夜の記録

ドルドレオン

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主人公は再び、あの森へと足を運んだ。あの日、妖精と出会った場所に。時折風が木々を揺らす中、彼はその存在を感じ取っていた。どこか遠くから、微かな囁きが聞こえてくる。その声に導かれるように、彼は森の奥深くへと進んでいった。

そして、ふと視界の隅に、あの妖精の姿が現れた。以前と変わらぬ、透明でしなやかな姿。光の中で揺らめくように、妖精は彼を迎え入れた。

「また来たのですね。」妖精の声は、柔らかく、そしてどこか哀しげだった。「どうしたのですか? 何か心の中で、抱えていることがあるのでしょうか?」

主人公は、少しの間黙っていた。妖精の問いに対して、どう答えるべきか、しばらく考えた。心の中には、彼女を失った痛みと、死というものが常に存在していることを認識していた。彼は、深く息を吐きながら言った。

「最愛の人が死んだ。それはただの死というものではなく、私にとっては全ての意味を失うことのようだった。」彼は言葉を切りながらも、その目はどこか遠くを見つめていた。「彼女がいない世界に、どうして私は生き続けなければならないのか、わからなくなった。」

妖精は少しの間黙って、彼の話を聞いていた。そして、やがてその小さな体をそっと揺らしながら、答えた。

「人間の悲しみとは、確かに美しいものです。あなたのように、愛する者を失った痛みを持つこと、それが人生の深さを形作るのです。」妖精の目は、どこか遠くを見つめるようだった。「私たちのような存在は、ただ時の流れの中で、無限に変わりゆく世界をただ見守るだけ。それに比べて、あなた方のような生き物は、たった一度の命の中で、あらゆる感情を深く味わうことができる。悲しみも、喜びも、全てがその一瞬一瞬に詰まっている。それこそが、あなた方が持つ力なのです。」

主人公はその言葉を噛みしめるように聞いていた。心の中で、それが少しずつ響いていった。悲しみは無駄なものではないと、妖精は言っている。むしろ、悲しみを知ることこそが、命を持つ人間に与えられた最も貴重な体験なのだと。

「でも、私はその悲しみに耐えられる気がしない。」主人公は、再び言葉を続けた。「その痛みが、私を壊してしまうかもしれない。」

妖精は静かに微笑んだ。「あなたがそう思うのも無理はありません。しかし、悲しみというのは、必ずしも破壊的なものではないのです。それは、あなたがそれをどう受け入れるか、どう向き合うかにかかっています。あなたが愛し、失ったものがあるからこそ、あなたはその先に新たな意味を見出すことができる。それが人間という存在の、また一つの美しさなのです。」

主人公は黙ってその言葉を考えた。妖精の言う通りかもしれない。悲しみや痛みが全てを無駄にするのではなく、それを通じて初めて人生の深さが見えるのだと、彼は少しずつ理解し始めていた。どんなに傷つき、どれだけ心が壊れたとしても、そこに意味があるならば、それを乗り越えることが本当の生きる力なのだ。

「ありがとう。」主人公は静かに言った。「君の言葉に、少し救われた気がする。」

妖精はにっこりと微笑んで言った。「それが私の役目なのです。あなたがその悲しみを乗り越えることで、あなたの世界はきっと少しだけ美しくなります。」

主人公は深く息を吸い、空を見上げた。広がる空は青く、無限に広がっていた。何もかもが変わり、また元に戻る。その瞬間、彼は何となく悟ったような気がした。人生は、悲しみとともに生きること、そしてその中で少しでも喜びを見つけることが重要なのだと。

森の中で、彼は静かに目を閉じた。そして、ひとしきり涙を流した後、少しだけ心が軽くなったような気がした。



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