の姿はもうどこにもない。ただひたすらに、酒を開け、グラスに注いでは飲み干す。彼女が好きだった赤ワインも、もう味がしない。ひとりぼっちで、酒に溺れることしかできない自分が、無力で無意味に思えた。

「もう、どうして生きているんだろう?」そんな問いが心の中をぐるぐると回っていた。けれども答えはどこにも見つからない。目を閉じれば、彼女の笑顔が浮かぶ。しかし、その笑顔も、今はただ虚ろなものに感じられるだけだった。

アルコールを少しずつ飲み続け、時間が過ぎていく。時計の針が進むたび、彼の中の感情はますます鈍くなっていった。酒に頼ることが、唯一の安らぎのように感じられる。しかし、心のどこかで、彼女が戻ってくることは絶対にないという事実が、痛いほどに突き刺さっていた。

酔いが回るたびに、記憶が混ざり合い、鮮明であったはずの思い出がぼやけていく。彼女と過ごした時間が、まるで遠い過去のことのように感じられた。胸の奥が締め付けられるような気持ちにとらわれながらも、酒を飲むことしかできなかった。

「どうしてこんなことになってしまったんだ?」そう自問し続けても、答えは出なかった。彼女がどれほど愛してくれていたか、どれほど温かい手を差し伸べてくれたか、そして彼女と共に歩んできた道がどれほど大切だったか。全てが今、まるで嘘のように消えてしまった。

再び酒を口にしながら、主人公は一人呆然と、彼女のいない世界を生きることが、いかに辛いことなのかを痛感していた。



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